和菓子の歴史好きの人なら、「塩瀬(しおせ)」と言えば日本最古のあん入り饅頭(まんじゅう)を作った超老舗、と答える人が多いと思う。
何せ初代が室町時代に中国から帰化した林浄因(りんじょういん)で、奈良⇒京都⇒三河⇒京都⇒東京と暖簾を移し、その間に「塩瀬」と改名し、「日本第一饅頭所」の称号を受けている。
現在34代目。びっくら。饅頭に関しては歴史的には虎屋も尻尾を巻くかもしれない。
ここの目玉が「塩瀬饅頭」。一口で食べれるサイズで、米粉(上新粉)に大和芋を練り込んで蒸かしたきれいな皮と中のこしあんが美味しい。
以前、このブログで戦国時代、徳川家康も愛した上生菓子「本饅頭」(ちょっと高いがスペシャルに美味い)を書いたことがあるが、久しぶりに東京・明石町の「塩瀬総本家」を訪ねた。
「塩瀬饅頭」(9個入り 税込み1296円)を買い求めてから、ふと見ると「塩瀬総本家のどら焼き」(税込み 270円)が目に留まった。
塩瀬総本家のどら焼き? 以前にはなかったはず。
新しいチャレンジかもしれないぞ。
どら焼き好きとしてはここは避けて通れない(笑)。
賞味期限が2日ほどなので、翌日、自宅で煎茶とコーヒーを用意してから、好奇心ドキドキで賞味することにした。
空からドラえもんが見ているかもしれない。
【本日のセンター】
どら皮とこってり系あんこのマリアージュ
手焼きのきれいなきつね色。小麦粉と新鮮な卵の香りが「うさぎや」のどら焼きと似ているが、ハチミツを加えていないのが珍しい。
フカフカとしていて、しっとり感もある。
ある種のシンプルさが「塩瀬総本家」の看板を裏切らない。
大きさは「うさぎや」よりも小さめ。
左右約90ミリ。厚みは約30ミリ、重量は77グラムほど。
中のあんこは粒あんで、艶のあるこってりした重量感が特徴だと思う。やや甘め。
小豆は厳選した北海道産えりも小豆、砂糖は白ザラメを使用しているようだ。
塩気がほんのり。
どら皮の美味さとあんこの美味さが、口の中でいい和のマリアージュを作っている。
うさぎやのどら皮よりもふかふか感がある。
口に入れたとたん、唾液がジワリと出て来るような。
密度のあるあんことの合体の余韻がしばらく消えない。
さすが総本家のどら焼き、と言いたくなるレベルだと思う(乳化剤を使用しているのがちょっと残念)。
個人的な好みをあえて言えば、日本橋うさぎやだが、これはこれでふくよかで上質な美味さ。
現在の当主は34代目。
塩瀬饅頭、上生菓子、そして少し横のところにどら焼き。
塩瀬の中ではこれは主流ではないが、とてつもない悠久の歴史を想うと、頭がくらくらしてきた。
タケコプターがあれば、かつて塩瀬があった場所、京都・饅頭屋町に舞い降りて右手に塩瀬饅頭、左手にこのどら焼きをパクパク・・・ついついバカげた空想に襲われた。
【本日のサブ】
さらに美味くなる「塩瀬饅頭」私流の楽しみ方
表面に「志ほせ」の焼き印のある「塩瀬饅頭」は皮が美味しい。米粉(上新粉)と大和芋の薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)だが、昔からの一口サイズで、あっという間に5~6個はすぐになくなる。
鹿児島のかるかんも米粉だが、小麦粉の皮とはひと味違う。
淡雪のようなみずみずしさが特徴。
舌の上できれいな余韻とともにフェードアウトする食感がすがすがしい。
中のあんこはこしあん。
底から見ると、黒が滲んだ赤紫色のあんこがうっすら見える。
どこか高貴な気配すらする。
甘すぎないやや固めのいいあんこだが、思ったほどの特別な感動はこない。
そのままレンジ(500W)で15秒ほどチンしてみた。
ちょっと驚きの変化だった。
皮が蒸かし立てのようになり、中のこしあんも作り立てのようなふくよかさが出てきた。
あんこの七変化? 淡い塩気。
口の中で広がる清冽な味わいがふわふわと広がった。
個人的な印象ではさなぎが蝶に変化したよう(失礼)。
これが「塩瀬饅頭」の本当の実力か、と改めて脱帽したくなった。
気が付いたら指が勝手に動き、30分後には9個すべて胃袋に収まっていた(まさか!)。我ながらあきれる(笑)。
●「塩瀬総本家」
所在地 東京・中央区明石町7-14