編集長「東京も緊急事態宣言下に入り、困ったよ。高尾山の絶品饅頭を取り上げづらくなった。あの有喜堂本店(ゆうきどうほんてん)のまんじゅうだよ」
あん子「大丈夫よ。だって宣言前に行ったんでしょ? 第一、あんこには厄除けの意味があるのよ。しかもパワースポットのまんじゅう。ここで書かなきゃ、いつ書くの? もォ~私が怒るわよ」
編集長「わかった、わかった。テイクアウトにしようかと思ったら、甘味処もやっていて、ちょうど蒸かしていた。饅頭は何といっても蒸かし立てが一番。即決、そこでコーヒーを飲みながら3種類の饅頭を堪能したよ」
あん子「抹茶もいいけどコーヒーも意外に合うのよね。で、どうだったのよ。饅頭にもうるさい編集長さん」
編集長「茶(つぶあん)、白(こしあん)、それに桜の薯蕷(じょうよ=こしあん)を食べたけど、いわゆる観光スポットのレベルを超えてたね。こしあんも含めてあんこはすべて自家製というのが好感。一時的に製餡所の生餡を使っていたこともあるらしいけど、初心に帰って、昔のように職人の手作業に切り替えた。それが食べるとよくわかる」
あん子「ん、もう! 早くレポートしてよ」
編集長「落語じゃないけど、饅頭より怖い(笑)。どっちが編集長かわからない」
【今週のメーン】
有喜堂甘味処「桜上用まんじゅう」
桜は散っても桜まんじゅうは美味い。
有喜堂本店は高尾山が人気スポットになる前から「高尾山御用達」として、薬王院有喜寺との縁が深い。
「有喜堂」という屋号も明治期に薬王院から下賜されたもの。現在は5代目となる。
今回はコーヒーとセット(税込み 500円)でいただいたが、木造の建物の中で食べると、いい空気感が味わいを深めてくれるよう。体の中に神気が入ってくる気がする(まさか、ね)。
メニューには「上用まんじゅう」と書かれているが、正しくは「薯蕷(じょうよ)まんじゅう」だと思う。饅頭の中でも「上用」、つまり素材も作り方もひと手間以上かけている上級な饅頭。
皮は小麦粉ではなく米粉を使用、つなぎに大和芋を混ぜている。茶席などに使うことも多く、京都でも上生菓子のまんじゅうと言えば「織部饅頭」をはじめ、こうした薯蕷饅頭を指すことが多い。
さて、有喜堂の「桜薯蕷まんじゅう」。
塩漬けの桜がちょこんと乗って、真っ白い薯蕷皮は噛んだ瞬間、もっちり感とみずみずしさが口いっぱいに広がる。この感触が上用。
中はこしあん。藤色の上質なこしあんで、絶妙な甘さの奥にほんのりと塩気もあり、北海道十勝産小豆の粋を凝縮しているような、雑味のない味わい。
餡作りの砂糖はグラニュー糖を使用しているようだ。
ほんのりとした塩気は塩漬けの桜から来ている。
その桜の香りも味わいに彩りを加えている。
目と舌と鼻の至福。
おいしおすなあ。
なぜか、つい京都弁でそう表現したくなる。
この一品で有喜堂の和菓子職人の腕が確かだとわかる。
コーヒーもドリップ式で焙煎のいい香りと合う。
【今週のサブメーン】
有喜堂の目玉はこの高尾まんじゅう。2種類あり、皮に黒糖を使った茶まんじゅうは中が粒あん。小麦粉のままの白まんじゅうはこしあん。
これを追加する。1個税込み120円。
本音で言うと、上質な薯蕷まんじゅうよりこちらの庶民的な高尾まんじゅうの方がやや好みかな。
とにかくあんこが美味い。
ふんわりとした皮とたっぷり詰まったあんこが絶妙。
甘さもほどよく、口の中でのあんこの広がり方がいい饅頭のもの。
粒あんはなめらかで素朴な美味さ。小豆の皮まで柔らかく炊かれている。
こりゃうめえ
こちらは京都弁ではなく江戸弁でつぶやきたくなる。
こしあんはみずみずしい。
緊急事態宣言直前のパワースポットでひそかに味わう饅頭3種。
神様、仏様、あんこ様・・・やっぱりあんこ旅は止められない。
所在地 東京・八王子市高尾町2302