あんこの千年王国、京都には驚かされることが多い。
古いものと新しいものが幾層にも迷路化し、ヘンなたとえだが、恐竜とAIが時空を超えて、あちらこちらにこっそり埋まっている気がする。
甘い夢の記憶。
その一つが享保元年(1716年)創業の京菓匠「笹屋伊織(ささやいおり)」である。現在10代目。
和菓子好きの間では「どら焼き」の元祖として知られる存在。現在のどら焼きの形状とはまったく違う。
京都のイケズな亀仙人が「弘法市の3日間しか売ってないどら焼き、これを取り上げないで何があんこマニアかいな? へそで茶を沸かす話や」といつもの毒ガスを吹かしてきた。
ありがたや。でも、知らんでどうする? とはいえ、お取り寄せできるようになっていたことは知らなんだ。有り難や。なので、お取り寄せしてみた。むろん内緒で手を合わせながら(笑)。
今回取り上げるのは、このどら焼きではない。
「伊織のおはぎ」(1箱 税込み1620円)である。
ちょっと驚きのおはぎ。
こちらも私が知っているおはぎとは形状がまるで違う。
まずはご覧いただきたい。
竹皮で編んだ箱(折詰)にびっしりと粒あんがこれでもかと詰まっていた。
おおおお・・・あんこの濃厚な海!
箱の大きさは縦175ミリ、横105ミリ、深さ50ミリ。ほぼ弁当箱の大きさ。
全体の重量は618グラム!
木べらが付いていて、お茶を用意し、正座し直してから、小皿に取ってみた。
あんこのテカリとつぶつぶ感のボリュームが凄すぎる。底にまでびっしり!
道明寺(半殺しのもち米?)がしおらしくさえ見える。
これがおはぎ? しかも「伊織のおはぎ」だって?
見た目よりも甘すぎない。だが、こってりとしたあんこ。
野暮と紙一重の素朴さがたまらない、小豆のいい風味が口の中で「どないや? これが京都のあんこやでぇ」とドヤ顔でささやかれた感じ。
これってド田舎のあんこでは?
そんな気もしたが、よく見ると、浅はかな思い違いだった。
蜜煮したふくよかな大納言小豆(北海道産)とこしあんを絶妙にブレンドしている、と思えるイケずな隠し技だった(イケずではない?)。
知らないと見間違える。
もっちりした道明寺の塩気が手の込んだ重量級のあんこを引き連れて「温故知新」のまんだら世界へと引き上げていく。オーバーに言うとそんな感じ。いい塩梅ということかな。
「必ず到着したその日のうちに召し上がってください。どら焼きは4~5日が賞味期限ですが、おはぎは生ものなので」(笹屋伊織)
京都のおはぎと言えば今西軒が筆頭に挙げられるが、これは横紙破りのおはぎ、ということになる。
次の疑問。
笹屋伊織のどら焼きが江戸時代末期なのに対して、このおはぎはいつから?
気になって問い合わせてみたら、「実は新しいんです。去年7月、梅小路別邸を作ったときに別邸限定で売り出したものです。オンラインでも買えるようになったんです」(同店)
おはぎを何とか食べ終えてから、翌日、江戸時代末期からほとんど同じ製法、同じ形のどら焼きを賞味してみた。こちらも1棹1620円(税込み)。重さは360グラム。
ごらんのとおり、誰もが知っている二枚重ねのどら焼きではない。
竹皮に包まれていて、そのまま包丁で切る。
中から不思議などら焼きが現れた。これがどら焼き?
中心部のこしあんをもっちりしたクレープミルフィーユのような皮が包んでいる。
皮は薄く溶いた小麦粉が何層にも巻かれていて、食感はムニュッとしていて、微妙な薄甘さ。香ばしいカステラ生地のどら焼きとは別物としか言いようがない。
中のこしあんはきれい。甘さも控えめ。なので、期待とは違った味わい。
竹皮の香りが遠い歴史を感じさせ、ヘンな表現になるが、学術的な美味さとしか言いようがない(もちろん個人的にだが)。
笹屋伊織の5代目が東寺の住職に頼まれ、お寺でも作れるように打楽器の銅鑼(どら)の上で焼いたことに始まるそう。
こちらもオンラインで買えるようになった(弘法市の期間3日間だけ)のが素晴らしい。
どら焼きが現在の形、二枚重ねになったのは大正になってからで、上野黒門町「うさぎや」が元祖と言われる。
茅場町「梅花亭本店」には明治時代の一枚どら焼きが復元されて作られている。こちらは形が船の銅鑼(どら)の形で、つぶあんが練り込まれていてとても美味い。私の好きな店でもある。
京都に始まったあんこの華々しい(奥ゆかしい)進化は今も続いている。
あんビリーバボー、ここはダジャレで締めるしかない(笑)。
【今回のお取り寄せ】
伊織のおはぎ(1箱) 1620円
どら焼(1棹) 1620円
送料(クロネコ便) 869円
代引き手数料 330円
合計 4439円