コロナで外出自粛のはずが、スチール(盗塁)してしまった。
ひょっとして夢の中の出来事かもしれない(笑)。
埼玉・秩父の老舗和菓子屋「江原本店」の白い暖簾をくぐる。
「大正11年創業」(1922年)の文字がさり気ない。
入った瞬間、自家製の生菓子がシンプルに並べられていて、いい店だとわかった。2年ほど前に建て替えたようで、平屋建てで新しい。
単なる和菓子屋ではない。製餡業も営んでいて、私がかつて感動した水ようかんもここのあんこを使っているようだ。
秩父地方の郷土まんじゅう「すまんじゅう」(つぶ、こし 税込み100円)、「茶まんじゅう」(同70円)、「草もち」(同100円)、「栗どら焼き」(同150円)を買い求め、3代目ご夫妻とご子息の4代目とあれこれ雑談しながら、その翌日、自宅で冷たい麦茶を用意して、賞味となった。
あんこ旅みょうりに尽きる。コロナもどこかに消えている。
まずは「すまんじゅう」。「す」の意味は諸説あるが「酢」ではなく「素」のようだ。
糀(こうじ)を使った酒饅頭で、店によって形が違う。「江原本店」のものは平べったくて大きめ。
皮からいい糀の香りがする。
蒸かし立て作り立てが一番美味い。だが、個人的な事情で賞味が翌日午前になってしまった。添加物類は一切使っていないので、皮が少しパサついていた。
後悔先に立たず。
店主に教えれた通り、レンジでチンしたら、絶妙な美味さに変わった。
あんこは少なめ。こしあんよりつぶあんの方が塩気がやや強めで、いい小豆の風味が口中でふわりと開花してきた。あんこの量がもっとあれば、文句のつけようがない美味さだと思う。
一個100円がコスパの凄さを醸し出している。
「茶まんじゅう」が気に入った。こしあんのボリューム、しっとりとした美味さが際立っている。70円が信じられない。
「草もち」はきな粉が表面にかかっていて、本物感を漂わせていた。
悲しいことにこちらもはや固くなり始めていた。レンジでチンしたら、草もちの柔らかさと中のつぶしあんが絶妙に変わった。甘さを抑えていて、ほんわか感が立ってくる。
繰り返すが、生菓子は翌日に持ち越してはいけない。反省あんこ。
「江原本店」はあんこ屋さんでもあるので、あんこのこだわりと種類が多い。
3代目によると、建て替える前は薪(まき)であんこを炊いていたという。驚き。
北海道産、神奈川産など国産小豆を使用、砂糖も中ザラ、グラニュー糖を使い分けているという。あんこ職人のこだわりがわかる。
締めの「栗どら焼き」に手が伸びる。
これが予想を超えた味わいだった。「日本橋うさぎや」ほど大きくはないが、皮の濃い目の焼き色、甘い香り、ふくよかなしっとり感が上質。
何よりも中のつぶあんが艶やかに炊かれてて、抑えられた甘さ、きれいな風味、ほのかな塩気が三位一体の味わいで、栗どら焼き番付で行ったら、コスパ的にも三役以上はゆうに行くと思う。
秩父にはいい和菓子屋が多い。コロナで人通りの少ない街中を歩きながら、この地方の総鎮守・秩父神社まで足を運ぶ。
茅の輪くぐりをして、コロナ疫病除けをお祈りした。
遠くであんこの神様も微笑んだ気がするのだった。早く食べなさい、と。
所在地 埼玉・秩父市大畑町8-9