福島・楢葉町(ならはまち)「玉屋菓子店」(たまやかしてん)の存在を知ったのは、3.11後、双葉町から埼玉・加須市に避難してきた中に老舗和菓子店「森製菓店」の主人・森さんがいて、懇意にしていただいたことがきっかけだった。
しばらくの間、支援センターの中で、森さんが茶まんじゅう造りを始めた。
目の前でプロフェッショナルのまんじゅう造りを見せてくれ、それがとても美味しくて、私を3・11後の双葉へといざなう端緒になった。
惜しまれながら、森製菓は廃業への道をたどったが、3.11後の双葉郡の和菓子屋が気になり、何度か下調べしていたら、「手づくり饅頭本舗 玉屋」が復活していることを知った。
それが今回の訪問につながった。
12年もの月日が流れている。
見世蔵造りの見事な店構えを見たら、胸が熱くなった。
原発事故さえなかったら、森さんも店を続けていたはずで、その想いはもはや届かない。青空が目に沁みる。
長い避難生活の後、2020年1月に再開オープンした「玉屋」は、店主の女将さんが気さくなお方で、店の歴史をあれこれ話してくれた。
★今回ゲットしたキラ星
茶まんじゅう(つぶ) 130円×2
(こし) 130円×2
抹茶まんじゅう(つぶ)140円×2
紅白まんじゅう(こし)140円×2
※すべて税込み価格です。
【センターは?】
蒸かし立て茶まんじゅうを店先で味わう
事前に予約していた手づくりまんじゅう類は賞味期限が「今日明日中」。経木に敷かれて深緑色の包みに収まっていた。
4種類合計8個。見事な面構え。
作りたてを味わいたくなって、2個だけ店先でいただくことにした。
蒸籠で蒸かしたばかりだという茶まんじゅう(つぶあんとこしあん)が菓子皿に乗って目の前に現れた。何という幸運。あんこの女神がどこかにいる?
あん子「ふうふうしながら茶まんじゅうをいただくなんて、最高の贅沢ですね。冷たい麦茶まで出してくれて、心までほっこりするわ」
編集長「黒糖皮のふっくら感と中のあんこがメチャおいしい。塩気がほんのりも絶妙」
あん子「皮の美味さとあずきの風味がすごい。つぶあんの方がより小豆を感じるかな。きれいな色で、無添加なので雑味がない。あんこの柔らかさがストレートに伝わって来ますね」
編集長「小豆は北海道産、砂糖は上白糖。すごいのは代々伝わる昔のままのスタイルであんこを炊いていること。珍しい五右衛門釜でじっくりと炊いている。手間を惜しまない、ハガネの意志を持った饅頭職人がここにもいる。うれしい出会いだね」
●あんヒストリー 「玉屋菓子店」の創業は1935年(昭和10年)。店主の菅野伯恵(かんののりえ)さんは3代目になる。祖父がこの地で和菓子屋を始め、和菓子職人としてはかなりの腕だったようだ。店内に飾られている菓子木型が往時を忍ばせる。祖父が亡くなり、祖母が店を引き継ぎ、まんじゅう専門に特化していった。3代目の菅野伯恵さんは東京で洋菓子のパティシエ修業をしたが、3.11が人生設計を変えることになる。雌伏9年。祖母に就いて代々秘伝のまんじゅう造りを学び、約3年前の2020年1月にリニューアル再開にこぎつけている。ただの和菓子職人ではない。
【セカンドは?】
抹茶まんじゅう:小麦粉ベースの皮に抹茶を煉り込んだ蒸かしまんじゅうで、抹茶の風味とたっぷりの自家製つぶあんが絶妙な相互作用を生んでいる。
あん子「私はこっちの方が好きかな。こしあんも食べたかったけど、今回はつぶあん。皮の美味さがピタッと来る。抹茶とつぶあんの塩気がいい感じで、1∔1が3になる」
編集長「確かに。人気ナンバー1は黒糖皮の茶まんじゅうだけど、これも捨てがたいね。抹茶の風味がこんなに効いてるなんて。皮のもっちり感も素晴らしいね」
紅白まんじゅう:注文がないと作らないようで、運よくゲットできた。中はこしあん。美しい紅と白。やはり皮の美味さが際立っている。
あん子「時期限定みたいね。こしあんのなめらかさとほんのりとした塩気がグッと来ますね。まんじゅう好きにはたまらない逸品」
編集長「まんじゅうは面構えが大事だと思う。この店のまんじゅうにはそれがある。表と裏をじっと見る。特にあんこが透けて見える裏(底)が実に魅力的で、かぶりつきたくなる(笑)」
あん子「まんじゅうこわい、の世界ね(笑)」
《小豆のつぶやき》
▼この地で昔ながらの手づくりまんじゅうの旗を守り続ける▼軽々には言えないが、女将さんの聡明な明るさに救われた気分になった▼同時に店を閉じざるを得なかった森製菓の想いも想像してみる▼改めて3.11を忘れてはいけない▼希少な手づくりまんじゅうがしっかりと受け継がれていることを素直に喜びたい。
「玉屋菓子店」