6年ほど前のこと、雑誌「ブルータス」のあんこ特集で、たまたま備中白小豆を使った見事な白い羊羹を紹介していた。
希少な「白いダイヤ」備中白小豆を使った羊羹なんて聞いたことがない。
大阪・北浜の老舗和菓子屋「菊壽堂義信(きくじゅどうよしのぶ」の逸品だった。
そのことをすっかり忘れていたが、京都に行った際に、甘い夢の記憶がよみがえり、北浜まで足を延ばした。
だが、シーズン少し前で、ゲットすることができなかった。
救う神あり。目の前に強力なピンチヒッターが現れた。
それがこれ。5種類のあんこの塊「高麗餅(こうらいもち)」(税込み750円)。私流に表現すると、5Gあんこ(笑)。GはグレイトのG。
「菊壽堂義信」は創業が江戸時代初期で、現在は17代目というスーパー老舗。18代目の息子さんも生菓子作りに励んでいる。大阪大空襲などで古文書が紛失し、残っているのは天保年間からの記録のみという。
清楚な店構え。看板らしきものがないので、営業しているかどうかもわからない。
奥の喫茶スペースで「高麗餅」をいただくことにした。
これが凄い代物だった。
4本指で握った形の5種類のあんこ。こんな形は見たことがない。
つぶあんは丹波大納言。こしあんは備中大納言。しろあんは備中白小豆。18代目の説明で、小豆界の最高峰の素材がそろっていることに驚く。
それに抹茶あん、白ごまあんというラインナップ。
最も気に入ったのはつぶあんで、口に入れた瞬間、丹波大納言の風味が清流になるのがわかった。甘さは控えめで、塩気はない。
中に柔らかな求肥餅が入っていた。
一瞬、目をつむりたくなった。余韻もきれいで、それを離したくない。
素材の素晴らしさをストレートに押し出している感じ。
備中大納言のこしあんはすっきりとした滑らかさ、それがふくよかに広がってくる。こちらも甘さは抑えている。
特に希少な備中白小豆は皮まで柔らかく、きれいな、そよ風のような風味が凝縮していて、控えめな甘さとともに、味覚の粘膜にとどまり続ける。
ワインに例えると、シャサーニュモンラッシェあたりかな?(返ってわかりにくいよ)
白ごまあんは「白小豆ではなく、手亡(白いんげん豆)です」。それに白ごまをまぶしている。ごまの風味が強いので、好みが別れるところ。
抹茶あんもベースは手亡豆で、どうしても抹茶の風味が強い。
それにしてもこれだけのあんこを4本の指で握って、ストレート勝負とは日本広しといえどもここだけではないか。
不思議なことに使用している砂糖は「普通の上白です」とか。グラニュー糖か白ザラメを予想していたが、肩透かしを食らってしまった。
希少な和三盆を使っている気配もない。
「確かに和三盆は希少ですが、どうしてもクセが出てしまう。いろいろと考え方はあるでしょうが、小豆の美味さを大事にしたいということなんです」
小豆は最上級、砂糖は普通。これを主役とわき役と考えると、なるほどと合点が行く。
ちなみに、この店の「高麗餅」は朝鮮半島経由の小豆の蒸し菓子とは無関係。地名の高麗橋から取ったそう。こりゃ高麗違い(笑)。
上品な余韻を残して店を後にすると、頭の中で、逃した「備中白小豆の白い羊羹」がぐるぐる回り始めた。後ろ髪。こりゃあ、また来るっきゃない。
最寄駅 地下鉄堺筋線北浜駅下車 歩約3分