あれっ、黒ではなく白。
珍しい白い「うば玉」と出会った。
かつてはみちのくの要衝、白河の関で江戸時代末期(創業文久3年)から暖簾を下げる「菓子舗 玉家(たまや)」でのこと。かつては白河藩御用達の上菓子屋でもある。
「うば玉」は私の中では、京都の老舗「亀屋良長」のものがすぐに頭に浮かぶ。黒糖を使った黒々としたあんこ玉で、こしあんを膜のように羊羹状の寒天が包んでいる。漢字で書くと「鳥羽玉」。濡れた鳥(カラス)のように表面はテカっているので、こう命名されたようだ。「老玉」と表記する店(仙太郎など)もある。
だが、ここの「うば玉」は粉雪がうっすらとかかったもの。
ほうー、が出かかる。
一番手ごろな3個入りひと箱(税込み 620円)をゲットし、翌日、自宅に帰ってから賞味してみた。上生菓子なので、日持ちは短い。
品のいい包みを取ると、店先で見た粉雪をまぶしたような、ピンポン玉大の烏羽玉が現れた。うっすらとあんこが透けて見える。いい景色。
黒い宝石のような「亀屋良長」のものとは別種の気品がある。
申し訳ないが、包丁で真ん中から切ってみた。
中はきれいなこしあん。とろけそうな半透明の求肥餅が膜のように包んでいた。羊羮状ではなく、求肥餅。断面図はあんこの夢を形にしたようにも見える。
敬意を表して、日本橋「さるや」の黒文字でいただく。
こしあんは北海道産えりも小豆のいい風味が閉じ込められていて、甘さもどこか濃い。意外だが、塩気も強め。京都よりも関東の野暮が隠し味になっている、とも思える。
京都のような黒糖の気配はない。
店先にいた感じのいい若い女性が8代目だったこと。その時の会話を思い出す。
「京都の烏羽玉と外観が違いますね」
「ええ、でもうちでは昔からこの形なんですよ。黒糖ではなく、上白糖を使ってるんです。皮も寒天ではなく、寒ざらしの求肥です」
京都から白河関に来るまでに、いつのまにか「黒姫」から「白姫」に変身したに違いない。あるいは白河の「白」を意図して、作り替えた可能性だってある。
黒と白について、気になって調べてみたら、九州の平戸にも白い烏羽玉が存在していることがわかった。
文亀2年(1504年)創業、九州最古の和菓子屋とも言われる「蔦屋(つたや)総本家」が旧平戸藩主が愛した上生菓子を復元した「烏羽玉」が、この「玉家」とほとんど同じものと突き止めた。執念です(笑)。外側の求肥には和三盆を雪のようにかけているそう。
「中もこしあんです。黒糖は使っていません。黒ゴマを少し入れてますが、確かに京都のものとは違います。残っている資料などで忠実に再現したものです」(同店)
みちのくと九州にほぼ同じ烏羽玉があることに驚く。
どこがルーツなのか、あんこ玉を謎のベールが包み始めてきたよう。
目の前の白い烏羽玉をしばらく見つめる。
あなた様は、いったいどこから来たの?
しばらく沈黙が続いた後、中からつぶやきが聞こえてきた。
そう簡単に白黒つけられない、てことにしましょ。
そうささやかれた気がするのだった。
所在地 福島・白河市本町46
最寄駅 JR白河駅から歩いて約15分