餅にあんこを乗せただけのシンプルな「あんつけ餅」を無性に食べたくなるときがある。
鎌倉・長谷名物「権五郎力餅」をようやく食べることができた。
その数時間前。一軒家のあまりに素朴な店構えに期待が膨らむ。
店は終戦直後に建てたバラック造りをほとんどそのまま維持しているそう。すごいこと。赤い郵便ポストが昭和のまま。
さらに驚くのは、創業が元禄時代(1688~1704年)という古さ。真実ならゆうに300年を超えることになる。
俗称「権五郎神社」(御霊神社)の参道で細々とあんつけ餅を作り続けている。
現在の店主は9代目。伊勢名物「赤福」(1707年創業)と同等かそれ以上の歴史的なあんつけ餅となるわけで、ビックリマークが三つくらい欲しくなる。
当時は砂糖が一般化されていなかったので、現在のように甘かったのかどうかは正直わからない(ひょっとして塩味だったかもしれない)。
添加物は一切使わず、昔のままの作り方を受け継いでいる、というのも驚き。
なので、賞味期限は「本日中」。餅がすぐに硬くなる。
店の敷居は低いが、食べるまでのハードルは低くはない(店内では食べれない=テクアウトのみ)。
それがこれ。
・ゲットしたキラ星
権五郎力餅1箱(10個入り) 税込み750円
求肥力餅 100円×5個 同500円
【本日のセンター】
朝ナマの搗き餅とこしあんが時空を超える
300年の歳月を感じさせる、セピア色の茶店の面影がたまらない。
「力餅」は2種類。搗き餅と求肥餅。
主役は搗(つ)き餅(臼で搗いた餅)だが、賞味期限が本日中。なので、もう一種類求肥餅バージョンもある(こちらも無添加だが、賞味期限は3日間)。
こちらもゲットして、食べ比べることにした。
何よりも私の狙いは「本日中」の「権五郎餅」。
前日に予約を入れて、正午近くに店に入ったので、その他の用事を終えてから自宅に戻ったのは午後6時過ぎ。
●試食タイム
渋い紙包みを解き、紙箱の蓋を取ると、ご本尊が淡い光とともに現れた(そんな感じ)。
思ったよりも小ぶりなあんつけ餅が5個ずつ2列=計10個。にっこりとほほ笑んだ(気がした)。
俵型で1個の大きさは55ミリ×25ミリほど。
表面を見事な、濃い小豆色のこしあんが覆いかぶさるように乗っかっていた。
見ようによっては本マグロの握りずしに見えなくもない(笑)。
きめの細やかさが見て取れる、しっとりと艶のあるこしあん。
ボリュームも申し分がない。
下の餅にはよく見ると、うっすらと餅粉がかかっている。
もち米を蒸かして搗いたピュアな餅。
こしあんが舌にズドンと来た。店主の熟練の手を感じる。
抑えられた甘さと小豆(北海道産)のいい風味が鼻腔に抜けていく。
あんこ炊きの砂糖は上白糖で仕上げているようだ。
あんこの粒子を感じる、いいあんこだと思う。
餅は少し硬くなりかけていたが、伸びやかさがまだ残っている。
だが、しかし・・・これぞ朝ナマの王道の証明だと思う。
塩気はほとんど感じない。
あっという間に6個、胃袋のブラックホールに消えた。
編集部員のあん子さんには2個だけあげた(笑)。「おいしい」とひと言だけ。
※残りの2個は硬さを確かめるために翌朝に試食してみた。餅がすっかり硬くなっていた。「必ず本日中にお召し上がりくださいね」という店の言葉が納得できた。
【サイドはvs求肥力餅】
「賞味期限が3日間」の求肥力餅と食べ比べすることに。
こちらは一個一個ていねいに個装しているので、権五郎餅ほどのインパクトはない。
二つ並べてみると、求肥力餅(左)の方が小ぶりで、こしあんが明るめ。底まであんこが包んでいるので、わかりやすい。左と右の比較。
求肥餅には砂糖を加えているので、より柔らかくて少し甘い。
こしあんも甘め。
個人的な好みはもちろん搗き餅の方だが、比較しないで味わったら、こちらにも私の「あんこころ」がときめいたと思う。
あんこの幸せな時間。
たかがあんつけ餅、されどあんつけ餅。「されど」のところが、ありそうでなかなか存在しない、老舗の大事な部分だと思う。店内は清潔だった。
「鎌倉 力餅家」
所在地 鎌倉市坂ノ下18-18