これはたまたま見つけた、小さな店の宝石のような3種類の上生菓子。食べる前から「お見事!」と拍手を送りたくなってしまった。
台風19号の爪痕がまだまだ癒えそうもない栃木・佐野市をクルマで走っていると、小さな一軒家の和菓子屋さんらしき店が視界に入った。佐野市の郊外。
通り過ぎてから、引き返した。かような場所に?
もう一度、確かめると、白地の暖簾に「果子 うさぎや」の細文字とウサギのイラストが見えた。それに金色の満月。シンプル。
佐野は関東三大厄除け大師のある、歴史のある街で、ラーメンの町としても知られているが、市の中心部、佐野厄除け大師の周辺には古い和菓子屋も多い。
歴史のある街にはいい和菓子屋が隠れている。
だが、そこは中心部からかなり離れた田沼町で、国道293号線から少し入った殺風景な住宅地でもある。
利休好みのシンプルな気配に惹かれて、暖簾をくぐる。
バラエティーに富んだ串団子が売りのようだが、残っていたのはサンプルだけで、すべて売り切れていた。豆大福もきれいになくなっていた。「すいません」と女性スタッフ(若女将さんだった)。
軽く驚く。地元客の愛を感じた。店内は狭いが、清楚な造りで、モダンジャズが流れていた。今どきの和モダンのニュアンスも感じる。悪くない世界。
すぐにショーケースの下の段に目が吸い付けられた。
五感を刺激する、きれいな上生菓子が数種類並んでいた。「こちらはまだあります」。
がっかりがほっこりに変わるのがわかった。
若い夫婦が二人で始めた和菓子屋さんのようで、店の歴史は「8年ほどになります」(店主)とか。
ぶどう大福(税込み 200円)、栗かのこ(同 150円)、柿もち(130円)をすぐに買い求めた。
まさかの拾い物? あんこの神様のイタズラかもしれないぞ。
家に持ち帰って、備前焼きの皿(曽我尭作)に置くと、小さいながら、それぞれが絵になっている。
最も気に入ったのが「ぶどう大福」だった。この時期だけの逸品。
外側の餅は、地場の餅米から丁寧に作っていて、伸びといい、柔らかさといい、申し分がない。
二つに切ると、大粒の白ブドウが現れた。品種は瀬戸ジャイアンツで、糖度が高く、酸味が少ないのが特徴。
その周りを手亡豆のこしあんが包んでいる。むろん自家製。
絶妙なバランスだと思う。白あんはしっとりとしていて、甘さと塩気が伸びやかな餅と甘いブドウを風味豊かに引き立てている。
上質の美味さ。
偶然とはいえ、小さくても志を感じる和菓子屋に出会えたことを素直に喜びたい。
「栗かのこ」は小ぶりで、外側の寒天の膜に覆われた北海道産大納言小豆と中のつぶあん、それに栗が素朴な味わい。
あんこの渋切りは一回だそうで、小豆自体の風味を強めに残している。その分、見た目の美しさとは違って、食感は少し野暮ったい(それが狙いかもしれないが)。
個人的には中はこしあんの方がいいと思う。
「柿もち」はかなり凝った作りで、へたは本物を使い、外側の餅は求肥餅でつるんとした食感。鮮やかな柿色はクチナシをいくつかブレンドしているそう。
中に白あんがたっぷり詰まっていて、よく見ると、干し柿の粒も入っていた。芸が細かい。
白あんは濃い風味で、野趣に富んだ、店主の遊び心を感じる。
つぶあんも白あんも砂糖は白ザラメを使って炊いているそう。
台風19号の被害が甚大な佐野市だが、こういう小さくてもきらりと光る店が存在していると思うと、どこか救われる気がするのはなぜか。
まっとうな志と夢がこれからどうなっていくか、陰ながら見守りたい気分になった。