町なかの和菓子屋さん。
10文字の世界。私にとっては心が奪われる、キーワードの一つでもある。セピア色の世界と夕日が背景にあると、さらにいい。(「ALWAYS三丁目の夕日」の見過ぎじゃないの?)
コロナ禍のなか、時空を超えたあんこ旅の寄り道で、たまたま見つけた、旧中山道・鴻巣宿圏内にある一軒の和菓子屋さんが、それに近い、町の和菓子屋さんだった。
「大和屋」(やまとや)の看板が少々色褪せている。
それほど期待せずに入ると、季節のいちご大福や豆大福、桜餅、あんドーナツ、うぐいす餅、草餅などが美味そうに並んでいた。常連らしいお客が2人。安い!
その中の一品に目が釘付けになってしまった。
「あんこ玉」(1串2個 税込み75円)。
価格に驚かされたが、それ以上に、あんこが白と黒2色で、竹串で貫かれていたこと。
残り2本となっていた。串だんごのようなあんこ玉。
しばし見入ってしまった。
透明な寒天の膜に包まれて、きれいなこしあんと白あんが「おいでやす」とほほ笑んだ気がしたほど。ひょっとして座布団3枚か?
大急ぎで買い求める。
ついでに(?)今が旬の「いちご大福」(同 150円)、「桜餅」(同 100円)、「道明寺」(同 95円)、「草餅」(同 100円)、あんドーナツ(5個入り 350円)も買い込んだ。
安くて丁寧な作りに店主の心意気を感じ取った。
とはいえ正直に言うと、心のどこかに「でもなあ、それなりの味わいかも」という私の思い上がりもある。期待が失望に変わることだってないわけではない。
自宅に持ち帰って賞味。
数分後。うれしい誤算、おバカな思い上がりに脳天回し蹴り。そんな気分に陥った。
あんこ玉1個の大きさは直径約3センチ。それが2個。
白あんから味わう。白インゲン豆(北海道産)の自家製こしあん。しっとりと舌に絡みつくようで、ほどよい甘さと塩気のほんのり感がいい。
続いてこしあん。後で店主に聞いたら、こしあんも自家製で、北海道産えりも小豆のいい風味がふわっと広がった。砂糖は粗めのグラニュー糖を使用しているとか。
この価格が信じられない。コスパマックス感。
脳内エンドルフィンのそよ風にしばし浸る。
気持ちのいいあんこ・・・これは素直に脱帽したくなった。
いちご大福は大きめで一番高かった(150円)が、重さは98グラムもあり、餅の柔らかさと中の新鮮なとちおとめ、柔らかなつぶあんが見事なハーモニーだった。
店主の技術のレベル。
それは桜餅(こしあん)、道明寺、草餅でもよくわかる。
とにかく安くて美味い。手抜きが見えない。言うのは簡単だが、なかなかできることではない。
添加物ゼロなので日持ちがしない。
今回は煎茶でいただく。あっという間に平らげる。
後日、ようやく店主と少しだけ話すことができた。
店の創業は昭和48年(1973年)。父の代から2代目となる。手の温もりのする製法や素材へのこだわりなどが伝わってくる。
ひと足先に春一番。そんな感じ。
こういういい町の和菓子屋さんと出会えたことに感謝したい。
付記。あんドーナツ(中はこしあん)だけは日持ちが3日間ほどだったので、翌日に賞味したが、これも懐かしい、あんこと生地が一体となった昭和の味わいだった。
所在地 埼玉・鴻巣市東1-3-2