和菓子屋の定番、どら焼き。
普通に美味いどら焼きは全国どこにでもある。
だが、老舗の日本橋「うさぎや」、人形町「清寿軒」クラスになると、そうザラにはないと思う。
あんこと皮にこだわった、どら焼きの新しい星はないか?
たまたま和菓子好きの辛口メディア人と話していたら、「錦糸町にいいどら焼きがあるよ。新古典だ(笑)。外れても文句言わないなら教えてやるよ」上から目線で言われた。
新古典だって? なんじゃそりゃ。
それが「御菓子司 白樺本店」の「錦(きん)どら」だった。
行ってみたら、よくある下町の和菓子屋さんだった。どら焼きのノボリと「毎日手作りで提供してます」の立て看板がすがすがしい。
皮に沖縄産黒糖を使った「黒」とプレーンな「白」(それぞれ税込み 180円)の2種類。「錦糸町名物」の文字がどこか野暮ったい気もする。
これがちょっと驚きのどら焼きだった。
大きさは「うさぎや」と同じくらいで、大きめ。
おぬし、ただ者ではないな、と言いたくなる存在感。
まずは黒糖の「黒」を食べる。
皮のしっとり感とやさしい黒糖の風味が口中に広がった。ふわりとしていて、口溶けもいい。みりんも加えているかもしれない。東十条「草月」の黒松(どら焼き)とそん色がない。
中のあんこは大粒の手より小豆で、ふっくらと炊かれていて、しかも風味がみずみずしい。甘さもほどよい。東京三大どら焼きに負けない、絶妙などら焼きを見つけた気分。
惹かれるように「白」へ。
こちらの皮もふわりとしたしっとり感があり、いい小麦の風味が広がる。ハチミツが強すぎないのが好みに近い。
中のあんこもふっくら感とつぶつぶ感が素晴らしい。
これほどのどら焼き。本流なのにどこか新しい。これが新古典ということ?
後日、気になって再訪問した。
店は昭和24年(1949年)創業で、現在3代目。
「錦どら」はこの3代目が考案したもので、「美味いどら焼きは老舗でしか味わえないと言われてますが、それに挑戦してみたくなったんです」(3代目)。
試行錯誤を重ね、3年ほど前に黒糖を使った「黒」を作り、続いて「白」も売り出した。これが次第に評判を呼んで、今ではファンも増えている。
確かに新古典のどら焼き、と言いたくなる。
小豆は北海道十勝産えりも小豆、砂糖はグラニュー糖を使っているとか。添加物ゼロなので、賞味期限は3日間と短い。
家族経営のようで、たまたまいらっしゃった2代目女将さんが「こちらもぜひ食べてみてくださいよ」と「たらふく最中」(税込み 200円)をすすめた。私があんこ好きなのを知って乗り出してきた。北海道白小豆を使った最中で、猫の形が面白い。
白小豆を使うのは上生菓子屋に多い。ねっとりとした琥珀(こはく)色の粒あんこで普通に美味いが、個人的には白黒どら焼きほどの感動はなかった。
とはいえ。
こういう上物のどら焼きが東京の下町には隠れている。
「息子が跡を継いでくれてよかったですよ」(女将さん)
若い、いい和菓子職人がここにもいる。こういう店に出会うと、あんこの神様が引き合わせてくれた、そう思うことにしている。
所在地 東京・墨田区江東橋2-8-11