週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

コロナ下の「結城ゆでまんじゅう」

 

茨城・結城市は私にとっては「ゆでまんじゅう」の町。全国的には「結城紬ゆうきつむぎ)の城下町」として有名だが、あんこ原理主義としては、ここは「ゆでまんじゅう!」なのである(あんビリーバボー)。

 

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で、今回はその「ゆでまんじゅう」の食べ比べをしてみた。

 

最盛期には10軒以上の和菓子屋さんがこのゆでまんじゅうを作っていたが、ここ数年で暖簾を下ろす店が増え、今では5~6軒ほどになってしまった。悲しすぎる。

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あんコールと叫びたい(抑えておさえて)。

 

今回ピックアップしたのは老舗4店。

 

①富士峰菓子舗(ふじみねかしほ)

②真盛堂(しんせいどう)

③なか川(なかがわ)

④山田屋(やまだや)※行った日がたまたま休みだったので、今回は以前取材した写真とメモを使いました。

 

小麦粉を練って皮を作り(米粉を入れる店もある)、あんこを包んでゆで上げるだけ、というあまりに素朴な郷土菓子だが、店によって少しずつ違う。皮も中のあんこも変化がある。それぞれに固定ファンが付いているのが、結城ゆでまんじゅうの凄いところでもある。

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まずは3種類の面構え(と表現したくなる)と切り口を見ていただきたい。なかなかの迫力ではないだろうか?

 

下の写真、左から富士峰菓子舗、真盛堂、なか川の順。

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もっとも武骨で素朴に感じたのは富士峰菓子舗。見た目はごつごつとしていて、中のあんこがうっすらと見える。手作り感マックス。私のあんこ中枢が刺激される。1個100円(税込み)。重さは67グラム。

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凸凹したややクリーム色がかった皮は口に入れると、ムニュリとした食感で、職人の手の匂いがするような。いい感じ。

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中のあんこはぜいたくな大納言小豆(北海道産)を使っていて、ぎっしりと詰まっている。甘めでつぶつぶ感がドドドと来る。歯ごたえのあるあんこ、塩気もある。素朴な食感がたまらない。

 

砂糖は白ザラメ、グラニュー糖、上白糖ブレンド。「素材にはこだわってます」(2代目女将さん)。

 

真盛堂のゆでまんじゅうは渦巻き型で、高さがある。皮はミルク色。3種の中で一番指先にくっついた。もっちりしているのに歯切れがいい。ここは好みが別れるところ。1個98円(税込み)。重さは76グラム。

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中のあんこはやや少なめ。どろりとしていて、口に運ぶとこぼれ落ちそうになる。北海道十勝産小豆を使用、甘さは濃く、小豆の風味が立ってくる。塩気は少ない。

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なか川は半透明な、葛のような色で、上に白ゴマが振ってある。平べったい。指先のへこみが特徴で、ある種、最も洗練されていると思うが、その上品さが少し物足りなくもある。1個100円(税込み)。重さは67グラム。

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皮のつるっとした、シンプルな柔らかさと中のつぶあんのまったり感は、素朴というよりきれいと言った方がいいかもしれない。北海道産小豆はゆるりと炊かれていて、ほどよい塩気と甘み。全体としてまとまっている。

 

最後に「山田屋」のゆでまんじゅう。これだけは約4~5年前に試食したものだが、もっとも気に入ったのがこれだった。当時は重さは計っていないが、多分、一番重く、大きさもある。当時は1個税込み84円だったが、現在は95円(税込み)。

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ごらんの通り、つぶあんがぎっしり。しかもしっとりと柔らかく炊かれていて、北海道産小豆の風味がとてもよかった。皮の素朴感もよかった。今回試食できなかったのが残念だが、これを外すわけにはいかない。特別参加とした。

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ゆでまんじゅうは江戸時代末期から結城市周辺で食べられていたようだ。疫病が流行ったため、当時の藩主(水野家10代目?)が疫病退散を祈願して領民に配ったという由来を持つ。

 

あんこは民衆を救う? 小豆の赤は魔除け厄除けの意味もある。

 

今ならさしずめコロナ禍だろう。これからでも遅くはない。ゆでまんじゅうを食べて、コロナを吹っ飛ばせ・・・と世界に向かって叫びたい気分になる(笑)。

 

所在地 

「富士峰菓子舗」 茨城・結城市結城78

「真盛堂」 茨城・結城市結城1362

「なか川」 茨城・結城市結城29

「山田屋」 茨城・結城市結城386

最寄駅 JR水戸線結城駅から歩いて約15分圏内

 

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最下位?宇都宮の甘党「あんみつ」

 

都道府県魅力度ランキング」茨城県を抜いて(?)栃木県が最下位になった。

 

主宰者のブランド総合研究所のサンプル数などに疑問があるが、メディアが面白がって伝えると、栃木県民の中にはショックを受ける人もいる。

 

ま、ある種のエンターテインメントと考えれば、腹も立たないと思うが。

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私は38位のダ埼玉県民だが、あんこの世界から見ると、栃木県は実に魅力的だと思う。日光、那須、大田原、栃木、佐野・・・キラ星が多い。個人的なあんこランキングでは10位以内に入る

 

なのでここは安心してほしい。(私が言ってもたいして影響はないが)

 

その一つが県庁所在地・宇都宮の甘味処「甘党の店 三芳(みよし)」。ベタで「甘党の店」と銘打つのは勇気がいる。その心意気や良し。

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今回は定番の「あんみつ」(税込み 480円)を取り上げたい。

 

東京のあんみつの名店と比較してもコスパを含めて負けてはいない、と思う。

 

店構えが素晴らしい。鎌倉や京都にも引けを取らない(力入りすぎだよ)。

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有田焼の器は大きめで、自家製の白玉、黄桃、みかん、バナナ、パイナップル、赤えんどう豆が惑星のように円環を作り、中央にはこしあんの太陽が君臨(あん座)している。こしあんのボリュームも申し分がない。

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黒蜜がたっぷりとかかっていて、その下にシャキッとした自家製の寒天が沈んでいる。

 

個人的には求肥さくらんぼがないのはちょっぴり残念だが、ここは欲張り過ぎてはいけない。

 

主役のこしあんが色も風味もとてもいい。

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なめらかな舌触りで濃厚なあんこ。塩気が効いていて、口の中で「あたい(栃木)をなめんなよ」とおきゃんなつぶやきが聞こえてきそう。

 

自家製の白玉も実に柔らかい。

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店の創業は昭和26年(1951年)で、現在2代目

 

ややご高齢だが、いいお顔立ちで、忙しい中、ちょっとだけ話を聞くことができた。

 

あんこは「昔は小豆から炊いてましたが、今は製餡所から生餡仕入れて、上白糖でじっくりと練り上げています」。黒糖も少し加えているそう。

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甘味の定番メニューも多い。この店だけでも栃木県の生一本な職人気質が見て取れる。

 

ことあんこにかけては、栃木県はすばらしい、と思う。餃子だけではない。

 

江戸の昔、例幣使街道で、京都から日光東照宮まで長旅をしてきた宮家の殿上人たちも、「こんなところに都に負けない菓子がおまんなあ」と舌鼓みを打ったにちがいない。

 

と甘いエールで今回はジ・エンド。

 

所在地 栃木・宇都宮市馬場通り1-1-20

最寄駅 東武宇都宮駅から歩約10分

 

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「あんこ総出演」12種類のあんパン

 

あんこの小王国・小田原はあんパンの隠れメッカでもある。

 

以前このブログで地元の人気店「守谷製パン店」を取り上げたが、今回はもう一方の横綱柳家ベーカリー」を取り上げることにいたします。

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創業が大正10年(1921年)と守谷製パン店よりも古い。現在3代目。

 

しかもほとんど「あんパン専門店」と言っていいほど種類がめちゃ多い。建物と「うす皮あんぱん」のノボリがノスタルジック。

 

季節限定もあるが、その数は基本的になんと12種類!

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あんこは添加物を使っていないため日持ちがしない(約3日間)。手持ち資金の問題もあったが、12種類全部買って食べるのは断念して、やむなく5種類だけを選んだ(あんこ版箱船かも?)。

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それがこれ(断面図)。5種類でこれだけの迫力。

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小ぶりだが、ごらんの通り縦横ともに厚み(約5センチ強)があり、こんがりとした焼き色といい、パンの柔らかなもっちり感といい、思わず「ほーっ」とおったまげたくなる。

 

驚きは二つに切るとよくわかる。

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あんこのぎっしり感がただ事ではない。

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バラエティーに富んだこだわりのあんパンをここまで揃えているのは東京・浅草「あんですMATOBA」くらいかもしれない(他にあったらごめんなさい)。

 

あんこの詰まり方はこちらの方が圧倒している。

 

あんパン界のニッキー・ミナージュってところかな。

 

午前中に予約して、焼き立てをゲットして、夕方、自宅に戻ってからじっくり味わうことにした。

 

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5種類は次の通り。

 

つぶしあん(103グラム、税別200円)

こしあん(103グラム、同200円)

赤しそあん(104グラム、同200円)

幻の黒豆あん(101グラム、同200円)

海人の藻塩(期間限定97グラム、同250円)

 

パン生地の極端な薄さ(約1~2ミリくらい)と中のあんこのボリュームを見ていただきたい。200円は守谷製パン店(160円)より高いが、見た目の衝撃はいい勝負だと思う。

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まずは定番のつぶしあん。薄皮を通してうっすらと見えるあんこ。パンの美味さとつぶしあんのズシリとくる野趣。かなり甘め。田舎のあんこ。好みが別れるあんこ。

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対極に位置する東京・大島「メイカセブン」の巨大薄皮あんパンを隣に置きたくなる。

 

個人的にはこしあんの方が気に入った。

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しっとりとしてきれいな食感。甘さもやや控えめに感じた。余韻もいい。

 

最も気に入ったのは赤しそあん。赤しそは小田原の名産で、それをあんパンに生かしている。地産地消のあんパンでもある。

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パン生地の表面にへばりついている赤しそが面白い。その独特の香りがパンのいい匂いとともに無遠慮に鼻腔に侵入してきて、食欲中枢がムハムハと刺激されるよう。

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あんこは白あん(白インゲン)に細かい赤しそを加えていて、酸味と塩気が白あんの風味をさらに押し上げていると思う。見た目より食べると美味。

 

幻の黒豆丹波系の黒豆で作ったあんこ。黒豆の風味は思ったよりも抑えられていて、つぶつぶ感が独特。甘さは控えめ。面白い試みだと思う。

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期間限定の「海人の藻塩」は他のあんパンより50円高いが、風味のある藻塩が強めで、つぶしあんだが、しっとりと仕上げている。定番のつぶしあんよりこってり感もあり、風味もきれい。個人的にはこちらの方が好み。

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これだけの種類のあんこ、自家製かどうか気になったが、製餡所と協力してオリジナルレシピでで作っているようだ。あるいは生餡を仕入れて、独自に12種類のあんこを仕上げているのかもしれない。そのあたりは企業秘密のようで、教えてはもらえなかった。

 

それにしても建物や店内の本物のレトロ感は素晴らしいと思う。

 

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悲しいかな明治20年創業の「角田屋製パン」は2年半前に廃業してしまったが、小田原にいいパン屋さんが多いのはなぜか? 

 

地元の事情通によると、明治時代、上流階級の別荘が多かったこと、箱根が近いことなどが関係している。和洋折衷の文化が土台にあった、ということのようだ。

 

天国のやなせたかしさんもきっと知っていたに違いない。

 

所在地 神奈川・小田原市南町1-3-7

最寄駅 小田原駅から歩約15分

 

 

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ミラクルか?和菓子のシャガール

 

東北のあん古都・会津への旅のもう一つの狙いが不思議系の極致「Fly Me to The Moon 羊羹ファンタジアだった。何というネーミングか、私を月に連れてってだって? ようかんファンタジアだって? 

 

羊羹(ようかん)を追い続けている私にとって、その登場はほとんど衝撃的だった。

 

百聞は一見に如かず。とにかく見ていただきたい。

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切り口(断面)が絵画のような、確かにファンタジーそのもので、夕暮れの海を青い鳥が月に向かって飛んでいく、という図柄。

 

夜空と海が小豆羊羹で、その中間部を透明なブルーと金色3~4層がグラデーション状に広がり、そこに青い小鳥と月がくっきりと浮かんでいる。

 

なんじゃこりゃ?

 

切るたびに月が三日月から満月へと変化していく。びっくりのストーリー性。

 

江戸・寛政年間に東京・日本橋で初めて寒天を使った練り羊羹(それまでは蒸し羊羹が主流だった)が産声を上げた、というのが定説だが、オーバーに言うと、それ以来の羊羹界のエポックメイキングな登場の仕方かもしれない。

 

一体全体、これが羊羹に見えるか? いやいや、もし羊羹だとしても「YOKANN]とローマ字表記した方がいいのでは? そんな気にさせるユニークさだと思う。

 

作ったのが創業170年(嘉永元年創業)を超える、会津若松の老舗和菓子屋「本家長門屋(ほんけながとや)」だと知って、今回の目的の一つに入れた。

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会津駄菓子でも有名な店だが、上生菓子や創作和菓子にも力を注いでいる。会津藩松平家ゆかりの店でもある。

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アポなしで訪問、たまたま5代目がいらっしゃって、少しだけ話を聞くことができた。

 

それによると、考案の中心は6代目(息子さん)で「チームとしてみんなで約1年かけて試行錯誤しながら作り上げた」そう。3年ほど前のこと。いい意味で遊び心も感じる。

 

1箱(形は棹ではない)3500円(税込み)とそう安くはない。

 

パッケージもこれまでの常識とはまるで違う。

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3.11で大きな被害を受けた浪江町出身の若い女流画家にデザインを依頼したそう。

 

十二分に目を楽しませてくれるのはわかった。チャレンジ精神もわかった。

 

肝心の味はどうか? 

 

個人的な好み、自宅でコーヒー(紅茶やワインも合うそう)を用意して、パッケージを取り、台形のずっしりと重い中身を取り出した。形まで前例がない奇抜さ

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重さを量ったら510グラムもある。

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上から見るといい小倉色とテカリの練り羊羹。だが、包丁で少しずつスライスしていくと、このアンビリーバボーな羊羹のファンタスティック性が見えてくる。

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個人的にはシャガールの世界を思い出した。

 

練り羊羹の部分(夜空と海)は本格的な、密度の濃い、上質な羊羹で、口どけもいい。

 

夜空の星をイメージしているのか、会津特産のくるみ(鬼くるみ)や干しレーズン、クランベリーが潜んでいる。

 

この食感と風味(特に鬼くるみ)が練り羊羹と見事にコラボしている、と思う。

 

中央部の金色からブルーへのグラデーションの層は寒天と砂糖を煮詰めた錦玉羹で、驚くことにシャンパも加えている。違和感はない。

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青い小鳥と月は白あんを練り上げたレモン羊羹、クチナシや赤ダイコンで着色しているようだ。意識して果汁の酸味を加えている。職人芸。

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全体のほどよい甘さが確かにファンタジーに変換していくようだ。余韻も長い。

 

さて、こうした説明は無用かもしれない。

 

目で楽しみ、舌と鼻、すべてを動員して五感で楽しむ。よく考えたら、これは上生菓子の楽しみ方ではないか?

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フランク・シナトラをイメージして「私を月に連れてって」などと妙なくすぐり方をしなくても、これはある種伝統にのっとった、新しい、新古典の世界ではないか。

 

ふと世界に出したくなる、新しいWAGASHIの一つの成果かも、と思う。

 

目をつむると、絶妙な、濃厚な練り羊羹と錦玉羹、それに鬼くるみなどのバックコーラスが見事なハーモニーとなって、舌の上から全身に広がってくる。

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京都に負けない、本格的な練り羊羹と技術がベースに流れている。

 

あるいは3.11後のこれはみちのく和菓子界からの、世界に向けたささやかなメッセージと言えなくもない。Fly Yokann to The Moon. とシャレたくもなる。

 

さて青い鳥は見つかるか? 月はどっちを向いている?

 

今回はちょっと力が入りすぎたかもしれない。書いてて疲れてしまった(ふーっ)。

 

所在地 福島・会津若松市川原町2-10

最寄駅 会津鉄道線、JR只見線西若松駅から歩約6~7分

 

 

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「不思議系水ようかん」和菓子新世界

 

Go toを利用して、古都・会津へ行ってきた。

 

目的の大半はむろんのこと、あんこ旅!

 

そこで出会ったのが吉野葛(よしのくず)と寒天を使った、不思議な食感の水ようかん(の一種?)だった。

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その名も「小豆のほのか豆腐」(1棹 税込み780円)。商品名に豆腐の2文字を付けているが、豆腐ではない。

 

約3年前、現地で情報収集中、猪苗代駅前の食堂のオヤジさんから聞いたもの。「品がよくて、絹豆腐のような、ま面白い水ようかんだ。冷たくするとうめえよ。俺たちにはちょっと高いけどな(笑)」。

 

そのときは残念ながら時間がなくて行けなかった。今回の目的の一つがその時のリベンジ(?)でもある。コロナ下のご対面となった。

 

それがこれ。淡い藤色の、光を閉じ込めたような、半透明のぷるるん感が見た目からも伝わってくる。ありそうでない、初めての景色。

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タネを明かすと、小さな和菓子専門店「會津 豊玉(ほうぎょく)」が苦心の末に作り上げた和スイーツで、北海道産有機小豆と吉野葛の恋愛の結果(こんな表現ってアリ?)生まれたもの。

 

この店、その後調べてみたら、きらりと光る丁寧な仕事ぶりが一部首都圏にまで届いていることがわかった。オリジナルの上生菓子も作る、手作りにこだわったレアな和菓子屋さんで、店主は「全国菓子大博覧会」で、工芸大賞も受賞している。

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1棹の長さは180ミリ、幅60ミリ、厚さは33ミリ。重さが約437グラム。

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食感は吉野葛の存在感こしあんよりも上回っている、と思う。

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砂糖は多分グラニュー糖。控えめな甘さとぷるるん感が半端ではない。上品すぎて、あんこ原理主義の私には物足りなく思えるほど。

 

だが、しばらくすると、この物足りなさが、きれいな口どけと長い余韻に変化してくる。繊細な変化。

 

高価な吉野葛こしあんを練り込んだ意図がぼんやりと見えてくる。

 

野心的な創作和菓子の世界、だと思う。

 

店の創業は平成14年(2002年)で、店主は東京製菓学校を卒業した後、東京や千葉・山梨で腕を磨き、飾り菓子で工芸大賞を取るまでになった。技術力の高さの証明でもある。

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湧水のような余韻に浸りながら、さらに「富貴(栗)」(税込み200円)と「富貴(餅)」(同200円)も賞味してみた。

 

茶巾包みの小豆羹で、これがドンピシャ好みだった。

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あんこ(大納言小豆)の炊き方が職人ワザで、やや濃厚な甘さとつぶつぶ感が口の中で吹き上がってくるよう。いい小豆の風味のガブリ寄りはちょっと凄い。

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崩れ落ちる小豆羹の絶妙。餅粉と寒天のつなぎが解かれる感覚。しばしの間、おぼれたくなる。

 

手作りの蜜煮した一粒栗とのコラボ。

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とろける求肥(ぎゅうひ)とのコラボ、

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どちらも上質だが、あんこの美味さだけを追うなら、個人的には求肥の方かな(栗好きは置いといて)。

 

あえて言うと、「小豆のほのか豆腐」より気に入った。

 

店主はたまたま不在で、お会いできなかったのが残念だが、店のコロナ対策は過剰なほどだった。

 

素材選びと一からの手作りにこだわる、この猪苗代湖畔の町の小さな店。新しさと古典を融合させる試み。会津の頑固が少しずつ花開いていく。背景で猪苗代湖磐梯山が微笑んでいる気がするのだった・・・。

 

所在地 福島・耶麻郡猪苗代町字芦原10-2

最寄駅 JR磐越西線猪苗代駅から歩くと約15~20分

 

 

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25代?まさかの抹茶餡ぱふぇ

 

意外なあんこ王国・小田原編。2番バッターは「御菓子 ういろう」の喫茶室で出会った抹茶餡(まっちゃあん)をアレンジした和風ぱふぇ「涼風(すずかぜ)」である。

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正直、創業が室町時代というういろうの元祖(諸説ある)なので、上生菓子や新しい和スイーツと出会えるとは思ってもみなかった。

 

あんことは別種の「ういろう」はどちらかと言うと苦手な世界で、とはいえその歴史に敬意を表して、「ちょっと覗いてみるか」程度の軽い気持ちだった。

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天守閣を思わせる壮大な店構え。入り口をふと見ると、右手に喫茶室があり、そこに栗と白玉、それに抹茶餡などが層になっている「涼風」(税別600円)のメニュー写真が「おいで」をした。ん?

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まさかの流し目。まさかの出会い。クール美女の予感。

 

「老舗の職人が作るこだわりの逸品」とシンプルな説明も、超老舗のこだわりを感じさせる。うーん、悪くない世界。

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これは食べなければ・・・BGMのピアノ曲が流れる中、隅っこのテーブル席に腰を下ろして、いただくことにした。

 

来た。

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ごらんの通り、上から見ると、蜜煮した栗、白玉、甘納豆(大納言小豆)が見事に配置され、その下にはきれいな抹茶餡、横から見るとババロア、抹茶ゼリーが層になっている。

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冷たい夢のような世界(オーバーだって? いやいや)。

 

小さくほおーっが出かかる。

 

スプーンで白玉(柔らかな上質)、栗(キリリとしている)、甘納豆、ババロアの順で口に運び、隠れ主役の抹茶餡へと進んだ。

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これが見事な、京都の老舗に負けない抹茶餡だった。あまりにみずみずしい、粒子を感じる舌触り。

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抹茶と手亡(てぼう)の絶妙な練り具合。餡作りの砂糖は白ザラメか。

 

抹茶の濃い風味が白あんのきれいな風味と融合している。

 

職人の手の存在も確かに感じる。

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甘さもほどよい。

 

その歴史を思う。新しい和の試みに少しウルウルしてしまった。

 

店の人に自家製抹茶餡の詳しい話を聞こうと思ったが、「抹茶は京都から取り寄せています」としか教えてもらえなかった。上生菓子を作る職人さんが苦心して作ったもの、ということはわかったが。

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当主は25代目とか。室町時代に中国から日本に帰化した外郎家(ういろうけ)が、博多⇒京都(外郎本家)と経て、そこからさらに小田原に分家したという歴史のようだ。後北条の時代か。

 

その後、京都の本家は衰退し、小田原の外郎家が生き残り、隆盛し、今日まで暖簾を守り続けているということになる(諸説ある)。これってすごいこと。

 

面白いのはういろう自体はもともとは薬(丸薬)で、京都の2代目が苦い薬を調合する合間に甘い生菓子を出したところ評判を呼んだという。それがいつしか「ういろう」になってしまった、というのが一つの有力な説。この小田原本店の一角にも調剤コーナーがある。室町から連綿と続いている、感動もの。

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今ではういろうと言えば、名古屋が有名だが、歴史的には不明な部分が多い。

 

室町時代から数百年、小田原でその枝が和風ぱふぇにまで進化(?)していたとは、天国の初代が見たらびっくりするに違いない。

 

かってに恐惶謹言。あんこ大好き個人としては、このパフェにあんこバージョンも追加してほしい。特につぶあんこしあん・・・あんコールだってば(オヤジギャグ?)。

 

所在地 神奈川・小田原市本町1-13-17

最寄駅 JR東海道本線小田原駅東口から歩いて約15分

 

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小田原名物「ジャンボおはぎ」食らふ

 

小田原は実はあんこのメッカでもある。

 

戦国時代は北条4代、江戸時代に入ると東海道五十三次の宿場町。

 

いい和菓子屋が多いのもうなずける。

 

明治・大正以降はあんパンの名店もいくつか誕生している。

 

すごいこっちゃ。魚だけじゃない。

 

トップバッターで登場するのは「甘味喫茶 岡西(おかにし)」のジャンボおはぎである。

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トップバッターというより、重量度で見るとクリーンアップの5番打者あたりかもしれない。イメージとしてはデスパイネかな。

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とにかく見ていただきたい。

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大人のこぶし大のデカさ。天地左右8~10センチ大くらいかな。

 

見た瞬間、目が吸い寄せられてしまった。

 

京都・七条通松屋」の名代おはぎ(つぶしあんのみ)に負けない大きさだが、こちらはあん、きなこごまの3種類揃っている(それぞれ税込み 290円)。食感もだいぶ違う。

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岡西の創業は昭和22年(1947年)。昭和な、ノスタルジックな店構え。

 

白地の暖簾におはぎのシルエットが染め抜かれ、入り口の木枠のケースにはこのジャンボおはぎ3種類とだんご(みたらし)が置かれている。

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テイクアウトのお客が2~3人並んでいた。

 

店内で食べることにした。

 

かき氷やあんみつなども美味そうだが、ここはジャンボおはぎで初志あんこ貫徹

 

3種類全部食べようと思ったが、あまりのデカさに2種類で我慢することにした。

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メニューから「おはぎとお煎茶」(税込み 690円)を選び、追加で山のような「きなこ」(プラス290円)を指名した。アンビリーバボーな指名打者。合計980円の出費は仕方がない。

 

お盆に乗ったおはぎ2種のド迫力(写真よりも実物の方が迫力がある)。

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形はデカ丸(あん)と富士山型(きなこ)。

 

あんからいただく。

 

あんこはきれいな、明るい小倉色で、細かい小豆の皮も少し見えるが、ほとんどこしあん

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大きいので、箸で切り分けてから口に運ぶ。食べるというより文語体で「食らふ」という感覚・・・。

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こしあんのきれいな、やさしい食感が最初に来た。

 

京都・松屋の名代おはぎの崩れ落ちそうな柔らかなねっとり感ではない。甘さも濃厚ではなく、むしろさらしあんのような、さらりとした、ほどよいしっとり感。

 

口どけがとてもいい。北海道十勝産小豆の風味がきれい。

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奥から塩気がほんのりと来る。98%こしあん独特のあんこ、だと思う。

 

あんの炊き方が気になったので、店の女性スタッフに聞いてみたら、店主(4代目)が板場から出てきてくれて、こしあんに小豆の皮を少し加えている」とか。砂糖は上白糖のようだ。不思議なこしあん98%の謎が解けた気分。

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作り置きせず、出す前に作るのがこの店のポリシーとか。

 

もち米は半殺し(半分搗く)ではなく、蒸かしたままのようで、もっちり感は京都・松屋や今西軒ほどはない。ほどほどの炊き具合。

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個人的にはもっちり感のある半殺しが好きだが、これはこれで悪くはない。

 

1個だけでそれなりにお腹にズシリと来た。

 

熱い煎茶をがぶっと飲んでから、富士山型きなこへと箸をのばした。

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きな粉(国産)の量が半端ではない。

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中のあんこは同じあんこで、きな粉をかき分けるように箸で切り、口に運ぶと、これが絶妙な美味さだった。

 

きな粉の中に塩が潜んでいて、その塩加減がとてもいい

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たっぷり入ったこしあん(この表現があってると思う)の甘さとそれを包むもち米、それに盛大なきな粉が1+1+1=5のガブリ寄りで、口いっぱいに広がってくる。

 

唾液がどんどん出てくる感じ。

 

普通のきなこのおはぎが眼下に小さく見えるほど。

 

こちらもさわやかな涼風が舌の上で渦巻く。

 

1個で3個分はありそう。

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余裕があれば、ごまも追加したかったが、小田原あんこ旅のこの先もある。むろん財布の中身も気になる。

 

ここは涙でがまん。

 

それにしても・・・とつい思う。

 

ジャンボおはぎの最初の一撃だけで、甘いため息とともに、小田原恐るべし、と食べ終えた口からこぼれ落ちるのだった。

 

所在地 神奈川・小田原市栄町2-9-15

最寄駅 JR東海道線小田原駅下車、歩いて約5分

 

 

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