小田原は実はあんこのメッカでもある。
戦国時代は北条4代、江戸時代に入ると東海道五十三次の宿場町。
いい和菓子屋が多いのもうなずける。
明治・大正以降はあんパンの名店もいくつか誕生している。
すごいこっちゃ。魚だけじゃない。
トップバッターで登場するのは「甘味喫茶 岡西(おかにし)」のジャンボおはぎである。
トップバッターというより、重量度で見るとクリーンアップの5番打者あたりかもしれない。イメージとしてはデスパイネかな。
とにかく見ていただきたい。
大人のこぶし大のデカさ。天地左右8~10センチ大くらいかな。
見た瞬間、目が吸い寄せられてしまった。
京都・七条通「松屋」の名代おはぎ(つぶしあんのみ)に負けない大きさだが、こちらはあん、きなこ、ごまの3種類揃っている(それぞれ税込み 290円)。食感もだいぶ違う。
岡西の創業は昭和22年(1947年)。昭和な、ノスタルジックな店構え。
白地の暖簾におはぎのシルエットが染め抜かれ、入り口の木枠のケースにはこのジャンボおはぎ3種類とだんご(みたらし)が置かれている。
テイクアウトのお客が2~3人並んでいた。
店内で食べることにした。
かき氷やあんみつなども美味そうだが、ここはジャンボおはぎで初志あんこ貫徹。
3種類全部食べようと思ったが、あまりのデカさに2種類で我慢することにした。
メニューから「おはぎとお煎茶」(税込み 690円)を選び、追加で山のような「きなこ」(プラス290円)を指名した。アンビリーバボーな指名打者。合計980円の出費は仕方がない。
お盆に乗ったおはぎ2種のド迫力(写真よりも実物の方が迫力がある)。
形はデカ丸(あん)と富士山型(きなこ)。
あんからいただく。
あんこはきれいな、明るい小倉色で、細かい小豆の皮も少し見えるが、ほとんどこしあん。
大きいので、箸で切り分けてから口に運ぶ。食べるというより文語体で「食らふ」という感覚・・・。
こしあんのきれいな、やさしい食感が最初に来た。
京都・松屋の名代おはぎの崩れ落ちそうな柔らかなねっとり感ではない。甘さも濃厚ではなく、むしろさらしあんのような、さらりとした、ほどよいしっとり感。
口どけがとてもいい。北海道十勝産小豆の風味がきれい。
奥から塩気がほんのりと来る。98%こしあん。独特のあんこ、だと思う。
あんの炊き方が気になったので、店の女性スタッフに聞いてみたら、店主(4代目)が板場から出てきてくれて、「こしあんに小豆の皮を少し加えている」とか。砂糖は上白糖のようだ。不思議なこしあん98%の謎が解けた気分。
作り置きせず、出す前に作るのがこの店のポリシーとか。
もち米は半殺し(半分搗く)ではなく、蒸かしたままのようで、もっちり感は京都・松屋や今西軒ほどはない。ほどほどの炊き具合。
個人的にはもっちり感のある半殺しが好きだが、これはこれで悪くはない。
1個だけでそれなりにお腹にズシリと来た。
熱い煎茶をがぶっと飲んでから、富士山型きなこへと箸をのばした。
きな粉(国産)の量が半端ではない。
中のあんこは同じあんこで、きな粉をかき分けるように箸で切り、口に運ぶと、これが絶妙な美味さだった。
きな粉の中に塩が潜んでいて、その塩加減がとてもいい。
たっぷり入ったこしあんこ(この表現があってると思う)の甘さとそれを包むもち米、それに盛大なきな粉が1+1+1=5のガブリ寄りで、口いっぱいに広がってくる。
唾液がどんどん出てくる感じ。
普通のきなこのおはぎが眼下に小さく見えるほど。
こちらもさわやかな涼風が舌の上で渦巻く。
1個で3個分はありそう。
余裕があれば、ごまも追加したかったが、小田原あんこ旅のこの先もある。むろん財布の中身も気になる。
ここは涙でがまん。
それにしても・・・とつい思う。
ジャンボおはぎの最初の一撃だけで、甘いため息とともに、小田原恐るべし、と食べ終えた口からこぼれ落ちるのだった。
所在地 神奈川・小田原市栄町2-9-15