あんこの小王国・小田原はあんパンの隠れメッカでもある。
以前このブログで地元の人気店「守谷製パン店」を取り上げたが、今回はもう一方の横綱「柳家ベーカリー」を取り上げることにいたします。
創業が大正10年(1921年)と守谷製パン店よりも古い。現在3代目。
しかもほとんど「あんパン専門店」と言っていいほど種類がめちゃ多い。建物と「うす皮あんぱん」のノボリがノスタルジック。
季節限定もあるが、その数は基本的になんと12種類!
あんこは添加物を使っていないため日持ちがしない(約3日間)。手持ち資金の問題もあったが、12種類全部買って食べるのは断念して、やむなく5種類だけを選んだ(あんこ版箱船かも?)。
それがこれ(断面図)。5種類でこれだけの迫力。
小ぶりだが、ごらんの通り縦横ともに厚み(約5センチ強)があり、こんがりとした焼き色といい、パンの柔らかなもっちり感といい、思わず「ほーっ」とおったまげたくなる。
驚きは二つに切るとよくわかる。
あんこのぎっしり感がただ事ではない。
バラエティーに富んだこだわりのあんパンをここまで揃えているのは東京・浅草「あんですMATOBA」くらいかもしれない(他にあったらごめんなさい)。
あんこの詰まり方はこちらの方が圧倒している。
あんパン界のニッキー・ミナージュってところかな。
午前中に予約して、焼き立てをゲットして、夕方、自宅に戻ってからじっくり味わうことにした。
5種類は次の通り。
①つぶしあん(103グラム、税別200円)
②こしあん(103グラム、同200円)
③赤しそあん(104グラム、同200円)
④幻の黒豆あん(101グラム、同200円)
⑤海人の藻塩(期間限定97グラム、同250円)
パン生地の極端な薄さ(約1~2ミリくらい)と中のあんこのボリュームを見ていただきたい。200円は守谷製パン店(160円)より高いが、見た目の衝撃はいい勝負だと思う。
まずは定番のつぶしあん。薄皮を通してうっすらと見えるあんこ。パンの美味さとつぶしあんのズシリとくる野趣。かなり甘め。田舎のあんこ。好みが別れるあんこ。
対極に位置する東京・大島「メイカセブン」の巨大薄皮あんパンを隣に置きたくなる。
個人的にはこしあんの方が気に入った。
しっとりとしてきれいな食感。甘さもやや控えめに感じた。余韻もいい。
最も気に入ったのは赤しそあん。赤しそは小田原の名産で、それをあんパンに生かしている。地産地消のあんパンでもある。
パン生地の表面にへばりついている赤しそが面白い。その独特の香りがパンのいい匂いとともに無遠慮に鼻腔に侵入してきて、食欲中枢がムハムハと刺激されるよう。
あんこは白あん(白インゲン)に細かい赤しそを加えていて、酸味と塩気が白あんの風味をさらに押し上げていると思う。見た目より食べると美味。
幻の黒豆は丹波系の黒豆で作ったあんこ。黒豆の風味は思ったよりも抑えられていて、つぶつぶ感が独特。甘さは控えめ。面白い試みだと思う。
期間限定の「海人の藻塩」は他のあんパンより50円高いが、風味のある藻塩が強めで、つぶしあんだが、しっとりと仕上げている。定番のつぶしあんよりこってり感もあり、風味もきれい。個人的にはこちらの方が好み。
これだけの種類のあんこ、自家製かどうか気になったが、製餡所と協力してオリジナルレシピでで作っているようだ。あるいは生餡を仕入れて、独自に12種類のあんこを仕上げているのかもしれない。そのあたりは企業秘密のようで、教えてはもらえなかった。
それにしても建物や店内の本物のレトロ感は素晴らしいと思う。
悲しいかな明治20年創業の「角田屋製パン」は2年半前に廃業してしまったが、小田原にいいパン屋さんが多いのはなぜか?
地元の事情通によると、明治時代、上流階級の別荘が多かったこと、箱根が近いことなどが関係している。和洋折衷の文化が土台にあった、ということのようだ。
天国のやなせたかしさんもきっと知っていたに違いない。
所在地 神奈川・小田原市南町1-3-7
最寄駅 小田原駅から歩約15分