週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

「日光水ようかん」食べ比べてみた

 

待ってました!と、裏声で掛け声をかけたくなる。

 

冷た~い水ようかんの美味しい季節である。

 

コロナで外出制限があるが、県またぎも明日解除される。

 

なので、前祝い

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福井や小城市など羊羹や水ようかんの町は全国にいくつかあるが、水ようかんのレベルや質を考えると、私のイチオシは日光である。

 

日光東照宮への参道をブラ歩きすると、水ようかんの古い看板が7~8軒ほど見えてくる。歴史的に見ても、一か所にこれだけのようかん屋さんが密集している場所は多分、ここだけだと思う。

 

片っ端から食べ歩きしたいが、水ようかんは日持ちがせいぜい3~5日なので、そうもいかない。悲しいかな、予算もある。

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なので、今回は中でも一番古い歴史をもつ「綿半(わたはん)」(創業天明7年=1787年、写真上)と人気上位の「鬼平(きびら)」(創業大正末、写真下)を買い求めて、自宅で賞味することにした。

 

究極の二択、と決め打ちした。「ひしや」も入れたかったが、10年ほど前に休業してしまった(こんなに悲しいことはない)。

 

「綿半」のものは5本入り(税込み760円)、「鬼平」も5本入り(同750円)。

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綿半はモスグリーンの包装としっかりした紙箱、鬼平は明るいブルーと簡易な紙箱の違いはあるが、それ以上に見た目の色と食感が明らかに違う。

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比較すると、違いがよくわかる。

 

まず綿半から。きれいな、深みのある小倉色で、重さも少し重い。

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日光で最初に練り羊羹を作った店でもあり、技術がしっかりしている印象。

 

こしあんと寒天の割合が絶妙で、むしろこしあんに比重があると思う。

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上品なほどよい甘さで、舌触りはなめらか。こしあんの粒子も感じる。塩気のほんのり具合も穏やかで、深く長めの余韻がしばらく舌の上に残る。

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こしあん好き派には「うめえ」と吐息が漏れる味わいだと思う。

 

たまたまいらっしゃったご高齢の7代目女将によると、小豆は北海道産、砂糖は上白糖を使用、「寒天を多くし過ぎないようにしてます」とか。

 

隣の鬼平(下の写真)は、色がまず綿半より黒っぽい。寒天の存在がより前面に出ていて、光が当たると白っぽく透き通って見える。こしあんの存在がその分薄くなり、味わいはみずみずしくなる。清流の水ようかん、といった感じ。

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甘さがかなり抑えてあり、口どけがとてもいい。

 

あっさり系の水ようかん、とも言える。福井の水ようかんにも近い感じで、より寒天を感じたい人には「たまらない」水ようかんだと思う。

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「日光周辺では昔から水ようかんが各家庭で作られていて、冬の楽しみだったんです。それを商品として売り出したのはウチが最初です。煉り羊羹はもっと昔からありましたけど」(鬼平3代目女将さん)

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鬼平も小豆は北海道産、砂糖は上白糖を使用。それに塩。綿半とほとんど同じ材料を使って毎朝早くから水ようかんを作っているのに、仕上がりはそれぞれの特徴が出てくる。ライバルとしての自負も出てくる。

 

蒸し羊羹から派生した、寒天を使った煉り羊羹が登場したのは江戸時代寛政年間(1789~1801年)といわれる(諸説ある)。

 

幕府の菓子司「大久保主水」で修業した喜太郎(「紅谷志津摩」初代という説もある)が江戸日本橋に店を出し、それが話題を呼び、人気を集めていった。

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寒天を使った水ようかんも同じくらいの歴史があるようだ。煉り羊羹ほど日持ちしないのと比較的簡単に作れるので、冬のスイーツとして、徐々に広がっていったようだ。

 

全国的な人気になったのは明治に入ってからではないか。開国で砂糖の解禁が進み、和洋菓子屋さんの数が急激に増えて、同時に水ようかんの地位も高まっていった。

 

日光の水ようかんが東照大権現徳川家康)の足元で生き残り、和スイーツの聖地化しているのは偶然ではない、と思う。

 

家康も実は和菓子好き、大のまんじゅう好きだった。

 

あんこ好きにとっても大権現なのである。

 

所在地 「綿半大通り店」栃木・日光市下鉢石町799

    「鬼平の羊羹本舗」栃木・日光市中鉢石町898

最寄駅 東武日光駅から歩約10~15分

 

 

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秩父の「グレイトあんこ」5種

 

コロナで外出自粛のはずが、スチール(盗塁)してしまった。

 

ひょっとして夢の中の出来事かもしれない(笑)。

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埼玉・秩父老舗和菓子屋「江原本店」の白い暖簾をくぐる。

 

「大正11年創業」(1922年)の文字がさり気ない。

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入った瞬間、自家製の生菓子がシンプルに並べられていて、いい店だとわかった。2年ほど前に建て替えたようで、平屋建てで新しい。

 

単なる和菓子屋ではない。製餡業も営んでいて、私がかつて感動した水ようかんもここのあんこを使っているようだ。

 

秩父地方の郷土まんじゅう「すまんじゅう」(つぶ、こし 税込み100円)、「茶まんじゅう」(同70円)、「草もち」(同100円)、「栗どら焼き」(同150円)を買い求め、3代目ご夫妻とご子息の4代目とあれこれ雑談しながら、その翌日、自宅で冷たい麦茶を用意して、賞味となった。

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あんこ旅みょうりに尽きる。コロナもどこかに消えている。

 

まずは「すまんじゅう」。「す」の意味は諸説あるが「酢」ではなく「素」のようだ。

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糀(こうじ)を使った酒饅頭で、店によって形が違う。「江原本店」のものは平べったくて大きめ。

 

皮からいい糀の香りがする。

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蒸かし立て作り立てが一番美味い。だが、個人的な事情で賞味が翌日午前になってしまった。添加物類は一切使っていないので、皮が少しパサついていた。

 

後悔先に立たず。

 

店主に教えれた通り、レンジでチンしたら、絶妙な美味さに変わった。

 

あんこは少なめ。こしあんよりつぶあんの方が塩気がやや強めで、いい小豆の風味が口中でふわりと開花してきた。あんこの量がもっとあれば、文句のつけようがない美味さだと思う。

 

一個100円がコスパの凄さを醸し出している。

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「茶まんじゅう」が気に入った。こしあんのボリューム、しっとりとした美味さが際立っている。70円が信じられない。

 

「草もち」はきな粉が表面にかかっていて、本物感を漂わせていた。

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悲しいことにこちらもはや固くなり始めていた。レンジでチンしたら、草もちの柔らかさと中のつぶしあんが絶妙に変わった。甘さを抑えていて、ほんわか感が立ってくる。

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繰り返すが、生菓子は翌日に持ち越してはいけない。反省あんこ。

 

「江原本店」はあんこ屋さんでもあるので、あんこのこだわりと種類が多い。

 

3代目によると、建て替える前は薪(まき)であんこを炊いていたという。驚き。

 

北海道産、神奈川産など国産小豆を使用、砂糖も中ザラ、グラニュー糖を使い分けているという。あんこ職人のこだわりがわかる。

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締めの「栗どら焼き」に手が伸びる。

 

これが予想を超えた味わいだった。「日本橋うさぎや」ほど大きくはないが、皮の濃い目の焼き色、甘い香り、ふくよかなしっとり感が上質。

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何よりも中のつぶあんが艶やかに炊かれてて、抑えられた甘さ、きれいな風味、ほのかな塩気が三位一体の味わいで、栗どら焼き番付で行ったら、コスパ的にも三役以上はゆうに行くと思う。

 

秩父にはいい和菓子屋が多い。コロナで人通りの少ない街中を歩きながら、この地方の総鎮守・秩父神社まで足を運ぶ。

 

茅の輪くぐりをして、コロナ疫病除けをお祈りした。

 

遠くであんこの神様も微笑んだ気がするのだった。早く食べなさい、と。

 

所在地 埼玉・秩父市大畑町8-9

最寄駅 秩父本線大野原駅から歩約5分

 

 

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涼!金沢の「生麩まんじゅう」

 

コロナと暑さでときどき「わあー」と叫びたくなる。

 

ゴジラ一歩手前状態(笑)。危ないアブナイ。

 

なので、今回取り上げるのは、頭を静めるのに適した涼やかな生菓子です。

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まだ遠出できないので、お取り寄せ。

 

慶応元年(1965年)創業、加賀麩の老舗「不室屋(ふむろや)」の「生麩まんじゅう」がターゲットです。

 

オンラインで注文、自宅に届いたのは2日後。

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実物を見ただけで、涼風が脳内を通り抜けていく。生菓子一つで世界が変わることだってある・・・まさか?

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10ケ入り(税込み2376円)。クール便(冷凍)なので、送料がプラス1045円かかる。

 

すぐに冷蔵庫に入れ、約4時間かけて、ゆっくりと解凍する。

 

みずみずしいクマ笹で三角形に包まれていて、それをていねいに取ると、主役が現れた。

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笹の香りとともに、うっすらと若草色の麩まんじゅうは、宝石のようにつややかで、しかもみずみずしい。清流から抜け出てきたような印象。

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のりを練り込んでいる? 

 

「いいえヨモギなんですよ」(不室屋)

 

口当たりの食感はつるりとしていて、ぷにゅりとした、柔らかな歯触りと上質の生麩の香りが広がってくる。ヨモギの香りはかすかにする程度。

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中のあんこはこしあん。濃い藤紫色に吸い寄せられる。

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麩まんじゅうの元祖・京都「麩嘉(ふうき)」こしあんなので、これはいわば麩まんじゅうの本流の形と言えそうだ。

 

こしあんはなめらかな舌触りといい、芳醇できれいな小豆の風味(大納言小豆?)といい、控えめな甘さといい、京都に次ぐ和菓子の街・金沢の奥行きを感じさせるものだと思う。

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砂糖はグラニュー糖を使用している。

 

冷たい麦茶で舌を洗いながら、2個ゆっくりと味わう。

 

コロナ包囲網の中で、小さな黄金の時間が過ぎていく。

 

皮には餅粉も加えているので、もっちり感も十分にあるが、思ったほど手にも歯にもくっつかない。

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笹の香り、生麩、こしあん・・・絶妙な上質の交錯だと思う。

 

すーっと抜けていく余韻がきれい。

 

あんこの恋愛に例えると、「後朝(きぬぎぬ)の別れ」という言葉をつい連想してしまう。

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生麩の歴史は古く、精進料理として、中国から入ってきたようだ。それが日本で洗練され、千利休も茶会では麩料理を使っている。

 

だが、生麩にこしあんを入れたのは、歴史的にはそう古くはない。

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スイーツ好きだった明治天皇のたっての依頼で、「麩嘉」が作ったのが最初と言われている。

 

明治天皇山岡鉄舟を通じて、銀座木村屋のあんぱんもよく所望したというエピソードも残っている。大のあんこ好きだったようだ。

 

約2年前、あんこ旅で金沢を訪れた時、「加賀麩 不室屋」(尾張町店)の黒暖簾と蔵造りの佇まいがとても印象に残った。

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その時はたまたま都合がつかず、中で麩まんじゅうを食べそこねてしまった。

 

写真だけ撮り、次の機会に来ようと立ち去ったが、その後コロナなどで行くことがかなわず、その恨み(?)が今回のお取り寄せとなった。

 

つまり、2年越しの甘いご対面となったわけである。

 

所在地尾張町店) 石川・金沢市尾張町2-3-1

 

〈お取り寄せ〉

生麩まんじゅう(10ケ入り)税込み2376円

(別途送料 1045円)

合計 3421円なり

 

 

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新型!五色のあんこ玉とテリーヌ

 

アベノマスクはいらない、ドラえもんどこでもドアが欲しい!

 

と喚いても始まらない。

 

コロナがなければ旅する予定だった岡山にも行けず、松山、松江もしばらくは虹の彼方。

 

なので、「新しいあんこ生活」に切り替え、お取り寄せにハマることにした。

 

目を付けたのがこれ。

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おそらく、今、もっとも挑戦的なポジションにいる老舗の一つ、愛媛・松山市「石田製餡所」(創業大正13年)が始めた実験店「アン・パティスリー七日」伊予市)の逸品を二つお取り寄せした。

 

「七日のひと口餡子」(左)「餡とチョコのテリーヌ」(右)である。

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あんこの最前線という意味で取り上げることにした。

 

「餡とチョコのテリーヌ」は物珍しさからテレビでも紹介され、あんこ好きを驚かせた逸品だが、「七日のひと口餡子(あんこ)」はデビューしたのが3か月ほど前でもっとも新しい。

 

店名の「七日」の意味は、「あんこが一番おいしい期間が七日間」から来ているとか(異論もあるかもしれないが)。

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パッケージも凝っていて、グレーの厚手の包装紙を取ると、木箱が現れ、その中に5種類のあんこ玉×2が収まっていた。

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これって和菓子? 洋菓子? ジャンル分けなどどちらでもいい?

 

パステルカラーが5つ。それが2列。う・つ・く・し・い。

 

写真左からラムネ餡いよかん桃餡朱鞠(しゅまり)餡ミルクとコーヒー餡の5種類。

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形は直径35ミリほどのあんこ玉だが、イメージが追いつかない。

 

表面には透明な寒天が膜のようにテカっていて、中のきれいな創作あんこを包み込んでいる。朱鞠餡以外は白いんげんをベースにしたこしあんで、それぞれの風味をクチナシなどで淡く着色している。

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自粛疲れの目がきゅーっと持っていかれそうになる(危ないアブナイ)。

 

あんこ原理主義の私にとっては、評価に戸惑う世界だが、むくむくと沸き起こる好奇心が抑えられない。

 

点数を付けるのは失礼だが、意外という意味で、個人的にもっとも気に入ったのは空色のラムネ餡。90点くらい。

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しっとりとなめらかな、さわやかささえ感じる舌触り。白あんのほどよい甘さ。

 

白いんげんとラムネの風味がミスマッチではないのが不思議。頂上にレモンがチョコンと乗っている。青空に抜けていくような、詩的な余韻がしばらく舌の上に残ったまま。そんな感じかな。

 

使用している砂糖はグラニュー糖で、上品な淡い味わいだと思う。

 

製餡所の技術とパティシエの技術がうまく溶け合っているようだ。

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桃の香りが広がる桃餡、いよかん餡のみずみずしい果実味、ミルクとコーヒー餡の深みも楽しめるいいレベルだと思う。

 

最もベーシックな朱鞠餡(しゅまりあん)は、この製餡所の力がよくわかる。

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えりも小豆ではなく、朱鞠小豆(おそらく北海道・美瑛産)を使っているのがこだわりの強さを感じる。紫がかった色と上品でふくよかな風味が特徴で、さらに渋抜きをしっかりしているので、雑味がない。上生菓子こしあん

 

私は渋抜きをある程度抑えた、雑味のある素朴なあんこも大好きなので、少し物足りない感もあるが、この上品さは悪くはない。

 

「餡とチョコのテリーヌ」も書いておきたい。

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石田製餡所4代目が創業百年を前に「新しいあんこの可能性」を追求して、2017年11月に伊予市に「アン・パティスリー七日」をオープンさせた。

 

その際にパティシエを迎え入れ、試行錯誤の末に目玉として作ったのがこの「餡とチョコのテリーヌ」。

 

むしろ新しい和スイーツと言った方がいいかもしれない。

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一本の重さは293グラム。長さは127ミリ、幅53ミリ、厚さは36ミリほど。

 

パッケージを取ると、生チョコそのもののようで、上質の国産チョコレートの香りが強烈に吹き上がってくる。

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包丁で切るのに苦労するほどチョコテリーヌがべたっとくっついてくる。

 

どこにあんこがあるのか一瞬わからなくなるほど、食感も味わいも重厚なチョコレートのテリーヌそのもの。

 

だが、よく見ると、真ん中に直径2センチほどのこしあんが筒状に詰まっている。

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これも朱鞠小豆のこしあんで、注意深く舌先で探らないと、チョコテリーヌの濃厚に押しつぶされてしまう。こしあんがんばれ、と声をかけたくなった。

 

「岩塩をつけて食べると美味しい」と書いてあったので、その通りにしてみると、確かに美味さにインパクトが出てきた。

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イケる! これってアイデアものだと思う。

 

とはいえ。

 

チョコレート好きにはたまらない味わいだが、あんこの存在が薄すぎると感じるのはあんこ原理主義者ゆえかもしれない。

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個人的にはあんこの量を2倍くらいにして、チョコレートの量をもう少し減らせば、あんことチョコの大恋愛も「あんビリーバボー!」と拍手したくなるのだが(あくまでも個人的には、です)。

 

ここであん考。あんこが世界に出ていく。新しいファンを開拓する・・・この新しい、ビビッドなあんこのチャレンジ精神と可能性に注目していきたい。

 

所在地(アン・パティスリー七日) 

愛媛・伊予市米湊710-1

〈お取り寄せ) 

七日のひと口餡子 税込み1188円

餡とチョコのテリーヌ 同2160円

(別途送料 クール便1320円、代引き手数料330円)

今回の総合計支出 4998円なり

 

 

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赤福よりレア素朴「こしあんだんご」

 

これはこしあん銀河系あんこ餅好きには、一目置きたくなる「おだんご」だと思う。

 

伊勢名物「赤福」とよく似ているが、赤福ほど有名ではない。

 

とにかく見ていただきたい。

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折にぎっしり詰まったこのおだんご、というよりあんころ餅(?)を初めて見た時、心がざわめいた。

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5年近く前、台風18号で鬼怒川が決壊した時、茨城・常総市が大きな被害を受けた。たまたまボランティアのはじっこで汗を流していた時、世話好きの町のおばさんが持ってきてくれたものがこれだった。

 

見た目は素朴な、あまりに素朴なあんころ餅だったが、ひと口で一瞬にして疲労が吹っ飛んでしまった。疲れが美味さを倍増させたかもしれないが、こしあんと柔らかな餅の美味いこと。ホントにほっぺが落ちてしまった(心のほっぺだが)。

 

「春子屋のおだんごですよ」

 

おばさんから店名を聞き出し、とりあえずメモしておいたが、諸事情でその後訪ねる機会を失っていた。

 

コロナ禍の中、今回ようやく訪問が実現した。

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添加物不使用の手作りのため、賞味期限は「本日中に召し上がってください」と完全武装の女性スタッフ。聞くと、女将さんだった。見事な熟練のワザで、自家製のこしあんを小さくちぎっただんごにこすり付けるように素早く乗せていく。その繰り返し。

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店の創業は昭和3年(1928年)で、現在3代目。女将さんはその奥さんで、現場を仕切っているようだ。

 

関東のローカルで「90年以上こしあんだんご一筋」というの凄い。

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一番小さな折り(18個入り 税込み540円)を買い求め、その約7時間後に自宅で5年越しのご対面となった。あんビリーバブルな再会。

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折を取ると、再びざわめきの世界。こしあんの色に引き込まれそうになる。今回は疲労はない。

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一見すると赤福ほど形は洗練されていないが、雑然としたどこか田舎臭い、素朴なこしあんが、口に入れた瞬間、いい風味ですっくと立ちあがってきた。

 

田舎娘がくるりと湯上り女に変化したような。

 

素朴な上質と表現したくなる。

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北海道十勝産小豆の風味と、甘すぎない、あんこの粒子を感じる舌触り。うめえ・・・という言葉が自然出でてくる。塩は加えていない。

 

砂糖は上白糖を使っているようだ。

 

驚きべきはだんご(餅)のきれいな柔らかさ。地場産コシヒカリ上新粉を蒸かし、搗(つ)きあげ、少し冷ましてから小さくちぎって丸める。

 

餅粉も加えているのではないか、と思えるほど柔らかく伸びる。

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それがこしあんの美味さと絶妙に合う。創業以来のあんこ愛が滲み出てくるような。

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見た目は雑にも思えるほど素朴だが、それが研ぎ澄まされた熟練の世界で、クセになる美味さを意図的に隠しているのではないか。

 

人も見かけによらないが、あんこの世界も見かけによらない。

 

気が付いたら、半分なくなっていた。甘いため息。

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これって伊勢の赤福、圓八のあんころ餅(白山市)、門前仲町の深川餅、中将堂よもぎ餅(葛城市)・・・個人的には庶民派こしあんのキラ星に負けないだんごの隠れ逸品だと思う。

 

コロナ禍の中の希望のあんこ・・・そうつぶやきながら、残り半分に手が伸びるのだった。

 

所在地 「春子屋本店」茨城・常総市本石下3054

最寄駅 関東鉄道常総線石下駅から歩約12分

 

 

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コロナも退散?初夏の「麩まんじゅう」

 

 茨城、岐阜、愛知、石川、福岡の特定警戒5県の緊急事態解除が明らかになった。

 

リスクはあるが、まずはめでたい。

 

なので、久しぶりのあんこ旅

 

今回ピックアップしたのは茨城・坂東市の老舗和菓子屋「創作和菓子 すずき」

 

以前から目を付けていた店。創業百年ほど。現在4代目

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そこで見つけたのが「麩まんじゅう」(税込み 160円)だった。

 

あんこセンサーがビビビと反応した。

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想像以上の上質で、みずみずしい笹に包まれた、ある種かぐや姫の予感・・・。

 

中のあんこは?

 

「創作和菓子」と銘打っているが、バラエティーに富んだ饅頭類や大福、それに人気ナンバーワンという「かりんとまん(かりんとう饅頭)」など、いずれも小ぶりだが、歴史と上生菓子の気配がある。しかもローカル価格。心惹かれたので、それらを買い求めて、約5時間後、自宅で一人品評会を開くことにした。

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何よりも賞味期限が短い「麩(ふ)まんじゅう」から。

 

透明な包みを取ると、いきなりみずみずしい熊笹の香りが鼻先をくすぐる。

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初夏の「たまらん!」。

 

黒文字で留められた熊笹を取ると、湧き水から抜け出てきたような、麩まんじゅうが現れた。まるで水の小さな女神だよ。

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生麩と白玉粉(?)を丁寧に練り上げた、手で触れると、くっつきそうな、羽二重餅のようなもっちり感。なめらかな上質の舌触りをしばし楽しむ。

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中のあんこはこしあんではなく、粒あんだった。

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とろりとした、皮まで柔らかいつややかな粒あんで、甘さを抑えた味わいは本物の和菓子職人の気配を感じさせるに十分だと思う。あ・り・が・た・い。ワンランク上の冷たい美味。暑い脳内に一瞬の涼風。

 

4年ほど前、裏千家の千玄室さんが京都のミニ講演で「ありがたい、の本当の意味は漢字で書くとよくわかる。有難い、なんですよ。あること自体が難い、ことなんです」と話していたことを思い出した。深い一滴だと思う。

 

小豆は北海道産、砂糖は「グラニュー糖です」(4代目)。塩は使っていないようだ。

 

関東のローカルで、地道にこういうすぐれた、いい仕事を続けている店と出会うのはあんこ旅みょうりに尽きる。

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饅頭は「かりんとまん」(120円)、「柚子饅頭(ゆずまんじゅう)」(100円)、みそ風味の「長寿まんじゅう」(110円)、「黒糖饅頭」(100円)。それにつぶあん大福」(100円)。

 

いずれも小ぶりで、柚子饅頭(粒あん)と長寿まんじゅう(こしあん)の皮には「つくね芋を加えているんですよ。いちいち表記していませんけど」とさり気ない。つまり薯蕷饅頭(上用饅頭)の要素も忍ばせている。

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粒あんこしあんも上質で、雑味がない。塩気がわからないほどほんのり。この舌代が信じられない。

 

「かりんとまん」はかりんとう饅頭がブームになる以前、12年ほど前から作っているという。「テレビが取材に来て、ブームの火付け役になった」とこちらもさり気なく話す。黒糖は表記していないが波照間産。

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揚げ立てが一番美味い、とおっしゃるので、早めに食べたら、確かに皮のカリカリサクサク感がすごい。中のきれいなこしあんとよく合っている。

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素材選びから作り方まで、隠したがる店が多い中で、聞くとすぐに答えてくれる。

 

東京の老舗和菓子屋で修業後に、この地で4代目を継いでいる。奥さんと二人三脚で毎日朝早くから地道に上質の和菓子を作り続けている。伝統をしっかり押さえながら、新しい試みにもチャレンジし続けているのもすごいことだと思う。

 

「もう40年になります。疲れました(笑)」とざっくばらんに話すが、娘さんが5代目修業中で、コロナが追い打ちをかけるように、いい和菓子屋さんが苦しんでいる中で、これは一筋の明るい光だと思う。

 

「5代目」と言葉にした瞬間、白い歯がこぼれた。

 

所在地 茨城・坂東市辺田1521

最寄駅 東武アーバンクライン愛宕駅から茨城急行バス

 

 

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「銚子VS西新井」対極の今川焼

 

緊急事態が延長されたので、今回はたい焼きよりも今川焼、と渋~く行ってみたい。

 

今年の前半戦で、へえーと印象に残ったのが、あまりに対照的なこの二品。

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上の写真が千葉・銚子で食べた「さのや」の、野暮ったい、見ようによっては牢名主のような今川焼。チラ見しただけでひれ伏したくなる、そんな気がしませんか?

 

下の写真が東京・西新井大師「甘味 かどや」のきれいな今川焼。下町の小粋な、湯上り美女のような、そんな形容を付けたくなってしまった。

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どちらも歴史のある今川焼で、皮もあんこも同じ今川焼とは思えないほど対照的。コアなファンが多いことが共通している。

 

まずは「さのや」今川焼を賞味してみよう。

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黒あんと白あんの2種類(それぞれ税込み150円=テイクアウト)あり、店内で食べると3円高くなる。

 

2個くっ付けたくらいの武骨な高さと焦げ目のムラ。まだら模様。

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驚きのごつごつした外観だが、油感のある皮の野暮ったさもただ事ではない。

 

うどん粉をストレートに感じる、オーバーに言うと、むにゅっとした歯ごたえ。

 

黒あんのあんこ(つぶあん)は甘めで、どろりとしていて、いい意味で洗練とはほど遠い。塩気も効いていて、銚子沖の漁師が「うめえ」と言いながら、頬張るイメージが浮かぶ。

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あんこのボリュームもかなりのもの。

 

白あんはインゲン豆で、こちらもあまりに素朴な、洗練を超えた味わい。甘さは控えめ。みりんの隠し味も感じる。

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個人的な感想では絶品というより、絶無といいたくなる今川焼だと思う。ハマるとクセになる予感が詰まっている、別の表現をすると、深海魚のような今川焼

 

「銚子名物 創業明治40年」と書かれた昭和な店構えも悪くない。

 

現在4代目。店主と女性2人、計3人で忙しく焼いている光景はこの店が人気店ということを改めて感じさせる。

 

もう一品。西新井大師参道にある「かどや」の今川焼は対極的で、きれいなきつね色の正統派今川焼で、それも下町の洗練を感じさせる。

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ペンキ塗りの、本物の昭和レトロの建物が絵になる。「ALWAYS 三丁目の夕日」の世界。「今川焼」のノボリ。

 

軽食堂がメーンだが、今川焼目当てのファンも多い。私もその一人。

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一個が120円(税込み)。

 

ふわりとしたピュアな皮。中の粒あん「北海道産100%」を強調しているだけのことはある。砂糖は多分白ザラメ。これが格別な味わい。

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いい小豆の、吹き上がるような風味が素晴らしい。ありそうでなかなかない、絶妙なあんこだと思う。なめらかさと塩気のほんのり感。雑味のないきれいな余韻がしばらく舌に残る。

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コロナが気になって、電話すると、「今川焼はGWで終わりました。夏はかき氷に切り替わりますが、今年はこういう状況なので、どうなるか。いずれにせよ緊急事態宣言が明けてから、になると思います」と困惑の声が返ってきた。

 

「かどや」の創業は大正11年(1922年)ごろ。現在4代目女将、5代目も板場に立っている。

 

元々は飾り屋(花屋さん)で、甘味軽食を始めたのは戦後の昭和30年(1955年)から。今川焼はその当時からのもの。

 

こういういい店も困らせるコロナめ。西新井大師の開祖・弘法大師の神秘パワーで退散させる日も近い、今に見ておれ、と思いたい。

 

〈所在地〉

「さのや」千葉・銚子市飯沼町6-7 最寄駅=銚子電鉄観音駅から歩約7~8分

「かどや」東京・足立区西新井1-7-12 最寄駅=東武大師線大師前駅から歩約3分

 

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