週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

あやめだんごと3種のおはぎ

 

コロナで遠出できないので、とっておきの和菓子をご紹介したい。

 

尾張名古屋をあんこ旅していた時のこと。

 

串だんご好きの私に甘い情報が入った。

 

それが餅菓子屋「筒井松月(つついしょうげつ)」の「あやめだんご」だった。

f:id:yskanuma:20200430140812j:plain

 

ネットで調べる。正直に告白すると、それほど美味そうには見えなかった。

 

日暮里の羽二重団子や築地の茂助だんごなど、有名過ぎてコスパ的にはどうかな、というレベルではないか(個人的な辛口評価だが)。

 

私にとってこれまで食べた串だんごの中でナンバーワンはかつて東京・築地にあった「福市だんご」(すでに廃業)だが、現存する中では北千住「槍かけだんご」、浅草「桃太郎」のあん団子コスパも含めてさん然と輝いている。

 

期待は裏切られるためにある。

 

なので、過剰な期待をせずに、「筒井松月」へ。

f:id:yskanuma:20200430140908j:plain

f:id:yskanuma:20200430142602j:plain

 

昔からそこにある、セピア色の下町の餅菓子屋さんの地味な外観。

 

私的には好きな世界だが。

 

プラスティック製の緑色の串のあんだんご瀬戸焼の大皿にほとんど直立に並べられていた。素朴だが、シンプル過ぎる。

f:id:yskanuma:20200430141004j:plain

 

実際に見ても、まだ美味そうには見えない。1本230円(税込み)も「ちょっと高いかな」の印象。

 

おはぎが美味そうだったので、あんこときなこ、それにごま(それぞれ税込み150円)を買い求め、「あやめだんご」もついでに付けてもらった。

f:id:yskanuma:20200430141114j:plain

 

「生ものなので、本日中にお召し上がりください」。3代目だという女将さんがややぶっきら棒な口調で、付け加えた。

 

ところが。

 

夕暮れ時、ホテルに戻って、自室で賞味したら、この先入観が大間違いだったことに気づかされた。

 

藤紫色のこしあんが5個の団子の両面にべたっと付けられていて、どう見ても職人の手のぬくもりが見えない。

f:id:yskanuma:20200430141224j:plain

 

それが。

 

口に入れたとたん、清流のようなみずみずしさが走った。ちょっとオーバーかもしれないが、ホントにそんな感覚だった。

f:id:yskanuma:20200430141437j:plain

 

こしあんのあまりの美味さ。雑味のない、甘さをほどよく抑えた、塩気との見事な融合。いい小豆の風味がそよ風になっていた。

 

これは思った以上にすごい。

 

濃厚ではなく、きれいな湧き水を思わせるこしあん

f:id:yskanuma:20200430141603j:plain

f:id:yskanuma:20200430141759j:plain

 

さらに見かけとは違って、餅の柔らかさが想像以上だった。まるで羽二重餅で、きれいな余韻を残してすーっと伸びる。

 

翌日確認すると、餅はもちろんのこと、こしあんまで自家製で、北海道十勝産小豆を使用、砂糖はザラメだそう。

 

おはぎ3種もやや小ぶりだが、あんこ(つぶあん)の美味さが光った。

f:id:yskanuma:20200430141931j:plain

f:id:yskanuma:20200430142108j:plain

f:id:yskanuma:20200430142218j:plain

f:id:yskanuma:20200430142247j:plain

 

半殺しの餅のみずみずしさ。京都の今西軒によく似た味わいで、高レベルのおはぎだと思う。

f:id:yskanuma:20200430142351j:plain

 

店は創業が昭和3年(1928年)。歩いて30分ほどのところに老舗和菓子屋「菊里松月」(大正12年創業)があるが、別経営で「初代が菊里さんと同じところで働いていたと聞いてます」(3代目女将)とか。

 

暖簾分けの一種だと思う。

 

期待は裏切られるためにあるのではない、と思い直す。

 

反省を込めて。「人は見かけによらない」はあんこにも当てはまるのかもしれない。

 

所在地 名古屋市東区筒井2-2-4

最寄駅 地下鉄桜通線車道駅下車 歩約6分

 

 

              f:id:yskanuma:20200430142441j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱海の奥座敷、ふしぎな羊羹2種

 

あん子だってコロナが怖い。

 

だけど、負けない。

 

休業を余儀なくされている和菓子屋さんも多い。

 

今回取り上げるのは、熱海の老舗羊羹屋さん。

f:id:yskanuma:20200423123417j:plain

 

羊羹(ようかん)の名店として、知る人ぞ知る「本家ときわぎ」。

 

創業が大正7年(1918年)、現在4代目。本煉羊羹以下6種類の羊羹のレベルは高い。わらび餅やうぐいす餅など生菓子も人気で、すぐに売り切れる。

 

千と千尋の神隠し」の舞台のような宮造りの古い店舗にまず圧倒される。

f:id:yskanuma:20200423123606j:plain

 

コロナが猛威を振るう前に訪ねたが、ここで見つけたのが、屋号をそのまま使った「常盤木(ときわぎ)」(6本入り 税込み600円)だった。

 

スティック状にした羊羹だが、わざと自然乾燥させていて、そのために表面が白く糖化している。

f:id:yskanuma:20200423124245j:plain

f:id:yskanuma:20200423124313j:plain

 

これがたまらない。

 

あの「羊羹の町」佐賀・小城市の「むかし羊羹」を思わせる珍品で、昔ながらの煉り羊羹のDNAを感じさせるもの、だと思う。

 

4代目のアイデアのようで、製法は伝統に乗っかっているが、デザインが新しい。羊羹をスティック状にするなんて。フツーはあり得ない。

f:id:yskanuma:20200423124403j:plain

 

表面のジャリジャリした歯ざわり、それでいて中は羊羹そのもの。北海道十勝産小豆の風味が寒天と煮詰まっていて、風化ギリギリの余韻を舌の上に残す。

 

控えめな甘さ。

f:id:yskanuma:20200423124501j:plain

 

本来は4種類あるが、私が行ったときはほとんど売り切れていて、本煉り1種しかなかった。

 

江戸寛政年間に日本橋で誕生した本煉り羊羹が、熱海でこういう進化を遂げていることに生みの親・喜太郎も泉下で驚いているに違いない。

 

不思議なことに、「本家ときわぎ」の向かい側に、小ぶりだが似た建物の「常盤木羊羹店」が暖簾を下げていた。ひらがなと漢字の違いも気になる。

f:id:yskanuma:20200423123932j:plain

 

同じ店か、暖簾分けか、大いなる謎を感じて、本家に尋ねたら「暖簾分けではありません。2代目の義弟が勝手に開いた店です。素材も作り方も違います」と素っ気ない。

 

老舗の和菓子屋ではよくある、ルーツは同じでも「まったくの別会社」ということかもしれない。

 

このあたりは深入りしないことにしている。

 

その「常盤木羊羹店」の目玉が「鶴吉羊羹」で、こちらも8種類ほどあるようだ。

f:id:yskanuma:20200423124622j:plain

 

一番人気の「橙(だいだい)」(1棹 税込み1300円)を買って、その後自宅に帰ってから賞味してみた。

f:id:yskanuma:20200423124650j:plain

 

熱海特産のみかん「橙」を使ったフルーツ羊羹で、黒いモダンな箱を開けると、金色の銀紙(表が金で裏が銀)が見えた。サイズは150ミリ×37ミリと小ぶり。

 

包丁で切ると、きれいな橙色の煉り羊羹が現れた。手亡豆(白いんげん)に橙が練り込まれていて、柑橘系の濃い香りがすっくと立ってきた。

f:id:yskanuma:20200423124750j:plain

f:id:yskanuma:20200423124824j:plain

 

半透明感と上品な甘さ。羊羹というよりも凝縮したゼリーのような印象。

f:id:yskanuma:20200423124905j:plain

f:id:yskanuma:20200423125009j:plain

 

モンドセレクション2013銀賞というのも自慢のようだが、私にはここまで来ると、もはや羊羹ではなく、マーマレードの新しいスイーツと言った方が近い気がする。

 

泉下の喜太郎もこちらの進化にも驚いているのではないか?

 

コロナのクラスターは願い下げだが、羊羹のクラスタは歓迎したい。

 

熱海にはいい羊羹屋がしのぎを削っている。どちらもコロナになど負けない、と確信している。

 

所在地 静岡・熱海市銀座町14-1「ときわぎ本家」

最寄駅 JR熱海駅から歩いて約12分

 

 

               f:id:yskanuma:20200423123826j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊急登場「きんつば西の横綱」

 

緊急事態宣言から今日で8日目。考え方を変えて、自粛=引きこもり生活をそれなりに楽しむことにした。

 

その一つ。

 

ズバリ、あんこに浸る。

f:id:yskanuma:20200416112847j:plain

 

あんこの女神(勝手にそう呼んでいる)杏ちゃんの動画を見て、心が洗われる。加川良「教訓1 命を捨てないように」を選んで生ギターで歌うなんて、この子、やっぱり只者ではない。画面左手には絵本を見る3歳の娘さんの後ろ姿。

 

あんこの天使、かもしれない。

 

今回は緊急事態特別編。ほっこり気分のまま、きんつば界のほっこりを取り上げることにしよう。

 

私的には東の横綱が浅草「徳太楼(とくたろう)」なら、西の横綱は大阪の「出入り橋きんつば屋」である。その北浜店。

f:id:yskanuma:20200416111848j:plain

 

それがこれ。手のいい匂いのする絶妙きんつば、だと思う。

 

一皿3個で、360円(税込み)なり。イートインで食べる。

f:id:yskanuma:20200416112311j:plain

f:id:yskanuma:20200416113631j:plain

 

とにかく焼き色がすごい。まだら焼き。皮のもっちり感にホーッ、となる。徳太楼の乳白色のきれいなきんつばとは別の世界。対極とも言える。

f:id:yskanuma:20200416112358j:plain

f:id:yskanuma:20200416112432j:plain

 

透けて見えるたっぷりのあんこ。ドキドキ感。

 

そのあんこがとてもいい。柔らかく炊かれた北海道産大粒小豆とこしあんブレンドしたような、絶妙な配合で、控えめな甘さの中に小豆のいい風味が、渦を巻きながら春風となる。

f:id:yskanuma:20200416112602j:plain

f:id:yskanuma:20200416112709j:plain

 

野暮と紙一重の皮と洗練されたあんこ。その対比が見事だと思う。

 

ほんのりと塩気が奥に控えている。

 

徳太楼のような寒天の多さは感じない。

 

味にうるさい大阪で「名代きんつば」を名乗るだけのことはある。

f:id:yskanuma:20200416113231j:plain

 

「出入り橋きんつば屋」の創業は昭和5年(1930年)。現在3代目だが、この北浜店はそこから暖簾分け。3代目のお姉さん(妹さんかも)が約3年半前にオープンさせたもの。

 

面白いことに3代目のお兄さんは暖簾分けで船場「あずき庵」を開いている。

 

数年前にそこを訪ねたが、本店と同じ作り方で、味わいも美味さも同レベルだった。

 

熟練の、見事な職人ワザだった。

 

じっくりと炊いたあんこを一晩冷ましてから、翌日、四角く切り分ける。それを溶いた小麦粉にくぐらせてから、一個一個丁寧に焼いていく。

f:id:yskanuma:20200416113419j:plain

 

北浜店も同じ手作業で、見てるのも楽しい。

 

「塩気がポイントなんですよ」(北浜店女性店主)

 

ほっこりとしたいい余韻。うれしくなって、帰り際、きんつば番付、西の横綱ですね」と言ったら、

 

「あらまあ、そうでっかァ」

 

パンダ顔(失礼)の女性店主が愛嬌のある目をまん丸くしてから、「また来たってや」と白い歯を見せた。

 

さすが食の街・大阪!

 

所在地 大阪市中央区平野町2-2-13

最寄駅 京阪線北浜駅から歩いて約3分

 

 

             f:id:yskanuma:20200416113840j:plain

 

 

 

 

 

 

 

どら焼き天国の限定「桜どら」

 

コロナで移動が制限されると、ドラえもんの顔が頭に浮かび、どら焼きを無性に食べたくなった。

 

どうしたわけか、聖シムラけんの残像も重なる。

 

どこでもドアがあったら、日本橋うさぎや人形町清寿軒、浅草亀十、池袋すずめや、東十条草月、霊岸島梅花亭・・・私がこれまで食べたどら焼きの横綱大関クラスの名店にすぐにでも飛んでいきたい。

 

ローカルにも味わい深いどら焼きを作り続けている店が多い。

 

どら焼きは不要不急を超えている。

f:id:yskanuma:20200409145740j:plain

 

ラーメンの町、栃木・佐野で見つけたのが、バラエティーに富んだどら焼きを売りにしている「金禄(きんろく)」である。

 

浅沼店と堀米店があるが、今回訪ねたのは浅沼店。

 

個人的などら焼き番付東日本編では、関脇クラスに位置するが、ここの凄いのは7種類ものどら焼きを作っていること。

f:id:yskanuma:20200409145847j:plain

 

「栗どら」(税込み238円)が一番人気だが、春限定(4月いっぱい)の「桜どら焼き」(同 173円)にあんこセンサーが反応した。

f:id:yskanuma:20200409145946j:plain

 

あんこは白あん(手亡豆)で、つぶつぶの食感と吹き上がる風味、ほどよい甘さと塩加減、それに塩漬けした桜葉の香りが絶妙だと思う。

f:id:yskanuma:20200409150432j:plain

f:id:yskanuma:20200409150502j:plain

 

目でも楽しめる。包丁で切り、断面を見ると、桜色がうっすらとにじんでいる。

f:id:yskanuma:20200409150554j:plain

 

妙齢の美女が隠れている。そんな気配すらある。

f:id:yskanuma:20200409150641j:plain

f:id:yskanuma:20200409150715j:plain

f:id:yskanuma:20200409150758j:plain

 

皮はきれいなきつね色。スポンジが効いていて、しっとりというより密度が強め。黄色味の強い地場の飛駒産卵を使い、一枚一枚ていねいに焼き上げている。

 

大きさは日本橋うさぎやとほぼ同じくらい。ズシリと重い。

f:id:yskanuma:20200409150858j:plain

 

予算の関係で今回は4種類買い求め、自宅で味わったが、手焼きなので皮の焼き色の濃淡が少しづつ変化していて面白い。中のあんこの違いで、重量もそれぞれ。

f:id:yskanuma:20200409150939j:plain

f:id:yskanuma:20200409151024j:plain

 

一番人気「栗どら」は国産の蜜煮した大栗と濃い目のつぶあんが素朴に合っている。あんこのボリュームも十分にある。皮の焼き色は「桜あん」より濃い。

f:id:yskanuma:20200409151101j:plain

 

重さも113グラムある。

 

「バタどら」(同205円)はバターが多めで、口の中で濃いつぶあんと溶け合う感触が好みに近い。栗どらよりも気に入った。こちらは106グラム。

f:id:yskanuma:20200409151156j:plain

f:id:yskanuma:20200409151305j:plain

f:id:yskanuma:20200409151355j:plain

 

店の創業は昭和44年(1969年)と比較的新しい。

 

現在2代目。ルーツは栃木市にあり、すでに店舗営業は止めている老舗和菓子屋で修業した初代が分家という形で佐野に店を構えた。「金禄」の屋号はその時新しくしたもの。

 

2代目は進取の気性に富み、フルーツ大福やスイートポテト「芋金」など新しい取り組みも成功させている。

 

小豆は手亡豆も含めて北海道十勝産にこだわり、小豆農家から直接仕入れている。

 

全体的に濃い目のあんこだが、砂糖は「グラニュー糖を使ってます」(2代目)。

 

その原点「どら」は初代から作り続けていて、中のつぶあんは皮の感触がしっかりある。つぶつぶ感がやや固め。甘さも濃い。重さは100グラム。

f:id:yskanuma:20200409151441j:plain

f:id:yskanuma:20200409151539j:plain

 

洗練ではなく、素朴な、むしろ野暮ったいあんこだと思う。

 

今回は食べれなかったが、残りの3種類は「梅どら」「白どら」「餅どら」。

f:id:yskanuma:20200409151723j:plain

 

一軒で7種類のどら焼きが楽しめる。首都圏でもこれだけの種類を作る和菓子屋はそう多くはないと思う。

 

ドラえもんがこの店を知っていたら、月曜から日曜まで、日替わりで食べに来たかもしれない。

 

所在地 栃木・佐野市浅沼町609-1

最寄駅 JR両毛線佐野駅または東武佐野線佐野市駅から約1.7キロ

 

 

              f:id:yskanuma:20200409150339j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡のこしあん、「豆福」の驚き

 

コロナにもめげず。

 

今年出会ったなかで、「これは凄いなあ」と脱帽したのが、ローカル都市・桐生市の老舗和菓子屋さん「御菓子司 あら木」のこしあん。創業が明治31年(1898年)。

 

小ぶりの豆大福「豆福」の中に隠れていた。

f:id:yskanuma:20200402155206j:plain

 

あんこのかぐや姫

 

と言いたくなるほど。桐生なので織姫かもしれないが(笑)。

f:id:yskanuma:20200402155324j:plain

 

光が通り抜けそうなほど青紫色がかった自家製こしあんで、上質の餅とキリリとした赤えんどう豆とのバランスも絶妙だった。

 

ここにもスゴ腕の和菓子職人がいる。ついうれしくなる。

 

驚かされるのはその舌代。1個130円(税別)。豆大福の名店は数あるが、質的にもコスパ的にもここはトップクラスのレベルだと思う。

 

桐生はかつて「西の西陣、東の桐生」とうたわれたほどの織物の町でもある。

 

過日の賑わいはないが、歴史のある街なので、和菓子屋も多い。

 

最初はさほど期待せずに、ふらりと暖簾をくぐった。

f:id:yskanuma:20200402160928j:plain

f:id:yskanuma:20200402155439j:plain

 

「豆福」の他にもいちご大福や酒饅頭、草餅、上生菓子などが置かれている。いずれも小ぶり。しかも安い。

 

悲しいかな胃袋が一つしかないので、「豆福」の他に「大納言かのこ」(税別 140円)、「草もち」(同130円)、「いちご大福」(同220円)、「酒まんじゅう」(同100円)を買い求めた。

f:id:yskanuma:20200402155533j:plain

 

いずれも添加物はゼロなので、賞味期限は基本的に本日中。

 

その約5時間後、自宅に戻って賞味となった。

f:id:yskanuma:20200402155623j:plain

f:id:yskanuma:20200402155642j:plain

 

豆福はすでにほんの少し餅が固くなりつつあったが、上質な柔らかさで、冒頭に書いたように中のこしあんのレベルの高さに胸のあんこセンサーがピコピコ鳴った。

f:id:yskanuma:20200402155754j:plain

f:id:yskanuma:20200402155814j:plain

f:id:yskanuma:20200402155932j:plain

 

ため息とともに、青紫色のこしあんに舌鼓を打つ。

 

しっとりとふくよかが絶妙に融合していて、北海道産えりも小豆のきれいな風味が口の中で立ってくる。塩加減もほんのり。しばしの間、目をつむりたくなった。

 

探し続けている、1+1が3以上の世界。

f:id:yskanuma:20200402160058j:plain

 

大納言かのこへ。外側には北海道産十勝大納言を使い、中のこしあんは豆福と同じもの。あんこの質の高さを考えると、東京だと最低でもこの2倍の値付けになるレベルだと思う。

f:id:yskanuma:20200402160128j:plain

 

ほおーっ、となったのがこの店のオリジナル「いちご大福」(同220円)。あんこがミルクあんだった。珍しいあんこ(ミルクは外注)。

f:id:yskanuma:20200402160157j:plain

f:id:yskanuma:20200402160218j:plain

 

白手亡豆に練乳を加えたような、ミルクの風味のする実験的なこしあんで、みずみずしいとちおとめとの相性が悪くない。控えめな甘さが好感。

 

いちご大福の進化系の一つ、とも言える。

 

気になったので、後日、再び訪問した。美人女将さんが4代目当主を呼んでくれて、少しだけ時間を取ってもらい、あれこれ取材したら、凄いキャリアだった。

 

和菓子の専門学校を出てから、赤坂の「御菓子司 塩野」で修業、普通なら2~3年修業したのち実家の和菓子屋に戻るのだが、店主に気に入られて修業を延長、塩野の餡場(あんこ作り)を任されるまでになった。

f:id:yskanuma:20200402160300j:plain

 

実家の桐生に戻ってからは、3代目の後を継ぎ、ローカルの桐生を舞台に塩野に負けないこしあんと和菓子作りに励んでいる、と言葉少なめに語る。

 

美味いはずだよ。

 

失礼を承知で言うと、歴史があるとはいえ、よくもまあローカルの一角でこの価格でこのレベルを維持しているなあ、と感心させられる。ホント、そう思う。

 

こしあんの作り方は塩野とほとんど同じで、丁寧に炊き上げた小豆を特殊な2層のふるいにかける。そこから手間暇をかけて、上質のこしあんに仕上げていく。

 

最終段階の練り上げには上白糖を使うようだ。白ザラメよりも上白糖の方がコクが出る、とか。

 

ここまで自前でこしあん作りにまでこだわり続ける和菓子屋さんは希少になっている。

 

その手間ひまが青紫色の見事なこしあんに結実していく。

f:id:yskanuma:20200402160426j:plain

 

なので、きめの細やかさがひと味違う食感になる。

 

舌にあんこの微粒子を感じさせる、自然な風味とさらさら感が際立っている、と思う。

 

あんビリーバブルな舌触り。

 

草もちはつぶあんで、こちらも上質な味わい。

f:id:yskanuma:20200402160455j:plain

f:id:yskanuma:20200402160535j:plain

 

酒まんじゅうも小ぶりだが、しっとりとした皮は糀(こうじ)の香りが十分にあり、中のこしあんとよく合っている。仕事に手抜きがない。

f:id:yskanuma:20200402160631j:plain

f:id:yskanuma:20200402160742j:plain

 

これが100円とはにわかには信じられない。

 

「ぎりぎりです」と笑うが、不屈の志がないと、ここまではできない世界だと思う。

 

コロナ禍に揺れる日本の中で、こうした店が首都圏のローカルに存在していることを、素直に喜びたい。

 

あんこの神様はコロナを超える。

 

野暮を承知で、そう信じたくなる。

 

所在地 群馬・桐生市仲町1-8-2

最寄駅 JR東日本両毛線桐生駅から歩いて約15分

 

 

              f:id:yskanuma:20200402160830j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信長の影、熱田神宮の上生菓子

 

NHK大河ドラマ麒麟がくる」で染谷将太演じる織田信長が予想に反して、いい。登場するまでは完全にミスキャストだと思っていたが、次の瞬間何をするかわからない、スリリングな雰囲気をよく出している。人も役者も見かけによらぬもの、と改めて反省する。

 

その信長ゆかりの熱田神宮で、意外なあんこに出会った。

f:id:yskanuma:20200326123522j:plain

 

蔵造りのきよめ餅総本家で、有名なきよめ餅を買い求め、その足で神宮駅前にある喫茶部「喜与女茶寮(きよめさりょう)」へ。あわよくば、コーヒーでも飲みながら、ここで賞味しようと思った。

f:id:yskanuma:20200326123631j:plain

 

ふとメニューを見ると、「抹茶セット(生菓子1個付き 税込み570円)が目に飛び込んできた。

 

この「飛び込む」という感覚は信長的だと思う(ホントかよ)。

f:id:yskanuma:20200326123659j:plain

f:id:yskanuma:20200326123919j:plain


手書きの生菓子は6種類あり、その中で今年の干支(えと)にちなんだ「干支 子(ね)」を選んだ。

f:id:yskanuma:20200326124032j:plain

f:id:yskanuma:20200326124059j:plain

f:id:yskanuma:20200326124306j:plain

 

丹波大納言小豆の艶やかな粒あんを上質の羽二重餅で包んだ上生菓子で、奥ゆかしいふわり感とネズミの焼き印が渋い。片栗粉が表面にうっすら。ややもすると手にくっつきそうになる。

 

中の粒あんが雑味のない、皮まで柔らかい、控えめな甘さで、丹波大納言のきれいな風味が広がってくる。それがとろけそうなほど柔らかい羽二重餅とうまくマッチングしていると思う。

f:id:yskanuma:20200326124236j:plain

 

氷砂糖で練り込んだようなあんこで、テカリ方が美しい。

 

目を閉じると、舌の上で歴史の闇に消えていった夢の粒子が一瞬だけきらきらと残像になる。場所柄のせいか、そんな感じ。

f:id:yskanuma:20200326124355j:plain

 

京都の「まったり」の延長線上にある、上品な味わいだと思う。

 

織田信長は薄味の京料理が苦手だったようで、上洛した際に、贅(ぜい)を尽くして出された料理に「こんなまずいものはない」と京で一番の料理人をあわや手討ちにしかかった、という逸話も残っている。料理人は一計を案じて、味を思い切り濃くしてもう一度出したら、今度は「美味い」と喜んできれいに食べたとか。

f:id:yskanuma:20200326124458j:plain

f:id:yskanuma:20200326124536j:plain

 

信長ならあり得る、と思わせるところが怖い。

 

きよめ餅総本家の創業はそう古くはない。現在4代目なので、おそらく昭和初期あたりだと思うが、問い合わせても「はっきりしたことはわかりません」。

 

総本家で買った熱田名物「きよめ餅」(2個小箱入り 税込み270円)も食べてみた。

f:id:yskanuma:20200326124611j:plain

 

こちらも羽二重餅だが、トレハロースなど添加物も少し入っている。

 

中のあんこはこしあんで、甘めだが、ほんのり塩気もあり、予想以上に美味い。

f:id:yskanuma:20200326124652j:plain

f:id:yskanuma:20200326124711j:plain

 

初代が伊勢神宮赤福餅のような名物を作ろうと一念発起、赤福餅とは逆の発想で、こしあんを柔らかな餅で包んで売り出したところ、参拝客の人気となったという歴史を持つ。

f:id:yskanuma:20200326124735j:plain

 

ルーツは江戸時代中期、天明年間(1781~89年)に参拝客相手に「きよめ茶屋」を設けていたことに由来する。当時の餅と同じかどうかは不明。

 

かの桶狭間の戦いに臨む前にここで戦勝祈願した信長だが、当時、勝利は不可能と思われた戦いに見事に勝利、その御礼として信長塀(下の写真)を寄進してもいる。

f:id:yskanuma:20200326124845j:plain

 

今も残るそのモダンな信長塀を見ながら、もし信長がこの「上生菓子を出されたら何というか、想像してみた。

 

茶器や茶道具に異常な執念を見せたが、舌の方は、ポルトガル人宣教師からもらった金平糖に大喜びしたり、素朴で濃い味付けを好んだり、天下人になっても洗練とはほど遠い気がする。

 

その意味で、上生菓子より素朴なきよめ餅の方を好んだのではないか。そんな空想を楽しみながら、二つを食べ比べしてみる。

f:id:yskanuma:20200326124808j:plain

 

ひょっとして手討ちにされるかもしれないが、和菓子にはそういう楽しみ方もあると思う。時空を超える楽しみ。是非も及ばず(笑)。

 

所在地 名古屋市熱田区神宮3-7-21

最寄駅 名鉄神宮前駅から歩いてすぐ

 

              f:id:yskanuma:20200326125001j:plain

 

 

 

 

京都って深い、亀末廣「古の花」

 

私にとって、京都・和菓子界の頂点の一つが烏丸御池にある「御菓子司 亀末廣(かめすえひろ)」である。

 

創業が文化元年(1804年)で、虎屋や川端道喜よりは歴史が浅い(恐るべし京都!)が、いい意味でとんでもないポリシーを長年守っている。

 

「デパートからの出店依頼を断り続けてるんや。ほんま日本でも希少な店の一つで、通販もしておまへん。江戸時代からの対面販売をずーっと守っているのがそんじょそこらの和菓子屋とは違います。京都の中でも本物の一つや」

 

8年ほど前のこと。口の悪い京都人の畏友が、珍しくそう語った。

f:id:yskanuma:20200319134415j:plain

 

その足で、タイムスリップしたような土蔵造りの店を訪ね、真竹入り「大納言」を買った。確か一つ400円以上していた(高いなあ、と思ったが)。丹波大納言小豆をじっくりと蜜煮しただけの、あまりにシンプルな、あまりに濃密な味わいに心がざわめいた。

f:id:yskanuma:20200319133140j:plain

f:id:yskanuma:20200319133355j:plain

 

今回はそれ以来の訪問。つまり8年ぶりの訪問となる。

 

「亀末廣」は干菓子や半生菓子、落雁(らくがん)を詰めた美しい「京のよすが」が有名だが、上生菓子の評価も高い。

f:id:yskanuma:20200319133950j:plain

 

今回はネーミングに惹かれて「古の花(このはな)」(税込み 1棹2100円)を買い求めた。

 

渋い竹皮に包まれた、丹波大納言を使った小豆羊羹の範疇に入るが、ただの羊羹ではなかった。

 

京都から自宅に戻って、竹皮を外し、さらに銀紙(表は白)を取ると、きれいな小豆色の羊羹が姿を見せた。

f:id:yskanuma:20200319134040j:plain

f:id:yskanuma:20200319134059j:plain

f:id:yskanuma:20200319134130j:plain

 

驚いたのは、一部分に琥珀色(こはくいろ)の寒天が流し込まれていたこと。細かい気泡が金色に輝いていた。

f:id:yskanuma:20200319134339j:plain

f:id:yskanuma:20200319152101j:plain

 

わっ、うつくしい。地味な美という世界もあるんだ。雅(みやび)という言葉も浮かんだ。

 

江戸の粋に対して京の雅。その遺伝子がここにもある。

 

包丁で切ると、断面は羊羹生地の夜の中で、蜜煮した大納言小豆がポツポツとつぼみのように咲いているようにも見える。

f:id:yskanuma:20200319134515j:plain

f:id:yskanuma:20200319134534j:plain

 

敬意を表しながら、口に運ぶと、きれいな舌触りで、大納言小豆の柔らかなつぶつぶ感がゆるゆると立ち上がってきた。一粒一粒が形はあるのに、皮まで驚くほど柔らかく炊かれているので、歯触りがすっすっと入る。

 

虎屋の「夜の梅」と似ているが、食感が違う。妙なねっとり感がない。雑味もない。

f:id:yskanuma:20200319134748j:plain

f:id:yskanuma:20200319135102j:plain

 

やや甘めで、それでいてたおやかな風味。柔らかな凝縮感もある。

 

寒天は固めで黒糖の気配がある。固めのゼリーのような感覚。

 

上手く表現できないが、金色のきらめきが小豆羊羹と恋愛し、口の中で崩れ落ちながら溶けていく。そんな感じ。

f:id:yskanuma:20200319135008j:plain

 

丹波大納言小豆のふくよかな余韻が心地よい。

 

現在7代目。元々は伏見で茶釜を作っていたようだ。その流れの中で上菓子屋になり、二条城や御所にも納めたほどの指折りの「御菓子司」となっていった。

 

江戸時代のスタイルを頑なに守り続けているが、いくつか暖簾分けはしている。「末富」「亀廣永」「亀廣保」など。

 

ネットの時代にこういう店が存在していることを素直に喜びたい。「古の花」は亀末廣そのものかもしれない。

 

所在地 京都市中京区姉小路通烏丸東入ル

最寄駅 地下鉄烏丸御池駅から歩いて約3~4分

 

 

            

             f:id:yskanuma:20200319133845j:plain