週刊あんこ

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信長の影、熱田神宮の上生菓子

 

NHK大河ドラマ麒麟がくる」で染谷将太演じる織田信長が予想に反して、いい。登場するまでは完全にミスキャストだと思っていたが、次の瞬間何をするかわからない、スリリングな雰囲気をよく出している。人も役者も見かけによらぬもの、と改めて反省する。

 

その信長ゆかりの熱田神宮で、意外なあんこに出会った。

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蔵造りのきよめ餅総本家で、有名なきよめ餅を買い求め、その足で神宮駅前にある喫茶部「喜与女茶寮(きよめさりょう)」へ。あわよくば、コーヒーでも飲みながら、ここで賞味しようと思った。

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ふとメニューを見ると、「抹茶セット(生菓子1個付き 税込み570円)が目に飛び込んできた。

 

この「飛び込む」という感覚は信長的だと思う(ホントかよ)。

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手書きの生菓子は6種類あり、その中で今年の干支(えと)にちなんだ「干支 子(ね)」を選んだ。

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丹波大納言小豆の艶やかな粒あんを上質の羽二重餅で包んだ上生菓子で、奥ゆかしいふわり感とネズミの焼き印が渋い。片栗粉が表面にうっすら。ややもすると手にくっつきそうになる。

 

中の粒あんが雑味のない、皮まで柔らかい、控えめな甘さで、丹波大納言のきれいな風味が広がってくる。それがとろけそうなほど柔らかい羽二重餅とうまくマッチングしていると思う。

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氷砂糖で練り込んだようなあんこで、テカリ方が美しい。

 

目を閉じると、舌の上で歴史の闇に消えていった夢の粒子が一瞬だけきらきらと残像になる。場所柄のせいか、そんな感じ。

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京都の「まったり」の延長線上にある、上品な味わいだと思う。

 

織田信長は薄味の京料理が苦手だったようで、上洛した際に、贅(ぜい)を尽くして出された料理に「こんなまずいものはない」と京で一番の料理人をあわや手討ちにしかかった、という逸話も残っている。料理人は一計を案じて、味を思い切り濃くしてもう一度出したら、今度は「美味い」と喜んできれいに食べたとか。

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信長ならあり得る、と思わせるところが怖い。

 

きよめ餅総本家の創業はそう古くはない。現在4代目なので、おそらく昭和初期あたりだと思うが、問い合わせても「はっきりしたことはわかりません」。

 

総本家で買った熱田名物「きよめ餅」(2個小箱入り 税込み270円)も食べてみた。

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こちらも羽二重餅だが、トレハロースなど添加物も少し入っている。

 

中のあんこはこしあんで、甘めだが、ほんのり塩気もあり、予想以上に美味い。

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初代が伊勢神宮赤福餅のような名物を作ろうと一念発起、赤福餅とは逆の発想で、こしあんを柔らかな餅で包んで売り出したところ、参拝客の人気となったという歴史を持つ。

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ルーツは江戸時代中期、天明年間(1781~89年)に参拝客相手に「きよめ茶屋」を設けていたことに由来する。当時の餅と同じかどうかは不明。

 

かの桶狭間の戦いに臨む前にここで戦勝祈願した信長だが、当時、勝利は不可能と思われた戦いに見事に勝利、その御礼として信長塀(下の写真)を寄進してもいる。

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今も残るそのモダンな信長塀を見ながら、もし信長がこの「上生菓子を出されたら何というか、想像してみた。

 

茶器や茶道具に異常な執念を見せたが、舌の方は、ポルトガル人宣教師からもらった金平糖に大喜びしたり、素朴で濃い味付けを好んだり、天下人になっても洗練とはほど遠い気がする。

 

その意味で、上生菓子より素朴なきよめ餅の方を好んだのではないか。そんな空想を楽しみながら、二つを食べ比べしてみる。

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ひょっとして手討ちにされるかもしれないが、和菓子にはそういう楽しみ方もあると思う。時空を超える楽しみ。是非も及ばず(笑)。

 

所在地 名古屋市熱田区神宮3-7-21

最寄駅 名鉄神宮前駅から歩いてすぐ

 

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