コロナにもめげず。
今年出会ったなかで、「これは凄いなあ」と脱帽したのが、ローカル都市・桐生市の老舗和菓子屋さん「御菓子司 あら木」のこしあん。創業が明治31年(1898年)。
小ぶりの豆大福「豆福」の中に隠れていた。
あんこのかぐや姫。
と言いたくなるほど。桐生なので織姫かもしれないが(笑)。
光が通り抜けそうなほど青紫色がかった自家製こしあんで、上質の餅とキリリとした赤えんどう豆とのバランスも絶妙だった。
ここにもスゴ腕の和菓子職人がいる。ついうれしくなる。
驚かされるのはその舌代。1個130円(税別)。豆大福の名店は数あるが、質的にもコスパ的にもここはトップクラスのレベルだと思う。
桐生はかつて「西の西陣、東の桐生」とうたわれたほどの織物の町でもある。
過日の賑わいはないが、歴史のある街なので、和菓子屋も多い。
最初はさほど期待せずに、ふらりと暖簾をくぐった。
「豆福」の他にもいちご大福や酒饅頭、草餅、上生菓子などが置かれている。いずれも小ぶり。しかも安い。
悲しいかな胃袋が一つしかないので、「豆福」の他に「大納言かのこ」(税別 140円)、「草もち」(同130円)、「いちご大福」(同220円)、「酒まんじゅう」(同100円)を買い求めた。
いずれも添加物はゼロなので、賞味期限は基本的に本日中。
その約5時間後、自宅に戻って賞味となった。
豆福はすでにほんの少し餅が固くなりつつあったが、上質な柔らかさで、冒頭に書いたように中のこしあんのレベルの高さに胸のあんこセンサーがピコピコ鳴った。
ため息とともに、青紫色のこしあんに舌鼓を打つ。
しっとりとふくよかが絶妙に融合していて、北海道産えりも小豆のきれいな風味が口の中で立ってくる。塩加減もほんのり。しばしの間、目をつむりたくなった。
探し続けている、1+1が3以上の世界。
大納言かのこへ。外側には北海道産十勝大納言を使い、中のこしあんは豆福と同じもの。あんこの質の高さを考えると、東京だと最低でもこの2倍の値付けになるレベルだと思う。
ほおーっ、となったのがこの店のオリジナル「いちご大福」(同220円)。あんこがミルクあんだった。珍しいあんこ(ミルクは外注)。
白手亡豆に練乳を加えたような、ミルクの風味のする実験的なこしあんで、みずみずしいとちおとめとの相性が悪くない。控えめな甘さが好感。
いちご大福の進化系の一つ、とも言える。
気になったので、後日、再び訪問した。美人女将さんが4代目当主を呼んでくれて、少しだけ時間を取ってもらい、あれこれ取材したら、凄いキャリアだった。
和菓子の専門学校を出てから、赤坂の「御菓子司 塩野」で修業、普通なら2~3年修業したのち実家の和菓子屋に戻るのだが、店主に気に入られて修業を延長、塩野の餡場(あんこ作り)を任されるまでになった。
実家の桐生に戻ってからは、3代目の後を継ぎ、ローカルの桐生を舞台に塩野に負けないこしあんと和菓子作りに励んでいる、と言葉少なめに語る。
美味いはずだよ。
失礼を承知で言うと、歴史があるとはいえ、よくもまあローカルの一角でこの価格でこのレベルを維持しているなあ、と感心させられる。ホント、そう思う。
こしあんの作り方は塩野とほとんど同じで、丁寧に炊き上げた小豆を特殊な2層のふるいにかける。そこから手間暇をかけて、上質のこしあんに仕上げていく。
最終段階の練り上げには上白糖を使うようだ。白ザラメよりも上白糖の方がコクが出る、とか。
ここまで自前でこしあん作りにまでこだわり続ける和菓子屋さんは希少になっている。
その手間ひまが青紫色の見事なこしあんに結実していく。
なので、きめの細やかさがひと味違う食感になる。
舌にあんこの微粒子を感じさせる、自然な風味とさらさら感が際立っている、と思う。
あんビリーバブルな舌触り。
草もちはつぶあんで、こちらも上質な味わい。
酒まんじゅうも小ぶりだが、しっとりとした皮は糀(こうじ)の香りが十分にあり、中のこしあんとよく合っている。仕事に手抜きがない。
これが100円とはにわかには信じられない。
「ぎりぎりです」と笑うが、不屈の志がないと、ここまではできない世界だと思う。
コロナ禍に揺れる日本の中で、こうした店が首都圏のローカルに存在していることを、素直に喜びたい。
あんこの神様はコロナを超える。
野暮を承知で、そう信じたくなる。