これって、あんこの神様の導きかも?
と、言いたくなってしまった。
今回のみちのくあんこ旅で驚かされた店が福島市の「菊屋本店」。「菊屋の羊羹本舗」として地元ではよく知られている和菓子屋さん。
歴史を感じさせる蔵造りの、渋い店構え。
無添加造り羊羹と最中一筋、現在4代目。
創業は明治28年(1895年)。百年老舗(約130年)。
羊羹好きの私でもこれまで知らなかった。穴があったら入りたい(汗)。
白地の長暖簾をくぐったら、セピア色の世界が広がっていた。
規模は小さいが、中津川「すや本店」を思わせる、磨き抜かれた木製の商品棚。
一気に期待が膨らんだ。
★ゲットしたキラ星
栗羊羹(大) 1500円
本煉り(中) 700円
ごま羊羹(中) 700円
※税込み価格です。
【センターは?】
栗羊羹:柔らかな煉りと蜜煮栗の上質な合体
竹皮包みの煉り羊羹をフツーにつくっているのが凄い。
店の奥がやや薄暗い作業場になっていて、職人さんの姿が見える。
昭和⇒大正⇒明治のフィルムがコマ廻しで重なってくるような。
創業時から無添加造り羊羹一筋がダテではないことを感じる。
これは大サイズ(165ミリ×65ミリ×30ミリ)なので、重さを量ったら482グラム(包み含めて)。ずしりと重量級。
立派な竹皮を取ると、銀紙(裏側)が現れ、それを剝がすと、テカリとともに本体が現れた。
〈味わいタイム〉
煉りの部分はやや明るめ。蜜煮栗がぼこりぼこりと夕闇の月のように沈んでいる。いいね。
森のコーヒーを用意してから、包丁で切る(羊羹にコーヒーは合うと思う)。
切り分けてから菓子楊枝でいただく。
思ったよりもねっとり感がない。
歯がすっと入る。
濃厚ではなく、やさしい、穏やかな風味が来る。
甘さもすっきりしている。
通好みの、「昔のままの無添加造りです」(女将さん)という丁寧な言葉がなるほどなあ、とよみがえってくる。
濃厚ねっとりの煉り羊羹とは一線を画した、きれいな後味の素朴な羊羹だと思う。
なので、一口二口三口と手が止まらなくなってしまった。
【サイドは?】
ごま羊羹:絹ごし黒ごまを練り込んだ、真っ黒い小宇宙
3種類の中で「これはすごいね」と思ったのがこれ。
口に入れると、黒ごまの風味が穏やかに広がる。
これも歯切れがいい。
余分なねっとり感がない。
柔らかな、ほどよい甘さ。
黒ごまとともに奥深い余韻となる。
昔のままの、手造りの歴史を思いながら食べ進む。
しみじみとこの味わいを楽しむ。
鼻腔に抜ける余韻・・・うめえ、と自然なため息が出てきた。
本煉り:栗羊羹よりも色が濃い
竹皮を取り、銀紙を剥がすと、本煉り部分から糖蜜が滲み出ていていいテカリ、あん欲がそそられる。
これも歯ざわり、歯切れがすっきりしている。
有名店の本煉りよりも食感がやさしい。
北海道産小豆×上白糖×長野産寒天。
羊羹職人の手を感じる、素朴で上品な本煉り羊羹だと思う。
福島にこのような、羊羹一筋の羊羹屋さんがあること、今回のみちのくあんこ旅の中で私にとっては大きな収穫となった。
メディアに露出している店ばかりについ目が行くが、しっかりと伝統を守って、いい仕事をしている和菓子屋さんは案外、メディアの露出の死角に隠れているのかもしれない。
●あんヒストリー
店にいらした3代目女将さんによると、初代は福島・梁川町(現伊達市)の老舗羊羹屋さんで修業をしたそう。その技術を持って福島市で開業。昔は3軒あったらしいが「今はうちだけ」になったという。無添加造りの技術は代々受け継がれている。
〈取材後記〉▼最中(菊屋もなか)も3種類(小倉、白、ごま)あり、とても美味しかった▼これも創業当時からの一品▼羊羹と一緒に購入したが、運ぶ途中で、つい油断して、種(皮)が破れてしまい、掲載できなかった▼悔いが残るが、格別な美味さだった▼3代目女将さん、ごめんなさい。
「菊屋本店」
所在地 福島市中町6-30
最寄り駅 JR福島駅から歩約5~6分。