今週の日曜増刊号はとっておきの東京下町の老舗和菓子処「岡満津(おかまつ)」の二品をお送りしたい。
創業が明治38年(1905年)。門前仲町交差点そばに白地の暖簾を下げ、江戸情緒を残す小さな店構えに私のあんこセンサーがピピピと来た。
その一角だけセピア色に見える。
朝生菓子中心の和菓子屋さんで、実はエンタメ新聞社時代に何度かつまみ食いしたことがある。
久しぶりに訪れたら、やはりいぶし銀のいい店構え。
引き戸を滑らせて、店内へ。
木枠のガラスケースの中でそそられるキラ星が並んでいる。わお。
特に。「黄味しぐれ(黄身しぐれ)」と「鹿の子」が艶のある流し目を送ってきた気がした。
あたしを忘れちゃダメでしょ? そんなささやきさえ聞こえてきた(まさか?)
★ゲットしたキラ星
黄味しぐれ 200円
鹿の子 190円
春日まんじゅう 180円
煉り羊羹 200円
※すべて税込みです。
黄味しぐれ:辰巳芸者のような小粋な圧巻
和菓子の中でも黄身しぐれは人気が高い。
正直に言うと、私はガチガチのあんこ好きなので、この洗練された美的な世界はどちらかというと苦手(汗)。
だが、この「岡満津」の黄味しぐれは私の舌をグイととらえた。
美しさと濃厚な黄身あんと中の吹き上がるようなこしあんの合体がドンピシャ好み。
大きさは40ミリ×40ミリほど。重さは約45グラム。
少し大きめのサイズと黄身しぐれ独特の魅力的なひび割れからのぞく桃色(食紅)がどうにも色っぽい。
野暮を承知で割ってみたら、自家製こしあんがいい小豆色で「おいでなさいよ」とささやいた気がした(勝手な妄想です)。
卵黄の新鮮な香り。
菓子楊枝でじっくりと味わう。
目と鼻と舌を同時にくすぐる、私にとってはワンランク上の美味。
ほどよい甘さ。
全体の鮮度が、この一品に凝縮されていて、下町の和菓子屋さんの心意気まで詰まっているような。
足の小指の爪に朱を入れていた、今は消えてしまった辰巳芸者(たつみげいしゃ)って、こんな感じだったのでは?
明治維新後も尊大な薩長に対して媚びを売らなかった、と言われる辰巳芸者。
タイムマシンがあったらなあ。
口の中ですーっと溶けていく時雨(しぐれ)とこしあんの絶妙に勝手に辰巳芸者を重ねたくなってしまった。
鹿の子:大納言あずきとこしあんの爆発力
大きさは40ミリ×40ミリほど。重さは約56グラム。やや大きめの鹿の子で、まずは見た目が素晴らしい。
表面を覆う蜜煮した大納言小豆の色と艶。寒天の透明な膜。しばらく見つめていたくなるほど。
鹿の子好きの私にとっては、見た目からほぼ完ぺきな小世界。
菓子楊枝で真ん中を割ると、藤紫色の自家製こしあん。
しっとりとしたあんこの粒子が光を溜めているようにも見える。
ひと口で持っていかれてしまった。
大納言小豆の歯触りと爆発的に広がる風味。
そこにこしあんがしとやかに入って来る。
二つの感触が交差する。絶妙な塩気が追いかけてくる。
このマリアージュは、やっぱり私の好み。
深川から清澄あたりまで歩くと、かすかに残る江戸情緒を感じる。
たまらないエリア、だと思う。
●あんヒストリー
「岡満津」は明治38年創業。現在3代目だが、店にいらっしゃった女将さんは「4代目になります」とおっしゃっていた。初代は岡埜栄泉(上野?)で修業したという説もある。3代目は2代目(父)から和菓子職人としての手ほどきを受けたようで、製菓学校⇒他の店で修業⇒実家を継ぐというよくあるコースではないようだ。それでいて、和菓子職人としてのプロフェッショナルぶりはすごい。下町の老舗の心意気と磨き抜かれた腕に敬意を表したくなる。
「御菓子司 岡満津」