飛騨の小京都・高山市で意外な「虎屋」に出会った。
和菓子界に君臨する、あの京都⇒赤坂の「とらや(虎屋)」とは別の系譜の「虎屋老舗」。
「とらや」の大看板と「創業天保元年」の紺地の暖簾。200年近い歴史に驚かされる。
木造のいい店構え。
飛騨高山の歴史を考えると、驚くことではないかもしれない。
「食べログ」などの評価はそう高くない。
ゆえに当たりの予感。いい店は隠れている。
店内に足を踏み入れると、小ぶりの餅菓子類や饅頭などが木枠のガラスケースの中で渋く輝いている。
あんこの神様がほほ笑んでいる?
全部食べたーいよ(笑)。
★今回ゲットしたキラ星
草饅頭 120円
蓬(よもぎ)大福 150円
栗大福 150円
塩大福 150円
豆大福(とら豆) 150円
金つば 150円
※すべて税込みです。
【センターは?】
草饅頭:濃いよもぎ生地と中のつぶ餡の究極合体
たまたま誰もいなかったので、声をかけると、奥からすっきりとした女性(若女将?)が出てきて、こちらのぶしつけな質問にも丁寧に答えてくれた(汗)。
高山の和菓子文化の奥の深さを感じる。
ゲットした6種類を横に並べてみた。それぞれいいお顔。
中でも草饅頭(一番右)に目が吸い寄せられてしまった。
もっとも古くからある生菓子(創業当時からのもの?)だそうで、艶のある、濃いよもぎ色のお姿。ただ者ではない深緑色の存在感。
日持ちが「2~3日」ということで、自宅に持ち帰ってからの実食となった。
サイズは左右約46ミリ、重さは32グラムほど。饅頭としては小ぶり。
だが、よもぎ(地場のよもぎ?)の自然な香りが鼻腔にぐんぐん来た。
やっぱり存在感がひときわ光っている。
長い歴史をくぐりぬけてきた、よもぎの小さな巨人、と位置付けたい。
《いざ実食》 手に持つと、吸いつくようなもっちり感。自然なよもぎ色の引力にしばし感触を愉しむ。
手で割ると、中からふくよかな自家製つぶ餡が顔を出した。
このつぶ餡が小豆の風味をマックスまで引き出してくるようなあんこで塩気がほんのり。甘さはかなり控えめ。
食べながら唾液がどんどん出てくるのがわかった。
口の中に小さな極楽が突如出現した気分。
店主はかなりの腕と見た。
「北海道産小豆×上白糖で自家炊きしています」(若女将)
基本的に砂糖は上白糖を使用しているとか。
●あんヒストリー
創業は天保元年(1831年)。現在9代目。先々代(?)は東京・小石川の和菓子屋で修業したそうで、それ以前になると、修業先も含めて不明な部分が多いとか(京都との関係もあるかもしれない)。店内に飾ってあるぼろぼろの長暖簾(下の写真=初代から数えて3枚目とか。すごい遺産)に老舗の自負を感じた。
【サイドは】
塩大福:塩あんの大福。餅は求肥で、手にくっつくほど柔らかい。中に詰まったつぶ餡は塩気が強いためか、少し固め。だが、逆に小豆の風味がぐわんと来る。意外な美味さ。
金つば:これも小ぶりでほとんど真四角の立方型体。小麦粉の皮は素朴で、手焼き感が伝わってくる。中は柔らかなつぶ餡で、寒天は少なめ。いい小豆の風味が爆発的に広がる。うめえ、声が漏れるほど。
蓬大福:餅粉がたっぷり。草饅頭ほどのよもぎ感はないが、求肥餅に練り込まれていて、中は艶やかなこしあん(自家製)。フツーに美味いが、草饅頭のインパクトと比べると、やや影が薄い気がする。
栗大福:蜜漬けした栗が一個こしあんに寄り添っていて、それをさらに柔らかな求肥餅が包み込んでいる。これも左右45ミリほどと小ぶり。全体的に歯切れがいい。
豆大福:とら豆が求肥餅に練り込まれていて、中のこしあんとの相性はいい。口どけの良さが印象的。小ぶりなのでひと口でイケる。
《あんこのつぶやき》▼山に囲まれた気候風土のためか、飛騨高山藩初代藩主・金森長近は千利休の高弟でもあったが、茶菓子文化はあまり発展しなかったという説もある▼駄菓子の文化(こくせんなど)が知られるが、明治期以降になると、砂糖などが自由に流通するようになり、いい和菓子屋さんも誕生している▼今回の旅で飛騨高山の食文化が予想を超えて素晴らしいことに気づかされた▼街の規模に比べて、JR高山線の本数があまりに少ないことに驚かされた▼何故だろう?
「虎屋老舗」
所在地 岐阜・高山市上二之町75
最寄り駅 JR高山駅から歩約10分