大阪・堺といえば、室町・戦国時代に世界を相手に商売を行った環濠都市国家。千利休を生んだ場所でもある。
今は過日の面影はない。壮大なロマンのかけらも落ちていない。
だが、そこに室町時代末期に創業した「かん袋」がある。京都・今宮神社参道の「一文字屋和助」に次ぐ歴史を持つ超老舗餅菓子屋である。
「くるみ餅」が名物だが、夏は「氷くるみ餅」(シングル 税込み360円)に限る。
驚くなかれ700年近い歴史を持つ餅菓子で、氷を上からかけるようになったのは明治以降、製氷技術が発達してから。ひょっとしてかき氷の元祖は、この「氷くるみ餅」かもしれない。
とにかく美味である。かき氷は幾分湿り気を帯び、柔らかい感触。みぞれとスレスレの歯触り舌触り。
その下にうぐいす色のあんの世界が横たわっている。
このうぐいす色のあん。風味といい絶妙な甘さといい、素朴な美味さ。添加物も使っていない。
その下には柔らかな白玉が5個ほど。上からかかっているミルク色の白蜜と一緒にスプーンですくって口に運ぶと、何とも言えない幸せ感に包まれる。
さて、このうぐいす色のあんこ。正体が不明。素材も作り方も謎のまま。
店の人に聞いても「秘伝なので」というばかりで、ヒントすらもらえない。当代の27代目まで、一子相伝のワザというのが凄い。凄すぎ。
で、仕方なく堺の知人に聞いたら、「あれは青大豆。つまり青きな粉や思うで。それに砂糖と塩で味を調えてる。ホンマによくできてるで。あの秀吉も好きだったそうや」。
それにしてはきな粉の風味はまったく感じなかった。まるでウグイス豆のあんのよう。
700年近くも生き残ってきた「くるみ餅」。誤解する人が多いが、木の実のクルミは入っていない。「くるむ」から来た名前で、そのネーミングもまた歴史のロマンを誘う。
所在地 大阪府堺区新在家町1-2-1