コロナと梅雨。気分的には青空が欲しい。
こういうときにぴったしの生菓子で気分転換を図るのも悪くない。
首都圏の和菓子の穴場、東松山市の老舗和菓子屋さんで見つけた「本わらび餅」(8個入り 税別850円)が青空の一つになることもある。
ただのわらび餅ではない。こしあん入り。
この分野の頂上、京都にいくつかある上生菓子だが、まさか埼玉で本わらび粉を使い、しかもこしあんの入った、上質の本わらび餅に出会えるとは、正直、思ってもみなかった(埼玉に他意はありません)。
あんこ旅の道草で、東松山市をブラ歩きする。歴史のある街だが、コロナの影響もあるのか、人通りは少ない。猫の影もない。
いい和菓子屋がポツリポツリある。ローカルの隠れた実力。
かつて中心街だった本町通りに海老茶の渋い暖簾が下がっていた。「生菓子司 清晨庵(せいしんあん)」の屋号も渋い。
創業が大正あたりで、現在5代目という情報をつかんだ。本わらび餅は売り切れることも多いという。
たまたまなのか、ひと箱だけ残っていた。ゲットラッキー。
あんこの神様が微笑んだってことかな。
それを買い求め、ついでに「くず桜」(税別140円)とこの季節だけの「水無月(みなづき)」(同140円)もゲットした。
いずれも日持ちしないので、急いで帰宅、その5時間後に賞味した。
主役はもちろん本わらび餅。
冷たい麦茶を用意し、きな粉のかかったこしあん入り本わらび餅をじっと見つめる。直径40ミリほど。愛の視線?
本わらび粉を使っているのがわかる、やや黒みがかった、半透明のわらび餅。
うっすらとこしあんが透けている。包丁で切ってみる。
口に入れたとたん、本わらび餅のぷるるん感と柔らかな感触、かすかにきな粉のやさしい香ばしさが、同時に押し寄せてきた。
そこになめらかな、しっとりとしたこしあんが「あたしを忘れないで」とメーンに出てきた。小豆は北海道産、砂糖はたぶんグラニュー糖。かすかに塩気も感じた。
三位一体の絶妙な、京都に負けない上質の味わいだと思う。
口どけもとてもいい。
この後、冷蔵庫に30分ほど冷やして、再賞味してみた。
本わらび餅は冷やすと固くなる。なので30分。より歯ごたえが出て、冷たさが別の味わいを運んできた。これはこれで悪くない。
店によると、本わらび粉は京都からわざわざ取り寄せているそう。
素材へのこだわりが京都流、ということになる。京都で同じものを食べたら、もっと舌代は高くなると思う。埼玉の優位ってことかな。
「くず桜」もこしあんで、きれいな風味。桜の葉がビニールなのが、やや興ざめだが、この価格なので、そう文句は言えない。
「水無月(みなづき)」は京都の6月の定番生菓子で、「半年の穢れを祓い、残り半年の健康を祈る」という意味がある。コロナ禍もこの穢れに入ると思う。小豆には魔除けの意味もある。
ういろうに蜜煮した大納言小豆を乗せ、寒天でコーティングしている。
もっちりした歯ごたえときれいな食感、小豆の風味を舌の上で楽しむ。
目を閉じると、なんだか京都にいる気分になってきた。
所在地 埼玉・東松山市本町1-9