週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

奇跡のこしあん、「豆福」の驚き

 

コロナにもめげず。

 

今年出会ったなかで、「これは凄いなあ」と脱帽したのが、ローカル都市・桐生市の老舗和菓子屋さん「御菓子司 あら木」のこしあん。創業が明治31年(1898年)。

 

小ぶりの豆大福「豆福」の中に隠れていた。

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あんこのかぐや姫

 

と言いたくなるほど。桐生なので織姫かもしれないが(笑)。

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光が通り抜けそうなほど青紫色がかった自家製こしあんで、上質の餅とキリリとした赤えんどう豆とのバランスも絶妙だった。

 

ここにもスゴ腕の和菓子職人がいる。ついうれしくなる。

 

驚かされるのはその舌代。1個130円(税別)。豆大福の名店は数あるが、質的にもコスパ的にもここはトップクラスのレベルだと思う。

 

桐生はかつて「西の西陣、東の桐生」とうたわれたほどの織物の町でもある。

 

過日の賑わいはないが、歴史のある街なので、和菓子屋も多い。

 

最初はさほど期待せずに、ふらりと暖簾をくぐった。

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「豆福」の他にもいちご大福や酒饅頭、草餅、上生菓子などが置かれている。いずれも小ぶり。しかも安い。

 

悲しいかな胃袋が一つしかないので、「豆福」の他に「大納言かのこ」(税別 140円)、「草もち」(同130円)、「いちご大福」(同220円)、「酒まんじゅう」(同100円)を買い求めた。

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いずれも添加物はゼロなので、賞味期限は基本的に本日中。

 

その約5時間後、自宅に戻って賞味となった。

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豆福はすでにほんの少し餅が固くなりつつあったが、上質な柔らかさで、冒頭に書いたように中のこしあんのレベルの高さに胸のあんこセンサーがピコピコ鳴った。

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ため息とともに、青紫色のこしあんに舌鼓を打つ。

 

しっとりとふくよかが絶妙に融合していて、北海道産えりも小豆のきれいな風味が口の中で立ってくる。塩加減もほんのり。しばしの間、目をつむりたくなった。

 

探し続けている、1+1が3以上の世界。

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大納言かのこへ。外側には北海道産十勝大納言を使い、中のこしあんは豆福と同じもの。あんこの質の高さを考えると、東京だと最低でもこの2倍の値付けになるレベルだと思う。

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ほおーっ、となったのがこの店のオリジナル「いちご大福」(同220円)。あんこがミルクあんだった。珍しいあんこ(ミルクは外注)。

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白手亡豆に練乳を加えたような、ミルクの風味のする実験的なこしあんで、みずみずしいとちおとめとの相性が悪くない。控えめな甘さが好感。

 

いちご大福の進化系の一つ、とも言える。

 

気になったので、後日、再び訪問した。美人女将さんが4代目当主を呼んでくれて、少しだけ時間を取ってもらい、あれこれ取材したら、凄いキャリアだった。

 

和菓子の専門学校を出てから、赤坂の「御菓子司 塩野」で修業、普通なら2~3年修業したのち実家の和菓子屋に戻るのだが、店主に気に入られて修業を延長、塩野の餡場(あんこ作り)を任されるまでになった。

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実家の桐生に戻ってからは、3代目の後を継ぎ、ローカルの桐生を舞台に塩野に負けないこしあんと和菓子作りに励んでいる、と言葉少なめに語る。

 

美味いはずだよ。

 

失礼を承知で言うと、歴史があるとはいえ、よくもまあローカルの一角でこの価格でこのレベルを維持しているなあ、と感心させられる。ホント、そう思う。

 

こしあんの作り方は塩野とほとんど同じで、丁寧に炊き上げた小豆を特殊な2層のふるいにかける。そこから手間暇をかけて、上質のこしあんに仕上げていく。

 

最終段階の練り上げには上白糖を使うようだ。白ザラメよりも上白糖の方がコクが出る、とか。

 

ここまで自前でこしあん作りにまでこだわり続ける和菓子屋さんは希少になっている。

 

その手間ひまが青紫色の見事なこしあんに結実していく。

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なので、きめの細やかさがひと味違う食感になる。

 

舌にあんこの微粒子を感じさせる、自然な風味とさらさら感が際立っている、と思う。

 

あんビリーバブルな舌触り。

 

草もちはつぶあんで、こちらも上質な味わい。

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酒まんじゅうも小ぶりだが、しっとりとした皮は糀(こうじ)の香りが十分にあり、中のこしあんとよく合っている。仕事に手抜きがない。

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これが100円とはにわかには信じられない。

 

「ぎりぎりです」と笑うが、不屈の志がないと、ここまではできない世界だと思う。

 

コロナ禍に揺れる日本の中で、こうした店が首都圏のローカルに存在していることを、素直に喜びたい。

 

あんこの神様はコロナを超える。

 

野暮を承知で、そう信じたくなる。

 

所在地 群馬・桐生市仲町1-8-2

最寄駅 JR東日本両毛線桐生駅から歩いて約15分

 

 

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信長の影、熱田神宮の上生菓子

 

NHK大河ドラマ麒麟がくる」で染谷将太演じる織田信長が予想に反して、いい。登場するまでは完全にミスキャストだと思っていたが、次の瞬間何をするかわからない、スリリングな雰囲気をよく出している。人も役者も見かけによらぬもの、と改めて反省する。

 

その信長ゆかりの熱田神宮で、意外なあんこに出会った。

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蔵造りのきよめ餅総本家で、有名なきよめ餅を買い求め、その足で神宮駅前にある喫茶部「喜与女茶寮(きよめさりょう)」へ。あわよくば、コーヒーでも飲みながら、ここで賞味しようと思った。

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ふとメニューを見ると、「抹茶セット(生菓子1個付き 税込み570円)が目に飛び込んできた。

 

この「飛び込む」という感覚は信長的だと思う(ホントかよ)。

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手書きの生菓子は6種類あり、その中で今年の干支(えと)にちなんだ「干支 子(ね)」を選んだ。

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丹波大納言小豆の艶やかな粒あんを上質の羽二重餅で包んだ上生菓子で、奥ゆかしいふわり感とネズミの焼き印が渋い。片栗粉が表面にうっすら。ややもすると手にくっつきそうになる。

 

中の粒あんが雑味のない、皮まで柔らかい、控えめな甘さで、丹波大納言のきれいな風味が広がってくる。それがとろけそうなほど柔らかい羽二重餅とうまくマッチングしていると思う。

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氷砂糖で練り込んだようなあんこで、テカリ方が美しい。

 

目を閉じると、舌の上で歴史の闇に消えていった夢の粒子が一瞬だけきらきらと残像になる。場所柄のせいか、そんな感じ。

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京都の「まったり」の延長線上にある、上品な味わいだと思う。

 

織田信長は薄味の京料理が苦手だったようで、上洛した際に、贅(ぜい)を尽くして出された料理に「こんなまずいものはない」と京で一番の料理人をあわや手討ちにしかかった、という逸話も残っている。料理人は一計を案じて、味を思い切り濃くしてもう一度出したら、今度は「美味い」と喜んできれいに食べたとか。

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信長ならあり得る、と思わせるところが怖い。

 

きよめ餅総本家の創業はそう古くはない。現在4代目なので、おそらく昭和初期あたりだと思うが、問い合わせても「はっきりしたことはわかりません」。

 

総本家で買った熱田名物「きよめ餅」(2個小箱入り 税込み270円)も食べてみた。

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こちらも羽二重餅だが、トレハロースなど添加物も少し入っている。

 

中のあんこはこしあんで、甘めだが、ほんのり塩気もあり、予想以上に美味い。

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初代が伊勢神宮赤福餅のような名物を作ろうと一念発起、赤福餅とは逆の発想で、こしあんを柔らかな餅で包んで売り出したところ、参拝客の人気となったという歴史を持つ。

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ルーツは江戸時代中期、天明年間(1781~89年)に参拝客相手に「きよめ茶屋」を設けていたことに由来する。当時の餅と同じかどうかは不明。

 

かの桶狭間の戦いに臨む前にここで戦勝祈願した信長だが、当時、勝利は不可能と思われた戦いに見事に勝利、その御礼として信長塀(下の写真)を寄進してもいる。

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今も残るそのモダンな信長塀を見ながら、もし信長がこの「上生菓子を出されたら何というか、想像してみた。

 

茶器や茶道具に異常な執念を見せたが、舌の方は、ポルトガル人宣教師からもらった金平糖に大喜びしたり、素朴で濃い味付けを好んだり、天下人になっても洗練とはほど遠い気がする。

 

その意味で、上生菓子より素朴なきよめ餅の方を好んだのではないか。そんな空想を楽しみながら、二つを食べ比べしてみる。

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ひょっとして手討ちにされるかもしれないが、和菓子にはそういう楽しみ方もあると思う。時空を超える楽しみ。是非も及ばず(笑)。

 

所在地 名古屋市熱田区神宮3-7-21

最寄駅 名鉄神宮前駅から歩いてすぐ

 

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京都って深い、亀末廣「古の花」

 

私にとって、京都・和菓子界の頂点の一つが烏丸御池にある「御菓子司 亀末廣(かめすえひろ)」である。

 

創業が文化元年(1804年)で、虎屋や川端道喜よりは歴史が浅い(恐るべし京都!)が、いい意味でとんでもないポリシーを長年守っている。

 

「デパートからの出店依頼を断り続けてるんや。ほんま日本でも希少な店の一つで、通販もしておまへん。江戸時代からの対面販売をずーっと守っているのがそんじょそこらの和菓子屋とは違います。京都の中でも本物の一つや」

 

8年ほど前のこと。口の悪い京都人の畏友が、珍しくそう語った。

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その足で、タイムスリップしたような土蔵造りの店を訪ね、真竹入り「大納言」を買った。確か一つ400円以上していた(高いなあ、と思ったが)。丹波大納言小豆をじっくりと蜜煮しただけの、あまりにシンプルな、あまりに濃密な味わいに心がざわめいた。

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今回はそれ以来の訪問。つまり8年ぶりの訪問となる。

 

「亀末廣」は干菓子や半生菓子、落雁(らくがん)を詰めた美しい「京のよすが」が有名だが、上生菓子の評価も高い。

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今回はネーミングに惹かれて「古の花(このはな)」(税込み 1棹2100円)を買い求めた。

 

渋い竹皮に包まれた、丹波大納言を使った小豆羊羹の範疇に入るが、ただの羊羹ではなかった。

 

京都から自宅に戻って、竹皮を外し、さらに銀紙(表は白)を取ると、きれいな小豆色の羊羹が姿を見せた。

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驚いたのは、一部分に琥珀色(こはくいろ)の寒天が流し込まれていたこと。細かい気泡が金色に輝いていた。

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わっ、うつくしい。地味な美という世界もあるんだ。雅(みやび)という言葉も浮かんだ。

 

江戸の粋に対して京の雅。その遺伝子がここにもある。

 

包丁で切ると、断面は羊羹生地の夜の中で、蜜煮した大納言小豆がポツポツとつぼみのように咲いているようにも見える。

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敬意を表しながら、口に運ぶと、きれいな舌触りで、大納言小豆の柔らかなつぶつぶ感がゆるゆると立ち上がってきた。一粒一粒が形はあるのに、皮まで驚くほど柔らかく炊かれているので、歯触りがすっすっと入る。

 

虎屋の「夜の梅」と似ているが、食感が違う。妙なねっとり感がない。雑味もない。

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やや甘めで、それでいてたおやかな風味。柔らかな凝縮感もある。

 

寒天は固めで黒糖の気配がある。固めのゼリーのような感覚。

 

上手く表現できないが、金色のきらめきが小豆羊羹と恋愛し、口の中で崩れ落ちながら溶けていく。そんな感じ。

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丹波大納言小豆のふくよかな余韻が心地よい。

 

現在7代目。元々は伏見で茶釜を作っていたようだ。その流れの中で上菓子屋になり、二条城や御所にも納めたほどの指折りの「御菓子司」となっていった。

 

江戸時代のスタイルを頑なに守り続けているが、いくつか暖簾分けはしている。「末富」「亀廣永」「亀廣保」など。

 

ネットの時代にこういう店が存在していることを素直に喜びたい。「古の花」は亀末廣そのものかもしれない。

 

所在地 京都市中京区姉小路通烏丸東入ル

最寄駅 地下鉄烏丸御池駅から歩いて約3~4分

 

 

            

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参道の神の手「草だんご」

 

「草だんご」と言えば、関東では寅さんの柴又があまりに有名だが、世の中は広い。あんこの世界も広い。視点を変えれば、宇宙より広い・・・かもしれない。

 

柴又帝釈天西新井大師の草だんごはつぶあんを別盛にしているが、ここのは一個一個こしあんで丁寧に包んであった。地味だが、志が高いと思う。

 

そのこしあんのみずみずしいこと。上質のしっとり感。舌触りが心地よい。

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水飴も加えているのか、少しねっとりとしていて、北海道産えりも小豆のきれいな風味と抑えられた甘み(上白糖使用)が、観光地とは思えない美味さだった。意外な出会いとしか言いようがない。

 

ほんのりと塩気も効いていて、「いい塩梅」の文字が隠れている。それがヨモギ餅(上新粉使用)の柔らかな感触とよく合っていた。

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きなこの美味さも付け加えておきたい。

 

私が追い求める1+1=3の世界で、奈良・葛城市にある「中将餅(よもぎ餅)」と比較したくなったほど。

 

あっ、いけない。場所を書くのを忘れていた。香取神宮参道「亀甲堂(きっこうどう)」でのこと。大店の一軒家茶屋(食事処)だったので、あわや見過ごすところだった。まさか草だんごが隠れていたとは、ね。

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もとい。天ざるやアナゴ天丼のメニューとともにだんご類のメニューがあり、よく見ると、料理場とは別に、おばさんスタッフが2~3人で熟練の手つきで草だんごを丸めていた。名物の焼きだんごもある。外から見えるようにもなっていた。気が付かない方がおかしい。

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一皿(こしあん4ヶ、きなこ3ヶ)が450円(税込み)なり。

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外の縁台が寒そうだったので、「中で食べてもいいですか?」と聞くと、「どうぞどうぞ」。昔ながらのいい茶店で、開放的なおもてなしだった。温かいお茶までサービスしてくれた。

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たまたま白衣姿の3代目店主がいた(忙しそうだった)ので、ほんの少しだが聞いてみた。

 

創業は昭和初期。こしあん「当然です」と自家製香取神宮参道には「寒香亭」や「梅乃家本店」などの老舗もあり、いずれの草だんごもこしあんつぶあんで丸めている。なので、香取神宮参道は作り方もコスパも素晴らしい、と思う。

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「亀甲堂」の草だんごをすっかり堪能してから、外をブラ歩きしていると、地元のカメラマンと女性編集者に出会った。

 

当たりです、あそこの草だんごは美味しいですよ。ファンも多いです」

 

たまに狂う、私のあんこセンサーが今回は狂っていなかった、ことになる。あんラッキー。

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香取神宮は首都圏を中心に400社ある香取神社の総本社でもある。創建は平安時代をはるかに遡る、神代の時代と言われている。

 

そう考えると、これって「神の手が丸めたこしあんの草だんごか?」、無理やりだが、そう小見出しを付けたくなるのだった。

 

所在地 千葉・香取市香取1894-5

最寄駅 JR成田線佐原駅からバス約10分

 

 

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出会い系?道明寺と白玉栗餅と

あんこ旅の途中でへえ~と唸ったのがこれ。あんこの出会い系。

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「水郷の小江戸」千葉・佐原でのこと。伊能忠敬旧宅を出てから古い街並みをブラ歩くと、タイムスリップしたような、古い建物が見え、「植田屋荒物店」の屋号。現在8代目という江戸中期創業の雑貨屋さんで、その女将さんが和菓子好きだった。

 

「あら、地味だけどいい和菓子屋さんがあるわよ」

 

と教えてくれたのが「おざわ菓子店」だった。

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お礼に小皿を買い、期待半分で5分ほど歩くと、シンプルな和づくりの小さな店が見えた。白い暖簾がひっそりと、伏し目がちに流し目をくれた気がした。いちご大福のノボリが風で揺れていた。いいネ。

 

午後1時過ぎだったが、いちご大福はすでに売り切れで、棚に並ぶ和菓子は上生菓子も多い。どら焼き、わらび餅も見える。種類は10種類ほど。手作りにこだわった少量生産の和菓子屋さんだとすぐにわかった。

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期待半分が期待八分にふくらんだ。

 

迷った末に、残り少なくなっていた「道明寺(桜もち)」(税込み120円)と、「白玉栗もち」(同120円)を買い求め、それに「酒まん」(同120円)も追加した。

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見るからに職人気質の店主は言葉少なめで、聞きだすのに苦労したが、創業は昭和54年(1979年)、静岡と東京の老舗和菓子屋で修業したのちにこの地に暖簾を下げたそう。

 

賞味期限が本日中だったので、数時間後にホテルで賞味することにした。

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すべて小さめの作りで、まずは「道明寺」。白に近い淡いピンクの道明寺が上質でみずみずしい。もちもち感と塩漬けの桜の葉の香り。

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中のあんこはしっとりとしたこしあんで、しかも自家製。ほどよい甘さと北海道産えりも小豆のいい風味をきれいに引き出している。塩気もほんのり。

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思わず目をつむりたくなる。口中の快感。

 

気を取り直してっと。次に「白玉栗もち」。寒ざらしのもち米を手数をかけて半透明に仕上げた白玉餅に栗のかけらが練り込まれている。

 

餅粉が薄くかかっている。小宇宙のような、凝った作り。

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中のあんこがうっすらと透けて見える。誘惑。ビジュアル的にも上生菓子の気配で、これが120円というのに驚かされる。ホンマ、コスーパーやで。

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求肥餅とほぼ同じ食感で、中の粒あんが艶やかで期待以上に上質。なめらかなきらめき。砂糖はグラニュー糖と上白糖をブレンドしているようだ。北海道産えりも小豆の風味がこしあんよりも強めに迫ってくる。

 

甘さを抑えた、ふくよかな余韻。食べながら店主のこだわりと口数の少なさに思いを致す。店主の志と腕は確か。いい和菓子職人を見つけた気分、次第に頬が緩んでくる。

 

「酒まん」(酒まんじゅう)もかなり小ぶりだが、糀(こうじ)の香りが立ってくる。小麦粉と米粉ブレンドしたようなねっとりとした食感がとてもいい。

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中はしっとりしたこしあんで、糀(こうじ)の風味がいい具合に浸食している。濃い風味のあんこ。余韻が長い。

 

「四千万歩の奇跡の男」伊能忠敬が正確無比な日本地図を作ってから約200年後。約一万歩ほどの歩きで、かような和菓子屋さんに出会えるとは。これってあんこの神様の粋な計らいってこと? そう思うことにした。

 

所在地 千葉・香取市佐原イ3355-1

最寄駅 JR東日本成田線 佐原駅から歩約12分

 

 

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渋谷⇒三茶「あんパン進化系」巡り

 

新型コロナウイルスに負けてはいられない。

 

と書き出したが、このブログの趣旨はあんこ、である。

 

あんこが地球を救う、ことだってあるかもしれない。

 

で、今回は老舗のあんパンって何だ?ということを少し考えてみたい。

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あの銀座木村屋があの渋谷スクランブルスクエアに出したアンテナショップ「キムラミルク」へ立ち寄り、あんパンの最前線を味わってみようと思い立った。

 

買ったのはパン生地(酒種50%入り)にマッシュポテトを練り込んだ「つぶあんぱん」(税込み 201円)と「こしあんぱん」(同)。この店だけのあんぱん、でもある。へそには木村屋のシンボル、桜の塩漬け。

 

で、賞味後。あくまでも個人的な感想だが、がっかりかりかり。期待値が大きすぎたのかもしれないが、パン生地にもっちり感がなく、むしろパサパサ気味(たまたまなのか?)。

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中のあんこは銀座木村屋共通のもの。なぜか感動が来ない。

 

明治7年(1874年)にあんぱんを発明した、敬愛する木村家、一体どうしちゃったんだ? 

 

せめてこの店だけの手作りあんこを作れないものか。コスパ的にも「?」だった。他にもユニークな、ある種の実験的なあんパンが並んでいたので、結論を急がず、別の機会にまた訪ねてみたい。

 

次に訪れたのが、三軒茶屋の有名店「濱田家(はまだや)三軒茶屋本店」。「小麦と酵母」の文字が染め抜かれた紺地の日よけ暖簾が渋い。

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オープンしたのは2000年(平成12年)11月と、銀座木村屋に比べると、歴史がはるかに浅い。

 

ここで買ったのが、人気2位の「くるみあん」(税込み210円)、「あんぱん」(同170円)、冬季限定「冬の3色あんぱん」(珈琲、玉露こしあん 同240円)。(ちなみに人気1位の「豆パン」はあんぱんではないので今回は外した)。

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パン生地がそれぞれ違っていて、「小麦と酵母」を看板にしているだけのことはある。小麦の香ばしさともっちり感が十分にある。

 

個人的な感想ではパンの美味さが、木村屋より上だと思う。パン生地の小麦粉はカナダ産を使用しているようだ。

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最も気に入ったのは「くるみあん」。ハード系に近いパン生地にくるみが練り込んであり、その密度と食感、口の中に広がる風味がとてもいい。

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中のあんこはきれいなつぶあんで、あんこ好きとしてはもう少し量が欲しいが、いいあんこの風味が舌の奥から立ち上がってくる。控えめな甘さと塩気も悪くない。

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残念ながらあんこは自家製ではなく、製餡所から取り寄せているようだ。

 

「冬の3色あんぱん」はコーヒーあんが特に気に入った。インパクトは薄いが、こしあんとコーヒーの相性は悪くない。

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玉露あんも白あんと玉露の濃さがそれなりに合っている。

 

濱田家本店は古さと新しさ、和と洋をうまく組み合わせていると思う。総菜パンの新しい世界を模索していて、それが成功しているように見える。

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一方、銀座木村屋の「キムラミルク」は迷路にハマっているのではないか。残念だが、表面だけの新しさと感じてしまった。心にずんと来ない。あんパンと牛乳の組み合わせは古くて新しいが、ここはミルクにも一工夫欲しい気がする。

 

あんパンを発明した、初代のコペルニクス的な精神が、140年以上経つと、少しずつズレが生じてくるのかな(ズレてるのはお前の方だ、の声あり)。

 

暖簾を維持するのは難しい、とは思う。なので、あんパン好きとしては、もう少し、この「あんパン進化」の行方を見ていきたい。

 

これからこれから。

 

パンデミックりあんパンしょ(また外した)。

 

所在地 東京・世田谷区三軒茶屋2-17-11グレイス三軒茶屋102

最寄駅 東急田園都市線三軒茶屋駅から歩約7分

 

 

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究極か?名古屋の「上り羊羹」

 

「羊羹(ようかん)」の中でも蒸し羊羹の歴史は古い。

 

寛政年間(18世紀後半)に江戸・日本橋で寒天を使った煉り羊羹が登場するまで、小豆を使った羊羹と言えば、主に蒸し羊羹だった。寒天ではなく小麦粉を使った羊羹。

 

尾張名古屋へのあんこ旅で、驚くべき蒸し羊羹に出会った。

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上生菓子界では知る人ぞ知る、美濃忠本店の「上り羊羹(あがりようかん)」である。

 

「オーバーだよ」と思われるかもしれないが、羊羹に対する概念が変わってしまうほどの、天にも昇る味わいだった(ホントにあと数センチで天に昇ってしまいそうだった)。

 

それがこれ。

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一見すると、蒸し羊羹というより、水ようかんか煉り羊羹に近い。

 

1棹が税込み2484円と安くはない。たまたま半棹(同1296円)もあったので、そちらをゲットした。賞味期限は4日間と短い。

 

箱を開けると、丁寧に銀紙で包まれたご本尊が現れた。

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濃い藤色のあまりの美しさに目が吸い込まれるようだった。

 

備えてあった菓子楊枝(かしようじ)と糸。

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その糸で切り分ける。

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ぷるるんと揺れる。水ようかんのようで水ようかんとは違う。

 

上品というより、高貴な印象に近い。

 

恐る恐る口に運ぶと、なめらかな、それもただのなめらかさとは違う、微粒子の舌触り。

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表現するよりまずは味わえ。理屈は後からついてくる?

 

小豆のきれいな風味と上品な甘さが舌の上でとろけるように消えていく。

 

余韻の長さもレベルを超えている。

 

ベースのこしあんがぷるるんと舞いながら昇華していく(表現がヘンかな)。

 

デビュー当時のアリシア・キーズみたい(合ってるかな?)。

 

私が食べた羊羹の中でも、こういう食感は初めて。

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表記してある材料を見ると、砂糖(国内製造)、小豆、小麦粉としか書かれていない。

 

小麦粉の存在はほとんど感じない。むしろ葛(くず)の食感に近い気がする。

 

美濃忠は創業が安政元年(1854年)で、現在6代目女将。尾張徳川家の御用達を務めた御菓子司だが、この上り羊羹は創業当時から作っているとか。

 

京都の「川端道喜」には負けるとしても、これは凄いことだと思う。

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この尋常ではない「上り羊羹」の正体を知りたくなり、失礼とは思いながら、思い切って電話してみた。

 

小麦粉とは思えない、本葛ではないか? 小豆は? 砂糖は和三盆? などなどいくつもクエッションマークが湧いてくる。

 

「小豆は北海道産ですが、砂糖は和三盆ではありません。上質な砂糖としか言えません。小麦粉も同じです」(本店)

 

代々伝わる家中の秘伝ということのようだ。

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当たり前のことだが、情報公開は老舗の奥には通用しない。

 

それでいいのだ、と思い直す。

 

それにしても、と思う。美濃忠をたどると、徳川義直尾張藩初代藩主)の御用達だった「桔梗屋」にたどり着く。初代はそこで修業した後、現在の地に「美濃忠」の暖簾を掲げたようだ。

 

そのときから、すでにこの「上り羊羹」を作っていたことになる。

 

「上り」の意味は、献上の意味だそうで、尾張徳川家の歴代お殿様は、こんなにぜい沢な蒸し羊羹を食べていたことになる。

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それを今、平民の私が味わっている。

 

5月25日までの季節限定品だが、新型コロナウイルスパニックの中で、この一瞬の絶妙を味わえるとは・・・これもあんこの神様のおかげということにしておきたい。バチが当たる前に。

 

所在地 名古屋市中区丸の内1-5-31

最寄駅 地下鉄丸の内駅から歩約5分

 

 

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