あんこ旅の途中でへえ~と唸ったのがこれ。あんこの出会い系。
「水郷の小江戸」千葉・佐原でのこと。伊能忠敬旧宅を出てから古い街並みをブラ歩くと、タイムスリップしたような、古い建物が見え、「植田屋荒物店」の屋号。現在8代目という江戸中期創業の雑貨屋さんで、その女将さんが和菓子好きだった。
「あら、地味だけどいい和菓子屋さんがあるわよ」
と教えてくれたのが「おざわ菓子店」だった。
お礼に小皿を買い、期待半分で5分ほど歩くと、シンプルな和づくりの小さな店が見えた。白い暖簾がひっそりと、伏し目がちに流し目をくれた気がした。いちご大福のノボリが風で揺れていた。いいネ。
午後1時過ぎだったが、いちご大福はすでに売り切れで、棚に並ぶ和菓子は上生菓子も多い。どら焼き、わらび餅も見える。種類は10種類ほど。手作りにこだわった少量生産の和菓子屋さんだとすぐにわかった。
期待半分が期待八分にふくらんだ。
迷った末に、残り少なくなっていた「道明寺(桜もち)」(税込み120円)と、「白玉栗もち」(同120円)を買い求め、それに「酒まん」(同120円)も追加した。
見るからに職人気質の店主は言葉少なめで、聞きだすのに苦労したが、創業は昭和54年(1979年)、静岡と東京の老舗和菓子屋で修業したのちにこの地に暖簾を下げたそう。
賞味期限が本日中だったので、数時間後にホテルで賞味することにした。
すべて小さめの作りで、まずは「道明寺」。白に近い淡いピンクの道明寺が上質でみずみずしい。もちもち感と塩漬けの桜の葉の香り。
中のあんこはしっとりとしたこしあんで、しかも自家製。ほどよい甘さと北海道産えりも小豆のいい風味をきれいに引き出している。塩気もほんのり。
思わず目をつむりたくなる。口中の快感。
気を取り直してっと。次に「白玉栗もち」。寒ざらしのもち米を手数をかけて半透明に仕上げた白玉餅に栗のかけらが練り込まれている。
餅粉が薄くかかっている。小宇宙のような、凝った作り。
中のあんこがうっすらと透けて見える。誘惑。ビジュアル的にも上生菓子の気配で、これが120円というのに驚かされる。ホンマ、コスーパーやで。
求肥餅とほぼ同じ食感で、中の粒あんが艶やかで期待以上に上質。なめらかなきらめき。砂糖はグラニュー糖と上白糖をブレンドしているようだ。北海道産えりも小豆の風味がこしあんよりも強めに迫ってくる。
甘さを抑えた、ふくよかな余韻。食べながら店主のこだわりと口数の少なさに思いを致す。店主の志と腕は確か。いい和菓子職人を見つけた気分、次第に頬が緩んでくる。
「酒まん」(酒まんじゅう)もかなり小ぶりだが、糀(こうじ)の香りが立ってくる。小麦粉と米粉をブレンドしたようなねっとりとした食感がとてもいい。
中はしっとりしたこしあんで、糀(こうじ)の風味がいい具合に浸食している。濃い風味のあんこ。余韻が長い。
「四千万歩の奇跡の男」伊能忠敬が正確無比な日本地図を作ってから約200年後。約一万歩ほどの歩きで、かような和菓子屋さんに出会えるとは。これってあんこの神様の粋な計らいってこと? そう思うことにした。
所在地 千葉・香取市佐原イ3355-1