ローカルの甘味処にはセピア色の夢がある。
と表現したくなる年季の入った甘味処を見つけた。
住宅街にポツンと一軒家、に近い感覚。
渋好みの私のあんこセンサーが「暖簾をくぐれ」とささやいた。
前橋市郊外にひっそりと(?)とたたずむ「甘味 十紋字」(じゅうもんじ)の看板と屋号。
十文字? 薩摩と関係がある?
★味わったメニュー
田舎しるこ 700円
御膳しるこ 700円
白玉ぜんざい 600円
※すべて税込みです。
【センターは?】
田舎しるこのあまりに素朴なあんあん世界
同行した編集部のあん子くんが「編集長、いくらあんこ好きといっても、今回は食べすぎでしたね」と引き気味の展開となった。
まずは「田舎しるこ」と「御膳しるこ」を食べ比べしようと二つ同時に注文した。
あん子くんは体調不良でコーヒーだけにした。
昭和な、本格的な、磨き抜かれた木のテーブルと小上がり。
シンプルなゴージャス、という世界もある。
白衣姿の店主が熱いほうじ茶を持ってきて、奥の板場に引っ込んでから約10分ほど。
二つの漆塗りのお椀が丁寧に置かれた。
受け皿が凝っていて、この店が本物を追及してきた甘味処とわかる。
蓋を取る。おしるこはこの瞬間がたまらない。
二つの小世界が香り豊かな湯気を漂わせてながら、眼下に。来た、来た。
田舎しるこ:茹でつぶあんと焼き餅2枚
大きめの焼き餅が2枚。その下に濃厚なつぶあん(茹であずきに近い)。
全体のボリュームがすごい。
小豆の皮まで柔らかく炊かれていて、甘さをかなり抑えている。
細かな泡(あく)をわざと残して、田舎しるこを演出していることがわかった。
店主によると「小豆は北海道産で、砂糖は普通の砂糖(上白糖)を使ってます。昔から同じ作り方ですよ」とか。
塩も利かせていて、その加減がとてもいい。
小豆の風味をじっくり楽しみたい人には極楽に近いと思う。
御膳しるこ:こしあんと焼き餅2枚
こちらはお椀が平たい。
焼き餅はつぶあんと同じ。絶妙な焼き加減と柔らかさ。
穏やかな、ゆるめの自家製こしあんで、塩気もかすか。
なので、田舎しるこほどのインパクトはない。
ここは気品を取るか、素朴を取るか、好みが別れると思う。
私的には田舎しるこの方が好みかな。
白玉ぜんざい:大納言小豆+白玉5個
大納言小豆(北海道産)のあんこは冷たいが、白玉は温かい。
これは濃厚なつぶあんで、大納言小豆は粒々感がしっかりとあり、今回食べた中では一番甘い。
3杯目の怒涛の寄り(笑)。
白玉(自家製)がもっちりしていて、煮詰められた大納言小豆のくどさ(このくどさが悪くない)をいい具合に中和していて、3杯目を押し上げてくれた。
あん子「白玉ぜんざいもあんこの量がかなりあったので、編集長の胃袋が心配になりましたよ。止めても無駄、とわかってても(笑)。店の人も大丈夫かなって顔で見てましたよ」
編集長「さすがにギリギリだった。でもここで食べないと後で後悔する、ってわかってるので、とにかく食べる。他のお客さんがあんこ載せワッフルを注文していたので、それも食べたかったけど、無念、3杯で撃沈。でも、ここは私の中ではセピア色の穴場だよ。ワッフルは次回の楽しみに」
●あんヒストリー
創業は店主によると昭和52年(1977年)。もともとは横浜で甘味屋修業をしていたとか。「十紋字」という店名はやはり店主のルーツが薩摩(鹿児島)で、暖簾に丸十字紋はそのことを忘れないため。だが、「文」の字が「紋」と糸へんが付いているのが不思議で、聞いてみたら「店を開くときに書家の先生に頼んだら、間違って、糸へんを付けてしまった(笑)」とか。それをそのまま採用したようで、薩摩の「てげてげ文化」も受け継いでいる?
「甘味 十紋字」