週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

新潟「青豆大福」に完敗

 

個人的に新潟は餅菓子の聖地だと思う。

 

米どころなので、当たり前と思うかもしれないが、この日本海に面した中都市の餅菓子の美味さを知らない人が意外に多いのに驚く。

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この時期は笹だんごの季節で、市内の和菓子屋さんは笹団子づくりに大忙しだが、今回はいぶし銀に光る大福餅を取り上げたい。

 

中でもメーンストリート本町通りに面した場所に渋い暖簾を下げている「角田屋(かくだや)」の豆大福! つい感嘆符を付けたくなってしまった。

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まずはその神々しいお姿を見ていただきたい(力が入りすぎだよ)。

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ちなみに新潟で「豆大福」といえば、赤えんどう豆ではなく、青大豆なのである。「かつ丼」といえば「タレかつ丼」を指すのと似ている。新潟では中央の常識が通用しない? そこがまたいい。

 

メディア仲間と弥彦温泉に一泊したその足で、ひとり新潟まで足を延ばした。頭の中は豆大福がエロティックに踊っている。そんな感じかな。

 

午後1時半、新潟に着くと同時に「角田屋」に一直線。だが、すでに売り切れていた。涙が3滴ほど。女将さんの申し訳なさそうなお顔がフェードアウトする。

 

気を取り直して、翌日午前8時半、今度はオープンと同時に再訪した。

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賞味期限が本日中なので、買う数も限られる。豆大福(税込み120円)2個と草大福(同)を1個ゲット。気分は朝陽がきらきら。

 

近くの某所で賞味した。

 

大きさは京都「出町ふたばの豆餅と同じくらい。多めの餅粉と薄い餅の中には青豆ごろごろ、その奥のあんこが透けて見える。ため息の世界。

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菓子楊枝(ようじ)で二つに割ろうとするが、餅が柔らかすぎてうまく切れない。

 

搗(つ)きたての餅と塩の効いた青豆が赤えんどうの豆大福とは別の美味さを予感させる。

 

たっぷりと詰まったあんこは素朴なつぶしあんで、小豆の風味がすごい。甘さを抑えていて、それがきれいな余韻を口中に残す。渋切りは一度かせいぜい2度くらいか。

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きれいな、それでいて素朴を忘れないあんこ。店主の思いが手の匂いとともに伝わってくるような。これほどのあんこはそうざらにはない、と思う。完敗の気分。

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北海道十勝産小豆と砂糖は上白糖を使用しているそう。「塩もほんの少々加えてます」(女将さん)。

 

店主は笹だんご作りで忙しく、女将さんと話してみた。

 

創業は1915年(大正4年)で、現在3代目とか。

 

「あんこを研究したとか、そんなことないんですよ。主人は父親から教えられたそのままをやっているだけなんですよ。ええ昔のままの作り方です。ただ、甘さは昔より抑えてますけどね」

 

女将さんの素朴なお顔と人柄から店主の和菓子職人としての腕も想像できる気がする。

 

妥協のない、昔ながらのあんこ職人の後ろ姿が見える。

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草大福も絶品と言っていい味わいだった。こちらはこしあんでむろん自家製。しっとりした、見事なこしあんで、よもぎ餅の香りとの相性が素晴らしい。

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ホメる一辺倒になってしまったが、早朝から夜遅くまで休みなく餅菓子を作り続け、それがまたほっぺが落ちるほど美味いとなれば、ホメる言葉さえ追いつかない。

 

小さな店なのに、私の頭のなかでは、豆大福の名店とほぼ同じ位置を占めている。

 

遠い北前船の伝統が今もこの街に息づいている。そんな気がした。

 

所在地 新潟市中央区本町通7番町1093-3

最寄駅 JR新潟駅からバス 本町バス停下車すぐ

 

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日本橋高島屋限定「あんこの極楽」

 

どうも「限定」という言葉に弱い。

 

私にとってはある種パラダイスの、日本橋高島屋本館地下一階を鼻をクンクンさせながら散策しているときのこと(まるであんこ犬だよ)。

 

久しぶりに「叶匠寿庵(かのうしょうじゅあん)」で、ここの目玉「あも」でも買おうかと覗いてみた。

 

すると、高島屋日本橋店限定」の文字とたっぷりのあんこが目に飛び込んできた。「実演販売」の文字も。

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木目の折箱にびっしりと詰まったつぶあん! 濃い小倉色。見事なテカリ。

 

わっ、あんこの折り詰めか? 

 

あんこ好きにとってはこれはほとんど極楽の小宇宙。

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それが「このはな餅」だった。

 

びっしりのつぶあんの下に紅白の羽二重餅が控えていて、それは表面からは見えない。

 

6個入りと10個入りの2種類。6個入り(税込み 756円)を買い求めて、大急ぎで自宅に持ち帰った。賞味期限が本日中なので、早めに食べなければならない。

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このつぶあんが濃い。皮まで柔らかい。こってり感と濃厚な甘さ。

 

それらがガブリ寄ってくる。

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小豆は多分北海道産。砂糖は上白糖か? 水あめも加えているかもしれない。塩の感触はない。

 

小豆のフォーシーム(ストレート)勝負。

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紅白餅は羽二重餅で、つぶあんとの相性は悪くはない。

 

あっという間に半分食べ進む。

 

正直に言うと、「あも」を初めて食べた時ほどの感動はない。「あも」は丹波大納言小豆を使い、砂糖はグラニュー糖を使っているようだが、こちらは少し違うのではないか。

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「叶匠寿庵」は高島屋三越など有名デパートにも出店し、そのおごそかな店名とともに老舗のイメージが強いが、創業は昭和33年(1958年)と思ったほど古くはない。

 

滋賀・大津市で産声を上げ、初代は大津市の職員というキャリアのようだ。いわばあんこの素人が起こした和菓子屋で、2代目がさらに暖簾を広げていく。

 

目玉は数種類のあんこで、手づくりと素材にこだわった技術が素晴らしい。

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和菓子界では大手にまで成長している。

 

イデア力もある。

 

「このはな餅」の名も枕草子の梅の一文「木花はこきもうすきも紅梅」からとったとか。

 

あんこもうまいが、商売もうまい。

 

町の和菓子屋とは別のベクトル。

 

日本橋高島屋限定」の文字が効いている。

 

残りの半分はアリシア・キーズを聴きながら夕食後に食べることにしよう。

 

所在地 東京・中央区日本橋2-4-1日本橋高島屋B1F

最寄駅 東京メトロ日本橋駅すぐ

 

 

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埼玉最強伝説?「さくら饅頭」

 

桜前線が北上中だが、関東の桜の名所の一つが権現堂(埼玉・幸手市)。

 

「翔んで埼玉」も好きだが、あんこ好きとしては権現堂の「さくら饅頭」に着地したい。

 

埼玉最強伝説の一つに加えたい。

 

GACKT二階堂ふみこれを食べたら、埼玉観がピンク色に変わるかも。

 

前置きが長くなってしまった。

 

まずは見て感じていただきたい。

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製餡所も営んでいる「和菓子の早稲田屋」が作る、個人的には奇跡の絶妙饅頭である。

 

毎年これを食べたいがために、幸手まで足を運ぶ。

 

満開の桜の下、今年も出店していた。

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桜よりもさくら饅頭。

 

1個120円(税込み)をバラで5個買い求め、自宅に持ち帰ってから、備前の皿に載せて、賞味する。

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包みを解いた瞬間、何とも言えない桜の香りが室内に広がる。

 

胸と舌のときめき。

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淡雪のような薄い皮がぎっしり詰まった桜あんを包み込んでいる。手のひらに重さが伝わってくる。頂点に塩漬けしたきれいな桜の花びらがチョコンと乗っている。

 

敬意を表して、「日本橋さるや」の黒文字でいただく。

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細かく刻んだ桜の葉と食紅を加え、大手亡豆(白いんげんを練り上げた、きれいな桜あん。

 

この数年来、この美味さにハマっている。

 

大手亡豆の風味と桜の葉、それに塩気がたまらない。

 

砂糖は白ザラメを使用。

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皮には米粉を加え、そのしっとりとした食感が主役の桜あんを引き立てている。

 

二代目のあんこ作りにかける情熱はちょっと脱帽もの。

 

本業は業務用製餡で、和菓子作りは副業かもしれない。

 

工場のような製餡所の入り口に和菓子コーナーがある。老舗の和菓子屋をイメージすると、期待が外れるかもしれない。足を踏み入れると、お世辞にもきれいとは言えない。商売上手とは無縁な匂い。

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だが、あんこ職人としての技術はかなり高いレベル。あえて言うと、あんこの研究者にも見える。謎の立ち位置。

 

「さくら饅頭」はその結晶の一つ。試行錯誤しながら、「ここまでたどり着くのに長い年月をかけたんですよ」と笑いながら話してくれたが、これまでの蓄積とノウハウを惜しげもなく動画で公開している。何が彼をそうさせているのか、実のところ分からない。

 

異色のあんこ職人とも言える。

 

悲しいかな、この早稲田屋を知っている人は少ない。

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先日、たまたま見たNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、さすらいのあんこ職人を取り上げていた。

 

お金も名誉も店もいらない。どん詰まりに陥った和菓子屋を救いたい、その一心で車を走らせる。目からうろこのあんこ作り。あんこの伝道師とも言える。元々は宮内庁御用達店の和菓子職人だったことも明かされる。

 

世の中にはこういう人もいる。

 

世間的には無名かもしれないが、本物は確かに隠れている。

 

所在地 埼玉・幸手市中2-11-27

最寄駅 東武日光線幸手駅下車歩約10~15分

 

 

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真珠の涙?吉原宿の甘納豆屋

 

この小さな店と出会った時のうれしさは言葉を超える。

 

「中山甘納豆」

 

セピア色の看板と店構え。昭和がそのまま。かつての賑わいはない。

 

東海道五十三次の一つ、旧「吉原宿」でのこと。

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富士市吉原商店街に今どき珍しい甘納豆を手づりしている店がある」

 

映画関係者からたまたまそんな情報を聞きつけて、足を延ばしてみた。

 

名作「人生フルーツ」のような世界。

 

初老のご夫婦が二人。

 

コツコツコツコツ。朝早くから夜遅くまで、甘納豆を作り続けて半世紀を超える。

 

基本は5種類。小豆、白いんげん、青円豆(うぐいす)、そら豆(お多福)、金時。

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それらが年季の入った木枠のケースに収まって、お客を待ち続けている。

 

ちょっと感動もの。

 

あんこの世界にもこういう世界があるんだなあ。

 

甘納豆の歴史は諸説あるが江戸末期あたり。ぜんざいを煮すぎて、偶然、出来上がったという説が有力。なので、歴史自体は思ったほど古くはない。

 

店主は二代目で、初代が戦後、自転車屋から和菓子屋に転身、その時から甘納豆づくりを始めたとのこと。

 

70年ほどの歴史だそう。

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100グラム(税込み205円)ずつ小分けにしてもらって、自宅で賞味してみた。

 

最も気に入ったのは「小豆(あずき)」。

 

北海道産大納言小豆のような、見事な蜜煮の甘納豆で、濃い色といい、吹き出た砂糖の咲き方といい、二代目甘納豆職人の息遣いまで聞こえてくる。

 

「私は一晩、ぬるま湯に漬けてから煮込みます。砂糖は上白糖を使ってます」

 

しっとり感とふっくら感がひと味は違う。小豆のいい風味も殺さない。

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甘納豆づくりは、煮上げてから乾燥させるまで手間ヒマがかかる。

 

「だから、あまり儲からない。仕事が大変だし、肉体労働だよ。膝もやられちゃったし、ね(笑)」

 

二代目の言葉を思い起こしながら、極上の味わいをかみしめる。

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気に入ったのは、個人的にだが、小豆、白いんげん、うぐいす、金時、そら豆の順。

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すべてがいい味わいだが、好みを言うと、この順番になった。

 

素材の豆はうぐいす(えんどう豆=カナダ産)以外は国産。

 

小豆の値上げにも頭を痛めている。

 

「私の代でお終いでしょうね」

 

ここでもこの言葉に出会ってしまった。

 

いい仕事をすると儲けも出ない。昔気質の職人のジレンマ。

 

お客の中には俳優の三国連太郎さんもいたそう。

 

次の元号「令和」と決まったが、その「和」の中にあんこ職人がちゃんと入っているかどうか、来月の儀式などよりはるかに気になる。

 

所在地 静岡・富士市吉原2-1-17

最寄駅 東海道本線吉原駅から岳南線に乗り換え、吉原本町駅下車

 

 

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吉祥寺「小ざさ」の最中力

 

美味い最中(もなか)は全国各地にある。

 

だが、この最中はちょっとすごいぞ、と個人的に思うのが東京・吉祥寺「小ざさ(おざさ)」の最中である。

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つぶあんと白あんの2種類だけ。

 

小さいのに皮だねのパリッとした香ばしさ、中のあんこの洗練が口の中でため息の巨人になる。吹き上がる感覚・・・妙な表現だが、そんな感じ。

 

この小ざさ、幻ともいわれる羊羹(ようかん)があまりに有名で、早朝から並んでも手に入りにくい。一日限定150本。

 

私はかつて三鷹に住んでいた時に、たった一度何とかゲットして食べたことがある。見た目が濃い紫色で寒天と練りが「虎屋」に負けてない。きれいな余韻の深い味わいだったことを覚えている。

 

なので、ずっと最中は羊羹が手に入らなかったときの代用品と思っていた。

 

あまーい、いや甘すぎる思い違いだった。

 

小豆の高騰などで少しずつ価格が上がっているが、それでも他の老舗有名店の最中に比べて実にコスパがいい。店主の志を感じる。

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5個入り税込み335円(紅3個・白2個)。1個67円なり。

 

自宅に持ち帰って、久しぶりに賞味する。お茶よりもコーヒーが合うと思う。

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まずつぶあん

 

皮のパリパリ感が秀逸。崩れることがない。噛んだ瞬間、香ばしさが銀座「空也(くうや)」と比べてもそん色がない。

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中のあんこはさらに絶妙。大納言小豆こしあんブレンドしている、と思う。ふっくらとした大きな粒とサラッとしたこしあん

 

みずみずしさとねっとり感。

 

小倉色の光沢と透き通った光のグラデーションが「職人の洗練」を思わせる。

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個人的には銀座「空也よりも番付上位。

 

甘さは抑えている。

 

小豆のきれいな風味に雑味がない。

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蜜煮した十勝産大納言小豆も加え、砂糖はたぶん上白糖。

 

寒天を少し加えて練っているようで、それがみずみずしいこってり感を生んでいると思う。

 

白あんもファンが多い。

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北海道産白いんげん豆の風味が立つ。

 

あめ色に近い白あん。

 

赤あんと同じように、ふくよかに炊かれていて、皮の食感も残している。

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昭和26年(1951年)創業。初代が切り開き、2代目(女将)がその味を研ぎ澄まし、3代目へとバトンタッチ。

 

昭和から平成、そして新しい元号へ。今では信じられないことだが、吉祥寺にたった1坪の本店を70年近く守り続けている。

 

ある意味、和菓子界の奇跡の店と言いたくなる。

 

幻の羊羹もいいが、最中を忘れてもらっちゃ困る。

 

所在地 東京・武蔵野市吉祥寺本町1-1-8

最寄駅 JR中央線吉祥寺駅北口歩約1~2分。

 

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家康級か「大物どら焼き」

 

「静岡にどら焼きのすごい店があること、知ってますか?」

 

あんこ好き仲間との雑談中に、こんな言葉が私に投げかけられた。

 

「へえー、知らない」

 

そう答えたものの、なぜか後頭部に突き刺さったまま、数か月たった。

 

たまたまテレビを見ていたら、その静岡のどら焼き屋が出ていた。

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あれっ? 一瞬にして記憶がよみがえった。

 

3年ほど前の「あんこ旅」で、ここを偶然訪ねていたことを。

 

名古屋かどこか、だとばかり思っていたが、静岡だった。記憶の掛け違い。

 

それがこの「河内屋」のどら焼き(1個税込み120円)。

 

あわてて撮った写真と当時のメモ帳を見直した。

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東京の名店「うさぎや」や「清寿軒」、さらには京都の「松壽軒」のような、ある種の格式ある店構えではなく、ごく庶民的な、祭りの屋台の延長線上のような、あまりに開放的な店構え。

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明治、大正期のどら焼き屋は多分こんな感じではなかったかな。

 

そんな思いがよぎったことも思い出した。

 

浅間神社門前町徳川家康の居城だった駿府城も近い。

 

そこでガタイのいい店主が、銅板の上から鮮やかな手つきでどら焼きを焼いていた。横には品のいい奥さんの姿。

 

いい匂いとどこか懐かしいビジュアル。

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夕方で店を閉める寸前だったので、2個だけ買って、店先で食べた。

 

一個がかなりデカい。「日本橋うさぎや」と同じくらいか、少し大きいくらい。

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当時のメモ帳には「うめえ、うさぎやに負けてない」と書きなぐっていた。

 

「特に皮のうまさ。つぶしあんも甘めで、ボリュームと風味がすごい」とも。

 

小豆は北海道十勝産を使用し、砂糖は確か上白糖だった。

 

隠し味に店主の言葉として「ピーナッツクリームをほんの少し入れている」とも書かれていた。ピーナッツクリームだって? 

 

ざっくばらんな飾りのない店主で、いいおっさん職人だった。

 

親父さんに変身したドラえもん

 

それがテレビでその時と変わらない応対をしていた。一個の値段も変わっていない。

 

なので、今回、改めて書くことにした。

 

創業は1988年(昭和63年)。今年でどら焼き一筋31年になる。

 

毎日、店を閉めてからあんこ作り。

 

こってりした濃厚なつぶしあんで、もちっとした皮と見事にコラボしている。

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とにかく美味いなあ、という言葉が素直に出てくるような味わい。

 

120円というのもコスパ的には申し分がない。

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あんこへのこだわりはその創意工夫ぶりからもわかる。

 

今ではピーナッツクリームは加えていないようだ。豆本来の素朴な美味さをストレートに引き出すことに落ち着いたようだ。

 

なので、今回は反省を込めて、「静岡に東京の三大どら焼きに負けない、すごいどら焼き屋がある」と3倍太ゴシックで書き留めることにした。

 

所在地 静岡市葵区馬場町12-1中央ビル15

最寄駅 JR静岡駅からバスで中町バス停下車

 

 

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秩父の黒ダイヤ「水ようかん」

 

この水ようかんは地味系の奇跡かもしれないぞ。

 

冬の黒糖入りの水ようかん。

 

と書くと、へえ~よくありそうな黒糖入りね。

 

そんな感想がさらりと表面を通り過ぎていくだけかもしれない。

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だが、口に入れた瞬間、その舌触りに「ほう」となる。

 

なめらかな中に、どこかざらっとした素朴な食感。

 

こしあんと寒天の配合が絶妙で、塩気が強め。

 

黒糖のミネラルの風味が後から押し寄せてくる。

 

秩父の水ようかん一筋「松林堂(しょうりんどう)」の逸品である。

 

黒ダイヤを思わせる美しさ。

 

関東の水ようかんと言えば日光があまりに有名だが、秩父にもかような店があること。

 

私にとっては一つの発見でもあった。

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5本入り(1本 税込み97円)を買い、古い一軒家の店内を見渡す。客はたまたまなのか、一人しか見当たらない。

 

奥が広い板場になっていて、薄暗い。隅々まで清潔感。清流の匂いと水羊羹職人の歴史が染みついているよう。これはちょっと感動もの。

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たまたま痩せ気味の4代目がいて、少しだけ話を聞くことができた。

 

創業は明治中頃で、この黒糖ようかんは初代・松五郎が作ったものだそう。

 

それをそのまま今も引き継いでいる。一子相伝

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毎朝午前3時に起きて、4代目が一人であんこ作りから始める。

 

小豆は北海道産えりも小豆とそのときどきのいい小豆を仕入れて使用しているそう。

 

「黒糖だけだとクセが強くなるので、上白糖も加えてます」

 

冬はつらいが、水ようかんは美味い。

 

福井の水ようかんも夏ではなく、冬に食べる。

 

冬は実は水ようかんの美味い季節でもある。

 

水ようかん=夏の楽しみ、というのは少し間違っていると思う。

 

「生ものなので冷蔵庫に入れて、お早めに食べてください」

 

黒光りした水ようかんを温かい自宅で食べる。

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日光の水ようかんよりも少し短め。

 

茶褐色の蜜が滴るよう。

 

添加物の気配はない。

 

熱い煎茶で冷たい黒糖ようかんを味わう。

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4代目の冬の午前3時からの作業を思うと、少しだけ申し訳ない気持ちにもなる。

 

だが、それ以上にかような黒糖ようかんと出会えたこと。

 

それを素直に喜びたい。

 

所在地 埼玉・秩父市本町6-1

最寄駅 西武秩父駅から歩約15分、御花畑駅から4~5分

 

 

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