どうも「限定」という言葉に弱い。
私にとってはある種パラダイスの、日本橋高島屋本館地下一階を鼻をクンクンさせながら散策しているときのこと(まるであんこ犬だよ)。
久しぶりに「叶匠寿庵(かのうしょうじゅあん)」で、ここの目玉「あも」でも買おうかと覗いてみた。
すると、「高島屋日本橋店限定」の文字とたっぷりのあんこが目に飛び込んできた。「実演販売」の文字も。
木目の折箱にびっしりと詰まったつぶあん! 濃い小倉色。見事なテカリ。
わっ、あんこの折り詰めか?
あんこ好きにとってはこれはほとんど極楽の小宇宙。
それが「このはな餅」だった。
びっしりのつぶあんの下に紅白の羽二重餅が控えていて、それは表面からは見えない。
6個入りと10個入りの2種類。6個入り(税込み 756円)を買い求めて、大急ぎで自宅に持ち帰った。賞味期限が本日中なので、早めに食べなければならない。
このつぶあんが濃い。皮まで柔らかい。こってり感と濃厚な甘さ。
それらがガブリ寄ってくる。
小豆は多分北海道産。砂糖は上白糖か? 水あめも加えているかもしれない。塩の感触はない。
小豆のフォーシーム(ストレート)勝負。
あっという間に半分食べ進む。
正直に言うと、「あも」を初めて食べた時ほどの感動はない。「あも」は丹波大納言小豆を使い、砂糖はグラニュー糖を使っているようだが、こちらは少し違うのではないか。
「叶匠寿庵」は高島屋や三越など有名デパートにも出店し、そのおごそかな店名とともに老舗のイメージが強いが、創業は昭和33年(1958年)と思ったほど古くはない。
滋賀・大津市で産声を上げ、初代は大津市の職員というキャリアのようだ。いわばあんこの素人が起こした和菓子屋で、2代目がさらに暖簾を広げていく。
目玉は数種類のあんこで、手づくりと素材にこだわった技術が素晴らしい。
和菓子界では大手にまで成長している。
アイデア力もある。
「このはな餅」の名も「枕草子」の梅の一文「木花はこきもうすきも紅梅」からとったとか。
あんこもうまいが、商売もうまい。
町の和菓子屋とは別のベクトル。
「日本橋高島屋限定」の文字が効いている。
残りの半分はアリシア・キーズを聴きながら夕食後に食べることにしよう。