この小さな店と出会った時のうれしさは言葉を超える。
「中山甘納豆」
セピア色の看板と店構え。昭和がそのまま。かつての賑わいはない。
東海道五十三次の一つ、旧「吉原宿」でのこと。
「富士市吉原商店街に今どき珍しい甘納豆を手づりしている店がある」
映画関係者からたまたまそんな情報を聞きつけて、足を延ばしてみた。
名作「人生フルーツ」のような世界。
初老のご夫婦が二人。
コツコツコツコツ。朝早くから夜遅くまで、甘納豆を作り続けて半世紀を超える。
基本は5種類。小豆、白いんげん、青円豆(うぐいす)、そら豆(お多福)、金時。
それらが年季の入った木枠のケースに収まって、お客を待ち続けている。
ちょっと感動もの。
あんこの世界にもこういう世界があるんだなあ。
甘納豆の歴史は諸説あるが江戸末期あたり。ぜんざいを煮すぎて、偶然、出来上がったという説が有力。なので、歴史自体は思ったほど古くはない。
店主は二代目で、初代が戦後、自転車屋から和菓子屋に転身、その時から甘納豆づくりを始めたとのこと。
70年ほどの歴史だそう。
100グラム(税込み205円)ずつ小分けにしてもらって、自宅で賞味してみた。
最も気に入ったのは「小豆(あずき)」。
北海道産大納言小豆のような、見事な蜜煮の甘納豆で、濃い色といい、吹き出た砂糖の咲き方といい、二代目甘納豆職人の息遣いまで聞こえてくる。
「私は一晩、ぬるま湯に漬けてから煮込みます。砂糖は上白糖を使ってます」
しっとり感とふっくら感がひと味は違う。小豆のいい風味も殺さない。
甘納豆づくりは、煮上げてから乾燥させるまで手間ヒマがかかる。
「だから、あまり儲からない。仕事が大変だし、肉体労働だよ。膝もやられちゃったし、ね(笑)」
二代目の言葉を思い起こしながら、極上の味わいをかみしめる。
気に入ったのは、個人的にだが、小豆、白いんげん、うぐいす、金時、そら豆の順。
すべてがいい味わいだが、好みを言うと、この順番になった。
素材の豆はうぐいす(えんどう豆=カナダ産)以外は国産。
小豆の値上げにも頭を痛めている。
「私の代でお終いでしょうね」
ここでもこの言葉に出会ってしまった。
いい仕事をすると儲けも出ない。昔気質の職人のジレンマ。
お客の中には俳優の三国連太郎さんもいたそう。
次の元号は「令和」と決まったが、その「和」の中にあんこ職人がちゃんと入っているかどうか、来月の儀式などよりはるかに気になる。
所在地 静岡・富士市吉原2-1-17
最寄駅 東海道本線吉原駅から岳南線に乗り換え、吉原本町駅下車