「静岡にどら焼きのすごい店があること、知ってますか?」
あんこ好き仲間との雑談中に、こんな言葉が私に投げかけられた。
「へえー、知らない」
そう答えたものの、なぜか後頭部に突き刺さったまま、数か月たった。
たまたまテレビを見ていたら、その静岡のどら焼き屋が出ていた。
あれっ? 一瞬にして記憶がよみがえった。
3年ほど前の「あんこ旅」で、ここを偶然訪ねていたことを。
名古屋かどこか、だとばかり思っていたが、静岡だった。記憶の掛け違い。
それがこの「河内屋」のどら焼き(1個税込み120円)。
あわてて撮った写真と当時のメモ帳を見直した。
東京の名店「うさぎや」や「清寿軒」、さらには京都の「松壽軒」のような、ある種の格式ある店構えではなく、ごく庶民的な、祭りの屋台の延長線上のような、あまりに開放的な店構え。
明治、大正期のどら焼き屋は多分こんな感じではなかったかな。
そんな思いがよぎったことも思い出した。
そこでガタイのいい店主が、銅板の上から鮮やかな手つきでどら焼きを焼いていた。横には品のいい奥さんの姿。
いい匂いとどこか懐かしいビジュアル。
夕方で店を閉める寸前だったので、2個だけ買って、店先で食べた。
一個がかなりデカい。「日本橋うさぎや」と同じくらいか、少し大きいくらい。
当時のメモ帳には「うめえ、うさぎやに負けてない」と書きなぐっていた。
「特に皮のうまさ。つぶしあんも甘めで、ボリュームと風味がすごい」とも。
小豆は北海道十勝産を使用し、砂糖は確か上白糖だった。
隠し味に店主の言葉として「ピーナッツクリームをほんの少し入れている」とも書かれていた。ピーナッツクリームだって?
ざっくばらんな飾りのない店主で、いいおっさん職人だった。
親父さんに変身したドラえもん?
それがテレビでその時と変わらない応対をしていた。一個の値段も変わっていない。
なので、今回、改めて書くことにした。
創業は1988年(昭和63年)。今年でどら焼き一筋31年になる。
毎日、店を閉めてからあんこ作り。
こってりした濃厚なつぶしあんで、もちっとした皮と見事にコラボしている。
とにかく美味いなあ、という言葉が素直に出てくるような味わい。
120円というのもコスパ的には申し分がない。
あんこへのこだわりはその創意工夫ぶりからもわかる。
今ではピーナッツクリームは加えていないようだ。小豆本来の素朴な美味さをストレートに引き出すことに落ち着いたようだ。
なので、今回は反省を込めて、「静岡に東京の三大どら焼きに負けない、すごいどら焼き屋がある」と3倍太ゴシックで書き留めることにした。
最寄駅 JR静岡駅からバスで中町バス停下車