週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

足利の驚き、五代目の豆大福

 

あんこ旅には思わぬ発見がある。

 

それがローカルであればあるほど喜びも倍増する。

 

今回は関東の古都・足利で見つけた絶品豆大福を書きたい。

 

百の言葉より、とにかく見ていただきたい。

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メーンスポット、足利学校や国宝・鑁阿寺(ばんなじ)から歩いて5分ほどの場所にひっそりと暖簾を下げる、「上州屋餅店」(じょうしゅうやもちてん)。平日なので人通りは少ない。たまたま午後3時過ぎに、軽い気持ちで入ってみた。

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豆大福やだんご、粟餅などの文字が見えたが、ほとんどきれいになくなっていた(大福だけが少し残っていた)。

 

申し訳なさそうに「午前中ならあるんですけど、今日は売り切れてしまって」と五代目の奥さん。板場の奥で五代目店主が仕込みをしている姿が見えた。いい職人の気配。杵の餅つき機も見えた。

 

これはシンプルな地味系だが、ひょっとして凄い店ではないか?

 

後日、出直すことにした。約1週間後、午前10時に再び暖簾をくぐった。

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豆大福(税込み 140円)、大福(同130円)、それにあんこ玉(同130円)を買い求め、固くなる前に試食することにした。無添加なので、早めに食べるに限る。

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豆大福の大きさは原宿「瑞穂」や青山「まめ」より少し小ぶりだが、標準的な大きさ。

 

たっぷりの餅粉、驚くべきは黒々とした大粒の赤えんどう豆の多さ。

 

東京三大豆大福と比べても、勝るとも劣らない、本物の存在感が内側から淡い光を放っているようだった。ていねいな仕事ぶりが透けて見える。

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あんこの神様が宿っているかもしれないぞ。

 

餅屋の餅の凄み宮城県産みやこがねを使用、それを毎朝搗いている。柔らかく、しかもしっかりとした歯ごたえがある。赤えんどう豆は北海道産、少し塩気があり、やや固めなのが好み。きりっとしていてお見事な炊き方だと思う。

 

中のつぶあんは甘さを抑えていて、ふくよかなしっとり感はとても上質。それがたっぷりと微笑んでいるようにさえ見える。

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すぐに小豆のいい風味が口の中で立ってきた。塩気はほとんどない。つぶあんこしあんの違いはあるが、京都の出町ふたばの豆餅を思い出した。足利でかような出会いがあったことに少し驚きながら。

 

大福は中がこしあんで、こちらも控えめな甘さで上質。

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地元では知られた名店だが、全国的にはおそらく無名に近いと思う。

 

創業が明治40年(1907年)。5代目によると、初代は新潟から出てきて、酒屋を営んでいた。「上州屋」という屋号はその時代の客筋が上州に多かったことから来ているようだ。2代目のときに餅屋に転身。それが現在もしっかり続いている。

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驚きは素材の小豆。北海道産を使う和菓子屋さんが多いが、地場の大納言小豆(栃木産)を使用している。砂糖は白ザラメ。素材へのこだわりが半端ではない。

 

「ここの大納言小豆は丹波なんですよ。いい小豆なんです。でも、去年の台風で被害が大きかったので、これからは仕入れにくくなるかもしれません」(5代目)

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「あんこ玉」は2個つながりで、こちらも宝石のような美しさで、こしあんのきれいな余韻とともに、シンプルだが見事な職人ワザだと言いたくなる。

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すべてがコスパ的にもスーパーだと思う。

 

こういう背筋のピンとした店が派手な宣伝もせずに、百年以上もシンプルな暖簾を下げている。お釈迦様もご存じあるめえ。つい、そんなジョークを言いたくなった。

 

所在地 栃木・足利市家福町2163

最寄駅 東武伊勢崎線足利駅から歩約10分

 

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