いちご大福のおいしい季節だが、「ン?」と目が点になる、ちょっと驚きのいちご大福と出会ってしまった。
「男はつらいよ」の舞台、柴又帝釈天参道でのこと。漬物と和菓子の老舗「い志ゐ(いしい)」の前で「フーテンどら焼き」(税込み1個200円)に好奇心がむくむく。
ある種の観光地のノリ、と軽く考えて、それを2個だけ買い求めてから、ふと視線を移すと、不思議系特大のいちご大福と目が合ってしまった。サイズは並と特大。
これはスゴ!
「野菜ソムリエのいちご大福」(特大 税込み460円)と手書き表記してあった。
数秒ほどニラメッコしてしまった。
「い志ゐ」は創業が文久2年(1862年)。元々は呉服屋で、店の常連客などにお茶と一緒に漬物や和菓子を出していて、それが評判を呼んだという。
3代目のときに漬物屋を始め、京都の「仙太郎」で修業した4代目が和菓子も始めたという面白い歴史を持っている。
呉服→漬物→和菓子。ダウィーンも驚きの進化ではないだろうか?
スキップしながら(死語かな?)自宅に持ち帰って、日持ちのしない「野菜ソムリエのいちご大福」を賞味することにした。
特大なので、店のお方が紙箱に入れてくれた。たとえ1個でもこの心遣いが柴又、だと思う。
重さを量ると130グラムもある。高さは6センチ、底も幅6センチ。普通のいちご大福より二回りはデカい。山型の見事ないちご大福で、外側の求肥餅には粉雪(餅粉)がうっすらとかかり、あんこといちごが透けて見える。
そのデカくて美しいお姿にひれ伏したくなった(バーカじゃないの?)。
いちご大福の横綱級だと思う。
いやいやそうじゃない・・・と首を横に振る。「男はつらいよ」のマドンナに例えるべきで、フルーツ大福界の松坂慶子が近いかもしれないぞ。
心の中であんこの神様に二礼二拍手一礼してから、包丁を入れる。
見事な白あんに包まれた、甘い果汁が滴るような、巨大いちごが現れた。
求肥餅の上質な柔らかさ。その下の白あんは北海道産手亡(てぼう=白いんげん豆)のこしあんで、5~7ミリほどの厚み。しっとりとふくよか。ほどよい甘さときれいな風味がわき役の立場を超えないぎりぎりの範囲でふわりと広がる。砂糖は和三盆か? かすかに塩気。
それだけでこのいちご大福の凄みがわかる。和菓子職人としての4代目の腕は確かだと思う。
巨大いちごは「時期によって違いますが、今の時期はスカイベリーです」(女性スタッフ)。栃木産のプレミアムいちご。あまおうを使うこともある。
コクのある果実味、滴るような甘さが噛んだ瞬間、絶妙な化学変化を起こすよう。そんな感じ。求肥餅と白あんとワンチームになって、1+1+1=5の世界を現出させる・・・(比喩がどうかな)?
オーバーではなく、これは新たなマドンナだと思う。
まんじゅう好きだったとも言われる寅さん=渥美清がこれを食べたら、きっと小さな目を思いっきり見開いて、「おい、さくら! これってホントにダ、ダイフクかい?」と言いそうな気がする。
白あんの他にこしあん版も食べたいなあ(残念ながら白あんのみ)。
「フーテン寅(どら)焼き」もただのウケ狙いかと思ったら、ふわりとした手焼きの皮と中の粒あんの質が高い。皮とあんこに生クリームとピーナッツオイルが入っているようで、4代目はチャレンジ精神豊かな、どうやら新しい温故知新を目指しているようだ。
柴又は観光地でもあるが、こうした腕のしっかりした職人による新しい試みは歓迎したい。ちなみに4代目は野菜ソムリエの資格も持っているそう。
買う前は460円は高いかな、と一瞬思ったが、食べ終えると、納得がいく。余韻の長さも付け加えたい。
甘いおまけ。上映中の「男はつらいよ50 お帰り寅さん」は、予想よりも素晴らしい出来で、見終わってからしばらく席を立ちたくなかった。よき部分の昭和の後ろ姿と寅さんの去り行く後姿が重なった。俗が聖になるって、こういうことを言うのかな、と思ったりして。えっ、男(あんた)はあまいよだって?