いちご大福はキュート、である。
かわいい、と置き換えてもいい。
その元祖は新宿・曙橋の和菓子屋「大角玉屋」と言われているが、他にも元祖を名乗る店があり、みずみずしい愛らしさとは裏腹に作り手の功名心が入り乱れている気がする。
彗星のごとく和菓子界にデビューしたのは昭和の終わり頃で、意外に歴史が浅い。同じ時期に次々と登場したようだ。
「でも、私にとっての一番は新川の『翠江堂(すいこうどう)本店』だわ。予約しないと買えないのよ。夕方までには売り切れてしまうからよ」
和菓子好きのバツイチ友人が夢見るように話した。
目に星が出ていた。本人には申し訳ないが、クスッと笑いたくなった。
それがこの「苺(いちご)大福」(1個税別200円)。
たまたま東京・八丁堀に用事があったので、電話で予約してから、受け取りに行った。
一体どれほどのものか、食べてみないことには始まらない。
午後4時だったが、すでに「売り切れ」。東京でも指折りの人気いちご大福であることはすぐにわかった。
大きさは小ぶりだが、手に持つとずしりと重い。
二つに切ると、中からかなり大きないちごが現れた。そのみずみずしさ。
きれいなこしあんがしっかりと周りを包んでいる。
口に運ぶと、餅のあまりの柔らかさに「ほう」となる。
こしあんは小豆の風味が上質で、やや甘め。
いちごは酸味が強く、それがこしあんとマッチングしている。
絶妙な組み合わせだと思う。
「このいちごはとちおとめですか?」
翌日、使われているいちごが気になって、失礼ながら電話で問い合わせると、「今は群馬の尾瀬はるかです。いちごはその時々で一番いいものを使ってます」とか。電話口に出たのは三代目女将さんらしい。
意外にこじんまりとした菓子司で、創業は昭和21年(1946年)。上菓子屋さんなので、小豆は大納言小豆かもしれない。おそらく北海道産。
それを聞こうとしたら、お客が次々にやって来るようで、申し訳なさそうに切られてしまった。
「いちご一会」と心得るべし。つい野暮な電話となってしまった。
所在地 東京・中央区新川2-17-13