改めて老舗和菓子屋の底力を感じさせられた。
岡埜栄泉総本家の「黒豆金つば」である。
これまでの金つばの常識から一歩踏み出し、それが見事に伝統の延長線上に位置している、と思う。
丹波産の黒豆を使い、北海道産大納言小豆と融合させている。切ってみると、輪郭がごろごろ詰まっていてちょっと驚かされる。
こしあんと寒天がベースにしっかりとある。
甘さをかなり抑えていて、黒豆、大納言小豆の風味をきちんと押し上げている。大胆と繊細。
かすかに黒糖の風味。小麦粉の半透明の皮の薄さ。
しかも両切りしていて、ビジュアル的にも悪くない。これまでありそうでいて、まったくなかった金つばだと思う。
コロンブスの卵の和菓子版ではないか?
もし千利休が生きていたら、茶席に使ったに違いない。
岡埜栄泉総本家本店は創業が明治6年(1873年)。日本のスポーツ界に大きな功績を残した日本サッカー協会第9代会長・岡野俊一郎氏はこの老舗の5代目でもあった。残念なことに昨年お亡くなりになっている。天国でロシアW杯の行方を見守っているに違いない。
「冷して食べると、さらにおいしいですよ」
久しぶりに本店を訪れたとき、たまたまそこにいた若い男性スタッフがそうアドバイスしてくれた。
まさか6代目? 帰宅して、冷蔵庫で冷やしてから賞味しているときに、そんな思いが頭をかすめた。
「4~5年前から新しい試みを始めているんです。『いろがみ』というブランドを立ち上げて、素材や作り方にこだわった商品に取り組んでいるんですよ。この黒豆金つばやバターどら焼きなどまったく新しい試みです」
立ち話程度だったが、印象がさわやかだった。店員さんだったらいい店員さんがいるなあ、という印象。
1個180円(税込み)。6個入り(同 1080円)を買い求めたが、2日後にはきれいになくなっていた。頭の黒いネズミが2匹(2人?)冷蔵庫の周りをウロチョロしていた気がする(笑)。
こういう「新しい古典」がさり気なく登場していることはあんこ好きとしてはうれしい。
あまりほめ過ぎるのはよくないが、和菓子界が苦しんでいる中、過去⇒現在⇒未来へと一本の光りの線が見えた気がする。こういう経験はあまりない。
あるいは甘さが物足りない、と感じる人もいるかもしれない。行蔵(こうぞう)は我に存す、ではないが、145年の歴史が後押ししてくれるはず。
後味のよさも付け加えておきたい。
老舗の底力と新しい挑戦を見守りたい。
所在地 東京・台東区上野6-14-7