編集長「猛暑とコロナをしばし忘れたい。とっておきの和菓子をご紹介したい」
あん子「香取神宮参道の老舗和菓子屋さんでしょ?」
編集長「バレてた? 下総国の一宮というだけで、古代史好きの人ならかしわ手だよ。創建が神武天皇の時代で、とにかく杜に一歩足を入れると、神気のひたひた感が凄いんだ」
あん子「能書きはいいわ。先行きましょ」
編集長「その参道に老舗和菓子屋『岩立本店(いわだてほんてん)』がある。超が付くパワースポットの和菓子屋というだけで惹かれるけど、その香取神宮のご神水(地下水)を使ったわらび餅がかなりの味わい。お世辞ぬきに美味だったよ」
あん子「観光スポットでもあるから、話半分として、編集長のレポートを聞いてあげるわよ(笑)」
編集長「まあ、待ちなさい。もう一品、この店で面白いきんつばを見つけたんだ。香取市の名産「紫いも」のあんこを使った紫いも金つば。草餅や味噌まんじゅうも食べたけど、個人的には紫いも金つばに軍配を上げたくなった」
あん子「ふーん、じゃあ今週のセンターはその二つ?」
編集長「苦しい選択になったけど、そういうこと。古代から続くご神水を使った和菓子なんて、そうはないぞ。心して聞くように」
【今週のセンター】
手練りわらび餅vs紫いも金つば
「御菓子処 岩立本店」の創業は明治28年(1895年)。横から見ると、建物の古さがわかる。香取神宮参道には草餅を出す店(料理屋兼任)が数店ある。いわば茶店でもある。こしあんで包んだ草餅(だんご)が美味い。
だが、昔から和菓子屋一筋というのはこの岩立本店だけ。なので、格式の高さを隠せない。間口の広い入り口は観光客にも受けるように、おばさんスタッフが数人、声がけしてもいる。
そこにグレーの作務衣スタイルの和菓子職人さんがいた。
たっぷりのきな粉に作り立ての手練りわらび餅を鮮やかな手つきで小分けにしていく。注文に応じて、箱詰めもしてくれる。
聞いてみたら「私で6代目です」。
見てるだけで楽しい。
「ご神水仕立て」のわらび餅。幾分グレーっぽいのは多分、わらび粉をふんだんに使っているからではないか。
きな粉との自然な色がコラボしている。
一番小さな箱(税込み 700円)を一箱買い求め、「できれば本日中に食べてください。美味さが違います」。
茶席用の和菓子も作っているそうで、いくつか餅菓子や生菓子も食べてみたくなった。
簡素な旧式のイートインもあったので、そこで草餅(つぶあん入り)、みそまんじゅう(白あん+味噌)、紫いも金つば、どらやきを食べることにした。
個人的に「これ美味いなあ」と感じたのが「紫いも金つば」(税込み 130円)。
外見が東京・日本橋の「榮太樓総本舗」の「名代金鍔(なだいきんつば)」によく似ている。ひょっとして、参考にしたのかもしれない。
あちらは小豆あんだが、こちらは紫いもあん。
手の匂いのするムラのある焼き色とのコラボが美しい。
黒ゴマが7~8粒ほど乗っている。その香ばしさもある。
皮と紫色のあんこがいい意味で想像を裏切った。
紫いもはこの地の名産だが、さつまいもという先入観があるので、期待半分だったが、しっとりとした滑らかなあんこで、食感はさつまいもという感じがしない。
むしろきれいなこしあんのよう。
ほどよい甘さと塩気。
6代目によると、紫いも自体は甘みが少ない。それが和菓子に向いているそう。
砂糖は上白糖を使用しているようだ。
夏場は氷で冷やしたら、美味さが増すのではないか。
その約5時間後。自宅に着いてから、ご神水仕立ての手練りわらび餅を食べてみた。
一箱の重さは290グラム。
冷蔵庫で1時間ほど冷やしてから、蓋を取ると、ややオレンジ色がかったきな粉(国産)がたっぷり、ほとんど隙間なく覆っていた。色が濃いので少し炙っていると思う。きな粉のいい香り。
ガラスの器に取って、食べると、わらび餅の柔らかさと香ばしいきな粉が押し寄せてきた。わっ。
わらび餅は形がしっかりあるのに、プニュプニュ感が凄い。
舌の上ですーっと蕩ける。
わらび粉のきれいな風味と手練りの伸びやかさがひと味違う感じ。
わらび餅には水あめが混ぜてある? ほどよい甘さが絶妙。
黒蜜をかけるのも好みだが、なくても全然美味い(むしろないほうがいいかも)。
ご神水がきれいな風味と長い余韻に一役買っているのではないか。
あん子「私は紫いも金つばは食べてないからわからないけど、このわらび餅は確かに美味い。色がグレーっぽいのは本わらび粉を使っているからかな」
編集長「オリンピックを見ながらこれを食べたら、気分も晴れるだろうね。冷たーくしてね(笑)」
あん子「開会式まで持たないのが残念ね。あんことかアイスクリームとも合うかもね。オリンピック期間中にまた行って買ってきてよ」
編集長「考えとくよ。コロナに感染してなかったらね」
御菓子処「岩立本店」
・所在地 千葉・香取市香取1896