豆大福の美味しい季節である。
表参道に行ったついでに、「原宿瑞穂」(はらじゅくみずほ)まで足を延ばすことにした。
このあたりから青山にかけては「まめ」や「青山紅谷」など、レベルの高い豆大福を作っている和菓子屋さんが多い(「菊家」は残念ながら作っていない)。
「原宿瑞穂」はほとんど豆大福一本勝負で、昭和56年(1981年)創業以来、原宿という場所で、この細い一本道を歩き続けているのがすごい。
ここまで豆大福に徹しているのは、東京三大豆大福(ほかに群林堂と松島屋)の中でもこの「瑞穂」だけ。きわめて珍しいお店だと思う(しばらく前から少しだけ最中も作っているが)。
よく考えてみたら、約10年ぶりの訪問だった。
売り切れが心配だったので、速足で午前中に到着した。
たまたまなのか行列はなく、女性客が二人だけだった。ラッキー、と考えることにした。(護国寺「群林堂」ほどの行列はない)
店構えは10年前と同じで、いい暖簾が下がっていた。
1個230円(税別)。作り立ての豆大福がずらりと並んでいた。
賞味期限がその日中なので、5個だけ買って、大急ぎで用事を終え、約6時間後、自宅で賞味となった。ずっしりと重量感。
重さを量る。117グラム。比較的大きい「群林堂」や「まめ」よりも重い。豆大福名店の中では多分最重量だと思う。(昔の「虎ノ門岡埜栄泉」はもっと大きかったが、今現在はフツーの大きさになっている)。
重さだけではなく、味わいも10年前の印象と変わらない。これがうれしかった。
餅、赤えんどう豆、こしあん。この三拍子が見事にそろっている。絶妙なトライアングルで、これぞ「東の横綱級」と舌鼓を打ちたくなった。
あん友の和菓子教室の先生が「瑞穂の豆大福が私の中ではナンバーワン!」と言っていたが、なるほどと納得したくなる美味さ。
買ってから6時間経過していたので、餅はほんの少し固くなっていたが、蒸かしたもち米を臼と杵(うすときね)でついているのがわかる、しっかりした伸びやかさ。
赤えんどう豆が素晴らしい。大きめでほっこり。しかも形が崩れていない。塩気も絶妙。それが1個当たり12~13個くらい。
主役のこしあんは口に入れたとたん、なめらかな、いい小豆の風味が立ってくる。ほどよい甘さ。それがどんどん広がってくる。冬から春への予感・・・舌の上でそんな感覚。
ピュアなこしあんの中にこの店の特徴でもあるまろやかな塩気が全体を引き締めている。
とにかく「うめえー」、としか言いようがない。
小豆は北海道産、砂糖は多分上白糖だと思う。それに塩だけ。むろんこしあんも自家製。豆大福にはこしあんが一番合うという信念も筋金入り。
そう多くはない「豆大福一筋の職人」が確かにここにいる。
たまたま店主のルーツを知って、少し驚いた。「虎ノ門岡埜栄泉」で修業したのちに、この原宿で店を開いている。以来38年間、毎朝5時起きで、暖簾も広げずに豆大福を作り続けている。すごいこと。
昔の「虎ノ門岡埜栄泉」の巨大な豆大福にぞっこんだった私にとっては、瑞穂の豆大福が一番近い味わいということになる。
今は無き、あの巨大な絶品豆大福の面影・・・約10年ぶりのちょっぴり塩気のある甘い再会。やっぱりあんこの神様の赤い糸がつながっている。
所在地 東京・渋谷区神宮前6-8-7