この水ようかんを何と表現したらいいんだろう?
見事な小倉色の宇宙に、小豆の粒つぶが星雲状に浮かび上がっている。
一辺が15センチほど。大きな舟型に流し込まれてから冷水で固められた、ほぼ真四角の水ようかんが、細長く五つに切り分けられている。
買い求めたのは5本入り(税込み874円)。
それが会津若松市東山温泉の奥にある「松本家」の水ようかんである。
創業が江戸時代・文政2年(1819年)というから驚く。
主に湯治客相手に細々と出していたところ、「美味い」と評判を呼び、本格的に水ようかんを作り始めたという。当時は「田舎ようかん」という名前で売っていたようだ。
文政年間と言えば、江戸では深川佐賀町の「船橋屋織江(ふなばしやおりえ)」が煉り羊羹(ようかん)を売り出し、異常人気を博した時期である。砂糖も一般に流通し始めている。江戸はようかんブームだった。
その時代に東山温泉で水ようかん。それがその当時とほとんど同じ製法で、作られているとは、いささか信じがたい話ではある。
初代は江戸で修業したのか? あるいは湯治客の中に羊羹職人がいて、作り方を教えてもらったのか? そのあたりは不明である。
一本が長いので、菓子楊枝(かしようじ)で、半分に切り、それを賞味する。
こしあんのいい風味と粒つぶ感が口中で、清流になるような感覚・・・ホントです。
甘さは控えめで、塩がじわりと効いている。
確かに絶妙な美味さ。独特の瑞々しい食感。
信州産寒天の配合が秘伝なのだろう、素朴な極致というしかない。
口の中で、舌の上で、冷たく溶けていく。
北海道産十勝小豆、砂糖、寒天、食塩しか使用していない。
そのため冷蔵しないと、一日しかもたない(冷蔵すると3日間持つそう)。
会津若松に住む古老がシャガレ声で、こうのたまった。
「昔から同じ美味さだべ。生ものなんで、数もそう多くは作れねえ。んだけんどな、四代目のものが一番うまがった。うん、あれが一番うまがったなあ」
それが本当なら、タイムマシンでぜひ行って、賞味したいところだが。
東京や京都の名店とはまた違った、極北の水ようかん。
六代目が暖簾を継いで、東山温泉の奥で、時代に流されずに生きている。
所在地 会津若松市東山町湯本123
最寄駅 JR会津若松駅からバス