週刊あんこ

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「水羊羹評論家」絶賛の水ようかん

 

もうすぐ大好きな作家・向田邦子が台湾上空で亡くなって41年になる(8月22日)。

 

「水羊羹評論家」と自称するほど、水ようかん好きだった。

 

特に東京・南青山「菓匠 菊家」が御用達だった。

 

なので、今回はその水羊羹を食べることにした。猛暑の中のオマージュ。

向田邦子ファンなら有名な話だが、こだわり方が半端ではなかった。

 

エッセイ「眠る盃」のなかでこんなふうに書いている。

 

「まず水羊羹の命は切口と角」で、「宮本武蔵眠狂四郎が、スパッと水を切ったらこうもなろうかというような鋭い切口と、それこそ手の切れそうなとがった角がなくては、水ようかんと言えないのです」

表現のユニークさと鮮やかさに、今も参りました、と脱帽します。

 

という前置きで、今回、何とかゲットしてから賞味したのは次の2品です。

 

・水ようかん(ケース入り) 税込み1400円

・菊かげ最中(9個ケース入り) 同730円

 

【本日のセンター】

スパッと切れなかった絶妙な水ようかん

 

エッセイを読む限り、切口の鋭さなどから向田さんがよく買っていたのは単品の方で、買ったその日、それもなるたけ早くに食べなければいけない。

 

その理由と例え方が面白い。

 

水羊羹は江戸っ子のお金と同じで、宵越しをさせてはダメ(水気がにじみ出てしまったらいけない)

私がゲットしたのは単品ではなく、ケース入りの方。

「単品は本日中ですが、ケース入りは3日が賞味期限です」(2代目女将さん)

 

10センチ四方の透明なケース入りは人気なので早めに売り切れる。

 

「これで今日は最後なんですよ」

 

ぎりぎり最後の1ケース。幸運の女神の裾をつかんだ気分(午前11時半だった)。

 

賞味は翌日となった。

冷蔵庫で冷やしておいてから、冷たい麦茶でいただく。

 

目の前に置いた水ようかんは見事な小倉色で、向田邦子さんはうす墨色の美しさ」と表現している。

 

窓から差し込む淡い光をすっと吸い込んで閉じ込めているよう(ちょっとちょっとォ~)。

 

プラスティックのケースなので、包丁を入れる時にちょっと苦労した。

なので、宮本武蔵にも眠狂四郎にもほど遠い、下手な切り口になってしまった。

 

なまくら腕め、と自嘲したくなる。

とはいえ、よく冷えていて、菓子楊枝を入れてから、口に運ぶと、寒天以上に上質なこしあんの存在を感じた。

 

ただのなめらかさではない、小豆の粒子を感じるまったりとした、深みのある味わい。

 

甘さはかなり控えめで、どこか危うい儚さ(はかなさ)さえ感じる。

砂糖は上白糖を使用しているようだ(コクを重視?)

 

宵越しのお金というより、後朝の別れ、とも言いたくなる。

 

個人的な勝手な印象ではこしあん7:寒天3くらいかな(こしあん派には黄金比率か?)。

一般的な水ようかんよりも寒天を絶妙と表現したくなるほど抑えて使っている(?)のが素晴らしい。

 

「菓匠 菊家」の創業は昭和10年(1935年)。現在3代目。上生菓子屋さんでもある。今年になって、ビルに建て替えたが、こじんまりと清楚な雰囲気は残していて、京都の上生菓子に通じるさり気ないこだわりが隅々まで行き届いている。

すぐ近くに「青山紅谷」があるが、やはり細長いビルの最上階にこじんまりと暖簾を下げていて、渋好みにはたまらない小世界だと思う。

 

東京の小粋な和菓子屋さん。

 

食べるのが次第に惜しくなる。

 

この上質な水ようかん。手が勝手に動き始め、気が付くと、残りあとわずかになっていた。編集部のあん子に少しだけおすそ分け)。

 

ラストに向田邦子さんの小粋な文章を。

 

「水羊羹は気易くて人なつこいお菓子です。そのくせ、本当においしいのにはなかなかめぐり逢わないものです」

 

水羊羹評論家が生きていたら、今92歳。再びオマージュ。

 

思えば、ご本人のイメージも菊家の水羊羹に近い・・・かもしれない。

 

【サイドは小粒な最中】

水ようかんケースのすぐそばに置いてあったのが3センチほどの小粒な最中。その名も「菊かげ」。

これほどの小粒最中は初めて。小さいながら、どこか大物の予感

 

同じように透明なケースの入っていて、全部で9個!

注文を受けてからあんこ(こしあん)を詰めてくれる。

 

賞味期限はこちらも3日。

 

翌日、水ようかんの後に賞味。

一日経っていたので、皮のパリパリ感が少しなくなっていた(すぐに食べるべきだった)

だが、品のいい香ばしさとこしあんの美味さに「ほお~」が二度三度ポロッと自然に出てきた(ホントです)。

 

甘さがかなり抑えられていて、小豆のきれいな風味が口の中でふわふわと広がるのがわかった。3代目の腕が並ではないと思う。

こしあんにはほんの少し寒天も使っているようだが、ここまで研ぎ澄まされたこしあんにはなかなかめぐり逢わない(表現を真似てみました、失礼)。

 

〈おまけ〉編集部・あん子の感想

「水ようかんは確かにとってもおいしい。でも、私はこの小さな最中の方に1票かな。次回は上生菓子もお願いします」

 

「菓匠 菊家」

所在地 東京・港区南青山5-13-2菊家ビル9F

最寄り駅 東京メトロ表参道駅から歩約3分