週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

城下町で絶品「つぶあん草餅」

 

あんこの神様はどこにいる?

 

暗闇の奥から、城下町と寺町の文字がピカピカ。

 

私見だが、いい和菓子屋が存在する二つのキーワードだと思う。

 

大きな神社のある街、もその中に入る。

 

今日ご紹介するのはその城下町のひとつ、山形・米沢で出会った「草餅(あん入り)」(税込み 120円)。

 

上杉神社に近い「丸十餅店(まるじゅうもちてん)」の逸品。

 

それがこれ。

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頂上にきな粉がかかった珍しいあん入り草餅で、これが心がほっこりする絶妙な美味さだった。

 

米沢は独眼竜・伊達政宗や戦国の雄・上杉景勝が支配者だった町で、江戸時代は上杉家の城下町として知られる。

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餅屋の餅はひと味違う。

 

伸びやかさときめの細かさ。

 

自然なよもぎ色が実に美しい。アートだと思う。

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自家製のつぶあんも丁寧な作りで、皮の存在を忘れるほど柔らかい。それがたっぷり詰まっていて、文句のつけようがない。

 

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実直そうな店主(5代目)と少しだけ話した。

 

創業は「江戸末期と聞いてます」。北海道産小豆を毎日、銅釜で炊く。砂糖は白ザラメ。仕上げに塩も少し使い、ふくよかに仕上げている。

 

店主の人柄が伝わるような、甘さをほどよく抑えた、上質なあんこ。

 

この店と出会えたことがうれしい。

 

首都圏にいると、地方のいぶし銀が見えない。

 

地方の疲弊も気になる。だが、こういう店と出会うと希望を捨ててはいけないと思う。

 

驚いたことに、「あわまんじゅう」(同120円)もあり、これが会津柳津のものとは微妙に違っていた。

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形が平ら(柳津は丸い)で、粟(あわ)のつぶつぶ感がちょっぴり硬め。中のこしあんもきれいな余韻を残す自家製で、こちらも職人の香りがする上質な味わいだった。

 

会津と米沢は戦国時代からつながりがあり、その流れの中であわまんじゅうもこの地で独自に花開いたと思う。何やらゆかしすみれ草。

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米沢独自の「方才餅(ほうさいもち)」(同120円)も食べたが、醤油味の甘辛ゆべしで、黒豆が練り込まれていた。あんこバカとしてはあんこが入っていないのが少々残念だったが、これはこれで面白い餅菓子だった。

 

地方にはいい和菓子屋がまだまだある。それを探す楽しみ。

 

だから、あんこ行脚は止められない。

 

所在地 山形・米沢市松が岬2-1-77

最寄駅 JR米坂線西米沢駅から歩約10分

 

 

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京都栗蒸し羊羹の底力

 

栗蒸し羊羹の季節は秋から冬にかけて。

 

この時期は季節外れでもある。

 

和菓子の楽しみは四季を感じることにもあるが、栗蒸し羊羹を無性に食べたくなる時がある。

 

わかっていても、頭の中は秋! ということもある。

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たまたま京都の畏友・あんじいが、東下りのとき、手土産に持ってきてくれたのが京菓子司「平安殿(へいあんでん)」の「橋殿(はしどの)」(1棹 税込み1000円)だった。

 

まさかの栗蒸し羊羹。

 

いつものように何も説明せずにポンと手渡すだけ。これがくせ者で、それがとんでもない絶品ということも多い。

 

家に持ち帰ってから、二重の包装を解き、重厚な竹皮を取ると、見事な栗蒸し羊羹が現れた。

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小倉色のテカリの中に黄色い大栗がぼこぼこと透けて見える。

 

池に映った夜の月のようにも見える(変な表現かな)。

 

心がときめく。竹皮の香りの伴奏付き。

 

この季節に本物の栗蒸し羊羹に出会えるとは思ってもみなかった。

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よく見ると、蒸し羊羹の中に大納言小豆が練り込まれている。

 

おおこりゃあすげえ、と素の言葉が出かかる。

 

蒸し羊羹は甘みが抑えられていて、もっちり感と歯ごたえのすっきり感が同居している。

 

蜜煮した大栗は輪郭がしっかりしているのに、ほろほろと崩れ落ちそうな食感で、絶妙な合わせ技となっている。

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品のいい、きれいな余韻が舌の奥に残る。

 

和菓子職人の腕はさすが京都の老舗と言いたくなる。

 

だが、調べてみたら「平安殿」の創業は昭和26年(1951年)と思ったほど古くはない。京都では「最近の店やなあ」かもしれない。

 

珍しく「『橋殿』は通年でお売りしてます」(本店)。しかも基本的に本店でしか売られていない。

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蒸し羊羹の歴史は古く、鎌倉時代から室町時代にかけて京都周辺で誕生しているようだ。

 

ところが、栗入りの蒸し羊羹となると、諸説あるが、大正8年(1919年)、千葉・成田山「米分(よねぶん)」初代が作ったと言われている。

 

蜜煮した栗が入るまで数百年の年月がかかっていることになる。

 

その気の遠くなるような歴史を想いながら、しばしの間、京都のはんなりを楽しむ。京都のあんじいに足を向けては寝れない。

 

所在地 京都・東山区平安神宮道三条上ル堀池町

最寄駅 東西線東山駅から歩約5分

 

 

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あんみつ名店の「小倉あんみつ」

 

暑い日が続くと、小倉アイスと冷たいあんこが夢に出てくる。

 

小倉あんみつを食べたいなあ。

 

あずき氷もいいが、こちらは梅雨が明けてから、と決めている。

 

頭の中であの小倉あんみつがキラキラ回転し始める。

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こうなると、止めようがない。

 

上野の森に行った帰り、「あんみつ みはし本店」に足が勝手に動いていた。

 

昭和23年(1948年)創業の、あんみつの名店である。

 

いつも混雑と行列で、アリ1匹すら入る隙がない。

 

だが、夕方が狙い目で、すんなり入れることもある。

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ラッキーなことにそれが的中した。あんこの神様のおかげ?

 

この季節はあんみつより「小倉あんみつ」(税込み650円)に限る。

 

あんみつに小倉アイスがどっかと乗っている。

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ダブルのあんこ愛。

 

小倉アイスは湯島の老舗甘味処「みつばち」が元祖で、私にとっては「みつばち」は我が家みたいなもの。

 

だが、あんみつとの組み合わせとなると、みはし本店も捨てがたい。

 

小倉アイスの美味さが「みつばち」に劣らない。

 

目の前に置かれた「小倉あんみつ」は中央に小倉アイスとこしあん。そのボリュームにちょっと圧倒される。

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まるで器の中の東西横綱の土俵入りだよ。

 

まずはこしあん形が珍しい角型に切ってあり、水ようかんのように見える。

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スプーンですくってから、口に運ぶと、なめらかで、濃厚なあんこの風味がズズと来る。

 

甘さと塩気のバランスがいい。

 

オリジナルの黒蜜(沖縄産黒糖を使用)をかけると、こしあんの風味がさらに濃厚に、素朴に、粘膜にあまくささやきかけてくる。

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人形町「初音」や門前仲町「いり江」の洗練された、きれいなこしあんも大好きだが、こちらはむしろ野暮ったいこしあんだと思う。

 

北海道十勝産小豆と上白糖の練り具合もよく計算されている。

 

小倉アイスは小豆をわざと固めに茹で、ほどよく散りばめ、その歯触りを楽しませたい。そんな気配が漂っている。

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寒天、赤えんどう豆、求肥(ぎゅうひ)も手間暇かけているのがわかる味わい。

 

個人的にはサクランボがないのが少し残念かな。

 

だが、650円という舌代は老舗の甘味処の中ではコスパがいいと思う。

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黙っていれば、こしあんが出てくるが、つぶあんに変えてもらうこともできる。

 

人気店なので細かいところまで行き届かないこともあるようだ。

 

たとえば黒蜜。門前仲町「いり江」のように、注文の際に「白蜜と黒蜜、どちらになさいますか?」と選択させることもない。黒蜜オンリー。

 

店のポリシーなので、そこは微妙な問題だが、あんこ好きにとってはその選択も楽しみたい。

 

とはいえ、「みはし本店」の価値が下がることはない。

 

所在地 東京・台東区上野4-9-7

最寄駅 JR上野駅不忍口下車 歩約3分

 

 

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笹だんごと紅大福の出会い

 

 あんこを求めて三千里の旅で、新潟・長岡に立ち寄った。

 

花火で有名な街だが、あんこの名店も隠れている。

 

知る人ぞ知る「江口だんご」である。

 

だが、本店(宮本東方町)へ行く時間がない。バスも来ない。

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仕方なく、駅前通りをウロウロと散策していたら、あんこの神様がウインクしてきた・・・としか思えない(ホントだよ)。

 

「江口だんご」の古い屋号と看板。それが坂之上店(支店)だった。だんごの3文字が心に突き刺さった。ツイテル。

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越後笹だんごの名店の一つで、創業が明治35年(1902年)。

 

普通、笹だんごは5個単位で売られているが、ここは1個(税別160円)からでも買える。これはありがたい。

 

「本店から持ってきたばかりですよ。自家製で、蒸し立てです」と女性スタッフ。

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もう一品、赤い豆大福が目に入った。普通の豆大福よりも一回りデカい。東京で赤い豆大福に出会うことはまずない。祝い事ならいざ知らず、通常の商品として店頭に並んでいるのは珍しい。むろん、初めての出会い。

 

「紅大福」が正式な名称で、1個150円(税別)なり。中のあんこはこしあんで、豆は赤えんどう豆ではなく、青大豆とのこと。賞味期限を聞くと「本日中です」。

 

ひょっとして、今起きていることはあんこの神様の導きかもしれないぞ。

 

店先をお借りして、そこで食べることにした。

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笹だんごは新潟市内で食べたものより、一回りほど大きめ。笹の色が自然で、しかも4枚(3枚が多い)。笹の香りとよもぎの香りがリンクする。

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きれいに剥けるのも好感。歯に当たるよもぎ餅の柔らかな感触と風味。それがとてもいい。地場の餅米と米粉ブレンドよもぎは新芽を使用しているそう。

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中は見事なつぶしあんで、たっぷり詰まっていた。素朴で控えめな甘さ。砂糖は多分上白糖。塩加減がほどよい。私が食べた笹だんごの中でも上質の美味さ。

 

気になるもう一品、紅大福へ。杵つきの餅で、存在感がありながら、実に柔らかい。食紅で色を付けていると思う。

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練り込まれた青豆も大きめでふっくら、それが5~7個ほど。塩が効いている。

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中のこしあんはきれいに作られていて、しっとりと舌になじんでくる。十分なボリュームで、こちらも甘さは控えめ。いい小豆の風味がしばらく残る。あんこ職人の腕は確かだと思う。

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店先で思わぬ出会い。あんこの神様にお礼を言いたくなる。

 

お茶が出ればさらに文句なしだが、あんこの神様はそんなに甘くはない。

 

所在地 新潟・長岡市東坂之上町2-3-2

最寄駅 JR信越線(もしくは上越新幹線長岡駅から歩約5分

 

 

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浅草「あんぱん専門店」バトル編

 

あんぱん好きにとって、東京・浅草の「あんです 的場(まとば)」は外せない。

 

常時約20種類のあんぱんがずらりと並ぶ光景は

 

「ここは天国か?」

 

と思いたくなるほど。

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こしあん小倉あんから始まって、塩あん、メロンあん、ずんだあん、焼きいもあんまである。

 

季節の限定品も売りの一つ。

 

去年秋、私のつたないガイドで「あんこラボ」のあん友10人で浅草老舗和菓子巡りをしたとき、ここにも立ち寄った。主宰のエンドーさんが教えてくれた店。

 

老舗ではない、という理由で、私はうっかりスルーしてしまった。

 

その時の心残りが、今回の訪問となった。

 

胃袋が一つしかないので、全部は食べきれない(胃袋がせめて8個は欲しい)。

 

あんぱん版ノアの箱舟。とりあえず今回はこの方法しかない。

 

財布と相談、熟慮の末、4種類だけ選んだ。それがこれ。

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隠れ人気ナンバー1「塩あんぱん」、「あんバターフランス」、季節限定の「みそあんぱん」、それに「小倉あんコッペ」。

 

すべて税込170円なり。たまたまなのか、銀座木村家本店の元祖桜あんぱん(税込み170円)と同じ値段。全体的には木村家本店の方が高いが。

 

有機コーヒーを用意し、自宅に持ち帰って、試食となった。

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最も気に入ったのは「塩あんぱん」。パンの美味さがひときわ光り、何よりも中に詰まった塩あんが気に入った。

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抑えられた甘さと北海道産えりも小豆(つぶあん)の風味が素晴らしい。

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個人的なこのジャンルの頂上巣鴨「喜福堂」に近づく、小さな天国感。つい目を閉じたくなる。

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ベーカリー「あんです的場」がオープンしたのは1980年(昭和58年)。大正13年(1924年)創業の「的場製餡所」がアンテナショップとして始めた。

 

製餡所が営むあんぱん専門店というのは珍しい。

 

銀座木村家(明治7年創業)が元祖なら、ここはあんぱん界の革命児だと思う。

 

続いて「あんバターフランス」を賞味する。

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このあんバターフランス。フランスパン生地の美味さと、こしあん、それに包むときに入れるバター(マーガリン)の香ばしさと塩気が絶妙で、バターがあんこの中に隠れているのが面白い。なめらかなこしあん。「塩あんぱん」の次に気に入った。

 

「みそあんぱん」は京都の老舗「石野」の白みそをわざわざ使っている。あんこへのこだわりが見て取れる。白あんとのブレンド。5月いっぱいの限定品で、柏餅のみそあんを二次使用しているようだ。

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最後になったが、小倉あんコッペは郷愁をそそるもの。小ぶりのコッペだが、パンの柔らかな美味さと中にぎっしり詰まった小倉あんつぶあん)の相性がいい。甘さ控えめの柔らかなつぶつぶ感。

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個人的にはここにバターも加えてほしいが、この原点のスタイルは悪くない。

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小倉あんには塩の気配が感じられない。その分、あんこ自体の素朴な美味さがストレートに出ている。砂糖はたぶん上白糖。170円というのもコスパ的には好感。

 

浅草には江戸・明治から続くいい和菓子屋が多いが、そこに平成のあんぱんが加わった、と思う。

 

あんこの歴史の線と点。令和の先も見える。

 

アンパンマンの作者、やなせたかしさんもきっと天国で喜んでいるに違いない。

 

所在地 東京・台東区浅草3-3-2

最寄駅 東京メトロ東武線浅草駅下車 歩約10分

 

 

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山形の青い絶妙「ふうき豆」

 

山形は実は美味の宝庫でもある。

 

奥の細道」の旅の途中、松尾芭蕉も舌鼓を打ったに違いない。

 

この時期は街のあちらこちらにさくらんが出回り始めているが、和スイーツファンとして取り上げたいのが「富貴豆(ふうきまめ)」である。

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一般的に富貴豆というと、そら豆を甘く炊き上げた、つくだ煮屋で売ってる煮豆を想像するが、山形ではいささか違ってくる。

 

そら豆ではなく、青えんどう豆なのである。つまりはうぐいす豆。

 

しかも和菓子屋さんで売られている。

 

あんこ旅の途中、山形市内に足を運んで、情報収集を開始すると、5~6軒ある老舗の中で、「山田家」の名前が再三上がった。

 

「やっぱ山田家だべな。一日に作る量が限られてるので、早く行かねば売り切れるかもしれねぞ」

 

何人かが同じことを言った。

 

その富貴豆、山田家では「白露ふうき豆」がこれ。

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昭和6年(1931年)創業当時から、作り方を変えていないという。

 

大粒の青えんどう豆の皮を一つ一つ丁寧に剥き、大釜でじっくりと炊き上げる。

 

味付けは上白糖と塩のみ。

 

シンプルな分だけ、微妙な塩梅(調整)が必要になるという。

 

職人の腕が決め手になる。

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生菓子と同じ扱いで、「賞味期限は3日間なんです。なので早めにどうぞ」(女性スタッフ)。

 

一番小さい箱入り、280グラム600円(税込み)買い求め、ぎりぎり2日後に自宅に帰ってからすぐに賞味してみた。

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有機コーヒーを淹れ(コーヒーが合いそうなので)、きれいな紙箱をあけると、中からぎっしりと詰まった「白露ふうき豆」が現れた。

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自然な、あまりに自然なうぐいす色の世界。そのふっくら感が見て取れた。

 

確かに一粒一粒きれいに皮が剥かれていて、ほろほろと崩れ落ちそうな、甘い気配が漂っている。

 

木匙で口中へ。

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食感も見た目通りで、口の中でのほろほろ感が絶妙だと思う。

 

控えめな甘さと奥にほんのりと塩気。青えんどう豆のいい風味がふわふわと口中に広がり、しばらくの間、余韻となって残る。

 

妙な表現だが、帯を解いた美熟女と出会ったような。ま、夢の世界だが。

 

素朴と洗練の融合だと思う。

 

青えんどう豆は北海道美瑛町(びえいちょう)産を使用、ここは小豆(しゅまり小豆)の産地としても注目の地で、十勝とはひと味違う豆づくりを行っている。

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そのこだわりの青えんどう豆ゆえか、炊き上げる際に下手をすると煮崩れしてしまう。

 

ふっくら感と煮崩れのぎりぎりの闘い

 

店によると、「その炊き方の加減がとっても難しいんですよ」とか。

 

現在は3代目。あまりにシンプルゆえに、山田家の富貴豆は、その奥に潜んでいる職人の汗と技を見逃しかねない。

 

「毎日作る量が決まっているので、お昼前に売り切れてしまうこともあります」

 

店を訪ねた際に、売り子のスタッフが控えめに付け加えた。

 

所在地 山形市本町1-7-30

最寄駅 JR山形駅から歩約20~30分。バスだと本町下車すぐ

 

 

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谷中、隠れ名店の豆大福

 

このやや小ぶりな豆大福を最初に食べたとき、そのあまりの美味さに驚いた。

 

赤えんどう豆の凄みとふくよかなつぶあん、柔らかな餅が絶妙なハーモニーを作っていた。私にとってはちょっとした事件だった。

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5年ほど前のことである。

 

当時は護国寺群林堂や京都・出町ふたばが私の中では豆大福界の両横綱だったが、それに劣らない。すすけたような小さな店構えと店主のご高齢に驚きが好奇心へと広がっていった。

 

何なんだ、この店は?

 

東京の寺町、谷中の「荻野(おぎの)」である。

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観光客でごった返している谷中銀座から少し離れた、さんさき坂の途中にひっそりと紺地の暖簾を下げている。

 

地元のおばちゃんがたむろしていることもある。近くには禅寺「全生庵」もある。

 

「御菓子司 荻野」の小さな文字がこの、敷居の低い和菓子屋店主の矜持(きょうじ)を少しだけ感じさせる。

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その後何度か通い、ポツリポツリ店主と話すと、和菓子職人としてのキャリアは並みのものではないことがわかった。

 

創業は東京オリンピックの前年、昭和38年(1963年)あたり。55年ほどの歴史だが、首相官邸の御用和菓子職人を長年務めていたことがわかった。

 

「官邸には20年くらい通ってましたよ」

 

久しぶりに「豆大福」(税込み 1個150円)と柏餅(同 170円)を買い求める。つぶあんこしあん、みそあんの3種類。

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「添加物は使ってないので今日中に食べてくださいね」

 

自宅に持ち帰って、久しぶりのご対面。柏餅は初めて(5月いっぱいまで)。

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豆大福の美味さは1ミリも変わっていなかった。

 

何よりもゴロゴロ入った大粒の赤えんどう豆が秀逸で、くっきりとした輪郭と中のふくよかさが素晴らしい。塩気の絶妙。

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柔らかな羽二重餅、その中にぎっしりと詰まった甘さを抑えたつぶあん。そのしっとりとした風味。

 

三位一体の上質が口の中で5月のそよ風となる。表現が追いつかない。

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小豆は北海道十勝産、砂糖は上白糖を使用している。

 

ご高齢の店主との短い会話を思い出す。

 

「最近は毎日とはいかないけど、赤鍋でじっくり炊いてますよ」

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作る数が限られているので、売り切りごめんとなる。人気の焼きだんご(みたらし)と草だんごも早い時間になくなることも多い。

 

中曽根元首相や小泉元首相も首相時代からこの店の隠れファンで、全生庵で座禅を組む時などお忍びで買いに来たこともあるそう。

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柏餅も餅の柔らかさ、中のあんこの自然な風味がやさしい。つぶあんこしあん、みそあん3種類のあんこのレベルもプロフェショナルのもの。

 

それでも私にとってはやっぱり「豆大福」が一番である。

 

所在地 東京・台東区谷中5-2-5

最寄駅 東京メトロ千代田線千駄木駅歩約5分

 

 

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