週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

「羽二重団子」夢の跡

 

竹串を刺した東京の餡団子(あんだんご)と言えば、一に日暮里の「羽二重団子(はぶたえだんご)」、二に築地の「茂助だんご」があまりに有名。

 

どちらも1個1個こしあんで団子をしっかりと手包みしている。餡団子はこうでなくてはいけない。

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私の好みは羽二重団子で、平べったい団子が四つ(茂助だんごは三つ)。食べた瞬間の上品なこしあんと「羽二重のような」きめ細かい団子の食感がとてもいい。

 

甘さをかなり抑えていて、もう少し甘くしてもいいと思うほど。でもそれが羽二重団子なのである。

 

あんこをベタッと乗っけた多くの串だんごとは手間ひまのかけ方が違う。

 

そう思っていたが、先日久しぶりに日暮里の本店へ行った。

 

ちょうど改装中で、仕方なくJR日暮里駅前のカフェ「HABUTAE1819」で、「羽二重だんごセット」(お茶付き 540円=税込み)を賞味した。あんこと焼きが一本づつ。

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少々がっかり。昔より味が落ちたのではないか。それともこちらの舌が変わってしまったのか、あるいはたまたまなのか、団子の柔らかさが以前ほどではない。こしあんは見た目はそう変わらないが、全体的にどこか手の感触がしない。期待が大きすぎたのかもしれない。

 

創業が文政2年(1819年)。現在は七代目。あの甘党の夏目漱石正岡子規が愛した羽二重団子は、おそらく茶屋の延長線上の手づくり感にあふれた味わいだったと思う。

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時代に合わせて中身が変化するのは仕方がない。小豆も丹波産から十勝産に変わり、庄内産うるち米の搗き方もひょっとして変わっているかもしれない。

 

個人的にこれまで食べた餡団子の中で最高峰は、築地にあった「福市だんご」。10年ほど前に後継者がいないという理由で暖簾をたたんでしまった。一日200本しか作らないというあの手の温もりのした串だんごが頭の中にしっかりと残っている。

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それでも「羽二重団子」の客は多い。江戸も明治も、いや大正も昭和も遠くなりにけり、ということか。老舗の暖簾を守っていくのはむずかしい。

 

所在地 東京・荒川区東日暮里6-60-6

最寄駅 JR日暮里駅すぐ

 

 

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花園万頭「ぬれ甘なっと」

 

花園万頭の「ぬれ甘なっと」(ぬれ甘納豆)を初めて食べたのは昔々。

 

ただの甘納豆とは見た目も食感もまるで違った。

 

一粒一粒がテカテカと小倉色の光沢をたたえ、しっかり形を残したまま、驚くほど柔らかくふっくらと蜜煮してあり、噛んだ瞬間、オーバーではなく凝縮した小豆の風味が口の中で爆発するようだった。

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叔母が東京からわざわざ取り寄せ、それを得意げに子供たちに味見させては、ビックリする顔を眺めて喜んでいた。

 

「これは目の玉が飛び出るくらい高いんだよ」とひと言。今思うと、嫌味と紙一重。

 

以来、花園万頭の「ぬれ甘なっと」は私にとって、永遠のあんこスターとなった。にゃんこスターより、あんこスター。

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久しぶりで新宿3丁目の花園万頭本店2階のカフェ「あんと」で「アイスまめかん」(税別870円)を食べた。

 

赤えんどう豆ではなく、黒光りした「ぬれ甘なっと」が多めに乗っていた。これこれ。

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高レベルの寒天もジャージー牛のバニラアイスもアンズも、あんこスターの前ではフェードアウトしてしまう。小倉色のてかぴか。

 

昔ほどの感動はないが、相変わらず信じられないほど美味い。

 

北海道産大納言小豆を何度も糖蜜に漬けて、煮たてて、冷まして、また煮たてて。それを繰り返すという秘伝の技だそう。

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創業は明治39年(1906年)だが、元々は金沢に暖簾(のれん)を構える「石川屋本舗」で、ルーツは天保5年までさかのぼる。加賀前田家御用達の和菓子屋だった。三代目のときに東京に出て、現在の花園神社そばに店を構えた。

 

その三代目が戦後の苦境の中で、苦心の末に作り上げたのがこの「ぬれ甘なっと」。独創的なひらめきと味わい、だと思う。

 

なので、賞味するときは一緒に三代目の想いも噛みしめることにしている。

 

所在地 東京・新宿区新宿5-16-15

最寄駅 東京メトロ新宿三丁目駅

 

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奇跡の70円あんこ玉

 

世の中は誠に広い。いわんや、あんこの世界においてをや(気取りすぎだよ)。

 

世界を少しは知ったつもりだったが、井の中の蛙だった。

 

と思い知らさせてくれた和菓子屋が、関東最古の大社といわれれる鷲宮(わしのみや)神社門前にある「島田菓子舗」である。

 

ここの「あんこ玉」(税込み1個 70円)と「吹雪饅頭(ふぶきまんじゅう)」(同70円)が凄すぎ、と思う。

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まず安さ。続いて、「ま、田舎のチープな味だろうな」との先入観が口に入れてから2~3秒ほどでくつがえされる。甘い衝撃が走る。

 

あんこ玉は自家製の本格的なもので、浅草「舟和」のものより二回りはデカい。ピンポン玉大で、見事な小倉色のこしあんが透明な寒天で包まれている。

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さすがに葉っぱは本物とはいかずビニールだが、70円という安さと美味しさに食べ終えると納得がいく。店主の思いやいかに。

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北海道十勝産小豆を使用したこしあんは塩気が強めで、ほどよい湿り気。白ザラメのねっとりした甘さが、小豆の風味をしっかりと押し上げている。

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舌の上でスーッと溶けていく。きれいな余韻。まさかの場所で、小さな天国・・・そう言いたくなる。

 

「吹雪饅頭」はつぶしあんで、こちらはさらに一回り大きい。皮のもっちり感といい、つぶしあんの素朴な風味(こちらも塩気が強め)といい、あんこ好きにとっては一度食べるとハマる味わいだと思う。

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一概に比べたくはないが、老舗の有名和菓子屋の看板て何だろう? 値付けって何だろう? そんな素朴な疑問が浮かぶほどの優れた和菓子屋がここにある。

 

創業が昭和10年(1935年)。現在三代目が父の志しを受け継いで、日夜昔ながらの和菓子作りに励んでいる。上菓子や新しい和スイーツ作りにも取り組んでいる。

 

あんこ玉と吹雪饅頭は初代からの作り方を引き継いでいる。

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高齢の二代目女将さんは、笑いながら「いつまで続けられるか」と言うが、未来はどうなるか誰にも分からない。

 

こういう、志しのある小さな和菓子屋が関東の片隅で暖簾を守っていることを素直に喜びたい。

 

所在地 埼玉・久喜市鷲宮2-10-15

最寄駅 東武伊勢崎線鷲宮駅歩5分ほど

 

 

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根津のお宝「今川焼き」

 

たい焼きもいいけど、今川焼きと叫びたい。

 

「御座候」や「博多屋」(東京・町屋)を食べると、その安さとあんこの美味さに涙が三滴ほど出てしまう(大げさだよ)。

 

東京・根津と言えば「根津のたい焼き」があまりにも有名だが、もっと古くから暖簾を下げているのが「甘味処 芋甚(いもじん)」である。

 

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ここの「昭和焼き」今川焼き、なのである。隠れたお宝だと思う。

 

創業が大正3年(1914年)で、当初は焼き芋屋だった。関東大震災後にアイスクリーム屋になり、昭和になってから今川焼きも出し始めた。

 

今では小ぎれいな甘味処として、しっかりと暖簾を守っている。入り口で今も四代目店主が「昭和焼き」を一個一個ていねいに焼いている。

 

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中に入って、「小倉みつまめ」(税込み 480円)を食べる。自家製の小倉アイスがさっぱりとした日本のアイスクリームで、黒蜜がたっぷりとかかった寒天や赤えんどう豆、求肥、フルーツも質が高い。何よりも安いのが下町の心意気を感じる。

 

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あんこが少し物足りなかったので、「昭和焼き」(同120円)も追加した。一見小ぶりだが、厚みが2個分ほどある。珍しい二階建て。

 

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皮の表面が見事なきつね色で、表面のパリパリ感がすごい。中はもっちり。

 

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つぶしあんは塩気が効いた、ねっとりとした食感。ほどよい甘さ。北海道産小豆の風味も悪くない。むろん自家製。

 

心意気と暖簾の力を感じさせる職人気質の店主がここにもいる。

 

ブームのたい焼きより今川焼き、そうつぶやいてみる。

 

所在地 東京・文京区根津2-30-4

最寄駅 東京メトロ千代田線根津駅歩約5分

 

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川端道喜「葛湯・おしるこ」

 

京都の川端道喜(かわばたどうき)。和菓子好きなら、この店名を聞いたら、正座してしまいたくなる、はずである。

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なにせ創業が室町時代末期。一子相伝で今も粽(ちまき)を作り続けている。現在は十六代目。「御所」とのつながりは虎屋以上かもしれない。

 

暖簾を広げないという意味ではこちらの方が「京都」だと思う。

 

「ちまき」といってもここの粽は少々違う。もち米とかうるち米ではない。吉野葛(よしのくず)と上白糖だけを使い、驚くほどの手間ひまをかけて練り上げ、笹の葉に包んで蒸し上げる。作り方は室町時代とほとんど同じ、というから驚きはさらに深まる。

 

京都に行ったとき、うっかり予約してなかったので、買いそびれてしまった。

 

ところが、である。救う神あり。京都の畏友が、お土産に持って来てくれたのだ。

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粽は賞味期限の関係もあり、代わりに「葛湯・おしるこ詰合せ」(3個+2個 税込み1450円)だった。それでも凄い、と思う。

 

目当てはおしるこの方。器に熱湯を注ぎ、素早くしっかりとかき混ぜる。すると、こしあんのいい香りとくず粉の香りが立ち上がってくる。どろりと小倉色。小さな餅が3個浮いている。

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木匙ですくって口に運ぶと、思ったほどのこしあん感はない。品のいいきれいな甘さ。ディープなあんこを期待すると、やや物足りない。

 

とはいえ、川端道喜の「御粽司(おんちまきつかさ)」の片りんは感じ取れると思う。

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葛湯(くずゆ)の方が、より本来の粽に近いと思う。透明感と粘着力が凄い。きれいな甘さと余韻。天皇が京都から東京に遷都するまで、350年以上に渡って、雨の日も風の日も毎朝、「お朝」(天皇が食べた朝食。ぼた餅のようなもの)を届けた川端道喜。

 

かような御菓子司はおそらく他にはない。世界中どこを探しても。

 

所在地 京都市左京区下鴨南野々神町2-12

最寄駅 地下鉄烏丸線北山駅

 

 

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京都・松寿軒の「みかさ」

 

東京では「どら焼き」、京都・奈良では「三笠(みかさ)山」。関東圏と関西圏と言い換えてもいい。

 

これを食べるまで、個人的にはどら焼きの最高峰は「日本橋うさぎや」だと思っていた。

 

だが、正直、上には上がある、ということを思い知らされた。

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京都でも有数の上生菓子屋「松寿軒(しょうじゅけん)」の「松寿みかさ」(1個税込み 160円)のことである。

 

清水五条から松原通り。そこに「松寿軒」が小さく店を構えている。建仁寺高台寺の御用達の上菓子屋だが、敷居が高くない。街の和菓子屋と変わらないシンプルな店構え。

 

暖簾を広げない。広げようともしない

 

上生菓子が売り切れていたので、「松寿みかさ」を5個、買い求めた。

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日本橋うさぎやのどら焼きよりもひと回り以上小さい。「池袋すずめや」よりも小ぶり。

 

皮のふっくら感としっとり感にまず驚かされた。焼き色にもムラがない。

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それ以上に驚かされるのはあんこ。つややかな粒あんで、大納言小豆(北海道十勝産か)とこしあんを絶妙に混ぜ合わせている。その見事な小倉色。

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口に含んだ途端、やや甘めできれいな小豆の風味がさあーっと広がるのがわかる。ふっくらと炊かれていて、大納言小豆は形がしっかりあるのに、皮まで実に柔らかい。

 

レベルの違うあんこというものが、確かにある。正直、参った。

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「松寿軒」は創業が昭和7年(1932年)。京菓子の世界では老舗とは言えない。だが、二代目の田治康博さんのあんこ作りは驚くべきもの。

 

「朝から晩まであんこ作ってますのや。和菓子ごとに、使う小豆も炊き方も全部変えてます。その日の天候にも左右されますのや。毎日、あんこあんこ(笑)。ときどき自分が一体何しとるのか、わからなくなりますでぇ」

 

上生菓子をぜひ食べてほしい、というが、賞味期限が「本日中」なことと、予約が必要なことなど、手に入れるのは簡単ではない。

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その分「みかさ」は手に入れやすい。それも究極という言葉を使いたくなるレベル。

 

皮とあんこのあまりに絶妙な結婚。これはもはや奇跡に近い美味さだよ、と思ってしまった。

 

所在地 京都市東山区松原通大和大路西入ル弓矢町19-12

最寄駅 京阪線清水五条駅から歩約5分

 

 

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圧巻、京都の特大おはぎ

 

京都でおはぎ(春はぼた餅)というと、一に今西軒、二に仙太郎という名前が浮かぶが、ここにあんこ好きにはたまらない異端児がいる。

 

東本願寺前の七条通に暖簾を下げる「名代おはぎ 松屋である。

 

1個が今西軒のおはぎの3個分は優にあると思う。

 

そのおはぎがこれ。

 

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創業は昭和20年12月。終戦から約4か月という混乱期に産声を上げている。百年以上暖簾を下げ続けて、ようやく老舗の一年生くらいという京都では、まだまだ老舗とは呼べない餅菓子屋だ。京都流に言うと「お餅屋さん」。

 

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だが、この特大おはぎ。大きすぎて1個から箱に入れてくれる。お代は330円(税込み)。2個入りで660円(同)。包みと内側の銀紙がステキである。

 

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そのつぶしあんの圧倒的なボリュームと素朴な美味さがたまらない。

 

ゆるくふっくらと炊かれていて、かなり甘い。店主によると、北海道十勝産小豆を使用している。砂糖は多分上白糖。

 

小豆の風味が口中で爆発するよう。

 

つまりアク抜きをわざと少しだけ抑えていると思う。

 

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もち米にうるち米をブレンドしているような半づきのご飯玉は、ほんのり塩気があり、柔らかなモチモチ感がこの素朴なあんこによく合っている。

 

箸でまず2つに割り、それからさらに4つくらいに分けて食べる。

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何という幸せ感。あんこ好きにとっては天国にいるようだが、苦手な人には地獄かもしれない。

 

今西軒や仙太郎といった洗練された京おはぎとは別世界の田舎おはぎ。それが京都駅から近い場所に72年も暖簾を下げていることがうれしい。

 

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作りたてなので、その日中に食べなければならない。

 

京都の奥の深さを改めて思い知らされる、そんなおはぎである。

 

所在地 京都市下京区七条通烏丸西入東境町190

最寄駅 京都駅から歩5~6分

 

 

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