東京では「どら焼き」、京都・奈良では「三笠(みかさ)山」。関東圏と関西圏と言い換えてもいい。
これを食べるまで、個人的にはどら焼きの最高峰は「日本橋うさぎや」だと思っていた。
だが、正直、上には上がある、ということを思い知らされた。
京都でも有数の上生菓子屋「松寿軒(しょうじゅけん)」の「松寿みかさ」(1個税込み 160円)のことである。
清水五条から松原通り。そこに「松寿軒」が小さく店を構えている。建仁寺と高台寺の御用達の上菓子屋だが、敷居が高くない。街の和菓子屋と変わらないシンプルな店構え。
暖簾を広げない。広げようともしない。
上生菓子が売り切れていたので、「松寿みかさ」を5個、買い求めた。
日本橋うさぎやのどら焼きよりもひと回り以上小さい。「池袋すずめや」よりも小ぶり。
皮のふっくら感としっとり感にまず驚かされた。焼き色にもムラがない。
それ以上に驚かされるのはあんこ。つややかな粒あんで、大納言小豆(北海道十勝産か)とこしあんを絶妙に混ぜ合わせている。その見事な小倉色。
口に含んだ途端、やや甘めできれいな小豆の風味がさあーっと広がるのがわかる。ふっくらと炊かれていて、大納言小豆は形がしっかりあるのに、皮まで実に柔らかい。
レベルの違うあんこというものが、確かにある。正直、参った。
「松寿軒」は創業が昭和7年(1932年)。京菓子の世界では老舗とは言えない。だが、二代目の田治康博さんのあんこ作りは驚くべきもの。
「朝から晩まであんこ作ってますのや。和菓子ごとに、使う小豆も炊き方も全部変えてます。その日の天候にも左右されますのや。毎日、あんこあんこ(笑)。ときどき自分が一体何しとるのか、わからなくなりますでぇ」
上生菓子をぜひ食べてほしい、というが、賞味期限が「本日中」なことと、予約が必要なことなど、手に入れるのは簡単ではない。
その分「みかさ」は手に入れやすい。それも究極という言葉を使いたくなるレベル。
皮とあんこのあまりに絶妙な結婚。これはもはや奇跡に近い美味さだよ、と思ってしまった。