この特製きんつばを食べたとき、塩の絶妙さに驚いた。
何という塩加減だろう?
きんつばというより、「塩きんつば」と表記した方がいいのでは?
大納言小豆の風味と抑えられた甘さが、その塩加減によって、ステージの前面に押し出されてくるような感じ。塩の後ろ盾。
その後の余韻にホオーッとなってしまった。
ただの塩きんつばではなかった。頭のてっぺんに想定を超えるそよ風(快感)が付いてきた。
浅草「徳太楼」の洗練とも違う。榮太楼の素朴とも違う。
何と表現していいのか、「塩梅(あんばい)」という言葉がこれほどピッタリくるきんつばって、あまりないと思う。
国立劇場もほど近い場所に店を構える「江戸銘菓 一元屋」。創業は昭和30年(1955年)とそれほど古くはない。
飲み会で「徳太楼」のきんつばがいかに美味いかをバカみたいに熱く語ったとき、話が終わるのを待ち構えたように、近くの老舗出版社の辛口編集者が、ボソッと「美味いですよ」と教えてくれたきんつば、である。
しまった!
冷や汗がたら~り。語りすぎはいけない。話にも塩加減が大事と反省させられた。
一個152円(税込み)。箱詰めで一番小さい6個入り(906円)を買い求めた。
一個の大きさはタテ4.5センチ、ヨコ5.5センチ、厚さは1.9センチほどだった。厚みはあまりない。
小麦粉の皮は薄めで、しかも一個一個きれいに縁を取っている。
大納言小豆はたぶん北海道十勝産。柔らかく炊かれた大粒の食感もとてもいい。寒天の具合も絶妙。
徳太楼が江戸の粋の洗練なら、こちらは江戸の野暮の洗練、といった感じかな。
それにしてもこの後味のすっきり感は、散々べらんめえ言葉を発してから「あらよっ」と去っていく、江戸っ子の後ろ姿を思わせる。
氷砂糖を使用していることもその理由の一つかもしれないが、それだけではない。一個食べると、続けて二個食べたくなる。三個、四個と行きたくなる。
病み付きになるきんつば、というのも確かにある。
理由をあれこれ詮索してもしょうがない。これはやはり職人芸と思うしかない。
所在地 東京・千代田区麹町1-6-6