週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

京都おはぎの最高峰

 

今さらだが、京都の和スイーツには驚かされることが多い。

 

烏丸五条にある「今西軒」のおはぎもその一つ。

 

ある日のこと。東京の有名デパ地下で買った「仙太郎」のおはぎに感動したことを、京都に住む畏友に話したところ、「そりゃ、結構な話やなあ。でもなあ、京都は仙太郎ではなく、今西軒やで」と鼻先で笑われた。

 

京都に行ったとき、朝早く起きて、「今西軒」に足を運んだ。

f:id:yskanuma:20170305151427j:plain

 

一日に作る数が限られているので、お昼前には売り切れてしまうことが多い、という話を聞いていたからである。

 

創業が明治32年(1899年)。3代目の時に、後継者がいないことから、平成7年に、一時暖簾を畳んだこともある。

 

惜しむ声に後を押されるように、平成14年、3代目のお孫さん(現在の5代目)が後を継ぐことになり、店を再開した。

 

町家づくりの古い建物と「名物おはぎ」と書かれたシンプルな木の看板から歴史がにじみ出てくる。

f:id:yskanuma:20170305151624j:plain

 

おはぎは3種類のみ。こしあん、つぶあん、きなこ。それしか売っていない。それぞれ一個190円。

 

これが文句のつけようがないほど美味い。

 

きなこ、こしあん、つぶあんの順番で売り切れていく。

f:id:yskanuma:20170305151739j:plain

 

引き継がれた手づくりのあんこが洗練されている。

 

きなこもつぶあんも風味といい、ボリュウムといい、味わいといい、京都の餅菓子の頂点あたりに位置すると思う。

f:id:yskanuma:20170305151811j:plain

 

だが、もっとも唸りたくなったのは、こしあんである。

 

これだけピュアを感じさせるこしあんはそうはない、と思う。

 

つぶあんは濃い小倉色だが、こしあんは薄茶色。そのまばゆいばかりの分厚さ。

f:id:yskanuma:20170305151909j:plain

 

口に入れた途端、雑味のなさに驚かされる。

 

洗練されたしっとり感。

 

甘さは控えめで、いい小豆の風味が広がる。塩は使っていない。

 

小豆は北海道十勝産を使っているようだが、素材を生かすも殺すも、作り手の腕前だと思う。

 

毎日、銅鍋で一定量しか作らない。すべて手作業。これを百年以上きちんと守っているのが並ではない。

f:id:yskanuma:20170305152028j:plain

 

半つきの、粘りのあるもち米とのバランスがとてもいい。

 

口の中で混じり合い、さわやかな風となって、何処かへと抜けていく。

 

天国に近いおはぎ?

 

洗練されたこしあんのおはぎとはこういうものを言う、と改めて思う。

 

これ見よがしの宣伝も、能書きもない。憎たらしいほど、京都の奥の深さ。

 

ただ一点、日持ちしないために、その日のうちに食べなければならない。それがとっても残念だが、それ故にこそ、今西軒なのだとも思う。

 

所在地 京都市下京区烏丸五条

最寄駅 京都市営地下鉄五条駅

 

                                       f:id:yskanuma:20170305152832j:plain

 

 

 

 

 

きんつば界、東の横綱

 

小粋な包みを解いて、浅草「徳太楼」のきんつばを初めて見たときのこと。

 

それまでのきんつばとは、まるで色味が違うことに、つい見入ってしまった。

 

れいな乳白色の皮。それが8個入っていた。

 

1個135円(税込み、箱代は別料金)。真四角の形で、小ぶりだが、厚みがある。薄っすらと小倉色のあんこが透けて見えた。  

f:id:yskanuma:20170303182730j:plain

 

焦げ目らしきものが見えないのが、不思議だった。

 

榮太楼の金鍔(きんつば)にしても、他のきんつばにしても、濃淡はあるが、素朴な焼き色が付いている。それがまた魅力でもある。 

f:id:yskanuma:20170303172833j:plain

 

だが、目の前のきんつばには、それが見事なくらいない。皮独特の匂いも感じない。職人芸としか言いようのないきれいな焼き方。

 

小皿に移して、爪楊枝で口に運ぶと、皮はしっとりと柔らかくて、しかも薄い。洗練された、その食感が素晴らしい。  

f:id:yskanuma:20170303173021j:plain

 

中の小倉あんは、甘さが物足りないほど控えめ。北海道産小豆を使っているが、つぶしあんではなく、粒とこしあんを合わせたようなあんこで、いい小豆の風味が立ってきた。

 

小さなそよ風が口の中を通り抜けていくような感覚。

 

寒天と水飴を上手い具合に融合させていて、ふっくらと炊かれた小豆が形を崩さないまま口の中で溶けていく。思わず、下町言葉で「うめえ」とつぶやきたくなる。

 

あっという間に、3個ぺろりと平らげてしまった。 

f:id:yskanuma:20170303173125j:plain

 

徳太楼の創業は明治36年(1903年)。この年、日本で初めての映画専門館(無声)が六区で産声を上げている。現在は三代目。

 

作り方は基本的に初代の技をそのまま継承しているという。

 

近くには花街もあり、徳太楼のきんつばは長命寺の桜餅、言問団子などとともに、料亭の手土産としても重宝されてきた。 

f:id:yskanuma:20170303173248j:plain

 

野暮ったいきんつばも好みだが、この洗練は感動的でさえある。

 

もしきんつば界に番付があったら、東の横綱に一票を投じたい。本気でそう思っている。

 

所在地 東京都台東区浅草3-36-2

最寄駅 浅草駅

 

            f:id:yskanuma:20170303173408j:plain

 

 

 

伊勢本店で食べた赤福餅

 

赤福餅」には複雑な思いがある。                                                                

 

大好きだっただけに、愛憎半ばするのだ。

 

手ごろな価格で、あんなに美味いあんころ餅はあんまりなかった。今でもそう思う。出張の多いカメラマンが関西に行くたびに手土産で買ってきてくれた。

f:id:yskanuma:20170226123823j:plain

 

折詰の蓋を取った瞬間のときめき。素朴で見事なこしあんが、銀紙を背景に浮かび上がってくる。

 

「いつ食ってもうめえ。こりゃまるであんこの満月だよ、ガハハハ」

 

冗談好きで甘党のカメラマンが面白い表現をすると、ガサツなその場が和んだ。舌の上の満月、ってのも確かにあるかもしれないなあ。ホント?

 

それだけに約9年前の偽装表示事件にはガッカリさせられた。

 

一度イメージを落とすと、立ち直るにはその数倍の時間とエネルギーが必要と言われる。

f:id:yskanuma:20170226122152j:plain

 

去年の秋、三重・松阪市に立ち寄ったついでに、伊勢神宮に足を延ばし、おかげ横丁にある本店に立ち寄ってみようと思った。あの騒動からはや9年の歳月が流れている。

 

江戸時代の面影を残す入母屋造りの本店で、「赤福セット」(2個210円=税込み)を賞味することにした。

f:id:yskanuma:20170226122257j:plain

 

観光客が大勢いて、店内はそれなりに賑わっていた。タイムスリップしたような店内。サービスの熱い番茶を飲みながら赤福餅を食べる。

 

れいなこしあん。甘さは控えめで、小豆のいい風味が立ち上がってくる。餅の伸びやかさ。

f:id:yskanuma:20170226122407j:plain

 

相変わらず美味い。ああ立ち直ったんだなあ、としみじみ。

 

だが、かつてのあの怒涛のような感動は来ない。素朴で力強いこしあんではなく、上品できれいなこしあん。微妙に変化していると思う。むろんこれはこれで悪くはない。

f:id:yskanuma:20170226122447j:plain

 

五十鈴川を眺めながら、本店の広い座敷の上で食べる赤福餅はまた格別だが、一抹の寂しさを覚えるのはなぜか。

 

創業が1707年(宝永5年)、現在の当主は12代目。株式会社になって4代目だそうだが、どうか手づくりの素朴な味わいを忘れないで欲しい。

 

所在地 伊勢市宇治中之切町26番地

最寄駅 近鉄鳥羽線五十鈴川駅

              f:id:yskanuma:20170226123658j:plain

 

 

 

 

 

 

千住宿の絶妙串だんご

 

かつて旧日光街道日本橋から数えて最初の宿場町だった北千住。

 

ここに東京でも有数の串だんご屋がある。

 

ひそかに東京一ではないか、と思っている。築地の茂助ダンゴよりも好み。

 

こう書くと、そりゃオーバーだよ、という声が聞こえてきそうだが、最初に食べたときに、その手づくりの美味さと安さに驚いた。

f:id:yskanuma:20170224111332j:plain

 

宿場町通りをしばらくぶら歩きすると、「槍(やり)」と染め抜かれた紺地の日除け暖簾が見えてくる。それが「槍かけだんご かどや」である。あたりには江戸の匂いを残す店が数軒ある。

 

江戸創業かと思いきや、創業は昭和27年と比較的新しい。今も暖簾を広げず、家族で営んでいる。65年ほどの歴史。

 

メニューは「あんだんご」と「やきだんご」の2種類しかない(あんだんごは季節によってよもぎ餅もある)。1本90円(税込み)をずっと据え置いている。

 

炭火で一本ずつ手作業で焼くやきだんご(みたらし)も実に美味いが、あんこ好きとしては「あんだんご」にぞっこん。昔ながらの作り方そのまま。

f:id:yskanuma:20170224110029j:plain

 

平べったい餅の柔らかさと甘さを抑えたこしあんの風味。こしあんはたっぷりとヘラで付けられている。その、素朴できれいな美味さ。餅の伸び。

 

塩加減が実に絶妙で、舌の上がしばらくの間小さな天国になる。

 

小豆は北海道十勝産の厳選小豆を使用、それを銅鍋でほぼ毎日炊いている。一定量しか作らないので、午後には売り切れてしまうこともある。ここは注意が必要。

 

添加物などは使用していないため、午前中に買って夕方食べようとすると、固くなりかかっている。そこが素晴らしいところでもある。

f:id:yskanuma:20170224110053j:plain

 

持ち帰り専門だが、店先に小さな縁台がある。そこにどっかと腰を下ろして、出来立てを食べるのが一番美味いと思う。じろじろ見られているようで恥ずかしい、という言葉はシャットアウトする必要があるが。

 

平成24年(2012年)に店を建て替えた。それまでは明治末建築の足袋屋(たびや)の古い建物を使っていた。それがまたよかった。

 

「槍かけだんご かどや」と書かれた、横書きの巨大看板が懐かしい。セピア色の世界。その時の方が風情があって全然よかったよ、という千住っ子も多い。

f:id:yskanuma:20170224110150j:plain

 

槍かけの由来は、江戸時代、近くの清亮寺に大きな松があり、そこに家来が水戸光圀水戸黄門)の槍を立て掛けていたことによる。

 

こういうだんご屋がしっかりと根付いている北千住。居酒屋の街でも知られるが、遠い江戸の匂いが今でもしっかり残っている。

 

                 

所在地 東京都足立区千住5-5-10

最寄駅 JR北千住、地下鉄北千住駅西口から歩約10分

 

 

              f:id:yskanuma:20170224110816j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一幸庵カフェ」のあんこ

 

究極のあんこ、というものは永遠の謎かけだと思う。

 

とはいえ、それに近いものはきっとある。

 

「一幸庵」のあんこは多分、その一つだと思う。

 

東京・小石川にある和菓子の名店。老舗とはいえないが、当主は知る人ぞ知る和菓子職人で、こだわり抜いた生菓子などはあっという間に売り切れてしまう。

f:id:yskanuma:20170219102804j:plain

 

そのすぐ近くに「cafe 竹早72」があることを知り、のぞいてみた。ここは「一幸庵」の娘さんが営む小さなカフェ。オープンして4年ほどだが、あまり宣伝しないためか、客はそう多くない。

 

「おしるこ」や季節の和菓子など、一幸庵のあんこを堪能できる、穴場でもある。

 

素材から作り方までこだわり方が半端ではないので、その分、舌代も安くはない。

f:id:yskanuma:20170219102928j:plain

 

モダンなシンプル。カウンター席とテーブル席。無駄なものがない。ゆったりした時間が小さな空間に揺蕩っている。

 

メニューの中に「ANNパン」(税込み800円)を見つけ、頼んでみることにした。

f:id:yskanuma:20170219103011j:plain

 

白い大皿にトーストして四角く切り分けられた食パンとこしあん、つぶあんがきれいに置かれていた。お茶が付いていて、気配りが効いている。柴漬けと梅漬けの箸休めも。

 

そのこしあんとつぶあんについ見入ってしまった。

f:id:yskanuma:20170219103045j:plain

 

こしあんは薄い茶色で、その見事な肌理が伝わってきた。絹のようなこしあん、と表現したくなった。

 

口に含むと、そのきれいなねっとり感にたじろぐ。バターが塗られているトーストパンに挟んで食べると、いささか物足りないほどの繊細な風味。

f:id:yskanuma:20170219103136j:plain

 

もう一つのつぶあんは小豆の色が濃い。聞いてみると、「能登大納言小豆を使ってます」とか。丹波大納言と並ぶ最高峰の大納言小豆で、粒の大きさと風味がひときわ光るもの。

f:id:yskanuma:20170219103219j:plain

 

ひと口。風味が只事ではない。一粒一粒がふっくらと炊かれていて、形が崩れていない。しかも、皮も中身も実に柔らかい。ほどよい甘み。

 

いい和菓子職人の手にかかると、能登大納言小豆の風味がさらに引き立つことがわかる。

f:id:yskanuma:20170219153926j:plain

 

トーストパンに挟むと、こちらはパンの風味にもバターのささやきにも負けていない。

 

「砂糖は和三盆でしょう?」

「いえ、白ザラメです」

 

ハズレてしまったが、たおやかな店主との短い会話も楽しい。ちなみに店名の最後に付いている「72」は古から伝わる季節の流れ「二十四節気七十二候」から取っているそう。

 

こういうカフェが東京の片隅にあることを喜びたい。あんこ好きにはおすすめの世界ではある。

 

 

所在地 東京・文京区小石川5-14-2

最寄駅 丸ノ内線茗荷谷駅下車

                    f:id:yskanuma:20170219103455j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安倍川もち元祖のあんこ

 

元祖安倍川もちを食べに静岡まで行った。

 

JR静岡駅で降り、そこからバス。安倍川沿いにその店はあった。

 

そこだけ江戸時代。東海道五十三次の世界。弥次喜多がぬっと出てきそうな気配。

f:id:yskanuma:20170216112120j:plain

 

「元祖安倍川もち 石部屋(せきべや)」と染め抜かれた茶色の暖簾が下がっている。

 

創業は文化元年(1804年)。元々は茶店で、初代石部屋吉五郎から数えて、現在の当主は「私で15代目です」とか。

 

15代目だって? どこか五代目柳家小さんのような風貌でさらりとおっしゃる。

 

緋毛せんが敷いてある小上がりで、「安倍川もち一人前」(税込み600円)を頼むと、その15代目自らが作り始めた。

f:id:yskanuma:20170216112459j:plain

 

こしあんときな粉がそれぞれ5個ずつ。きな粉の上には白砂糖がたっぷりかかっていた。これこれ。ほとんど創業当時からのまま。

 

夢のタイムスリップ。

 

搗きたての餅は柔らかく伸び、コシもある。

f:id:yskanuma:20170216112627j:plain

 

こしあんは素朴なこしあんで、やや甘め。思ったほどの風味がない。

 

「あんこは昔から製餡所のものを使っているんだよ」

 

15代目の率直な物言いが東海道の歴史を感じさせる。

 

きな粉は風味豊かで、盛大にかかった白砂糖とともに搗きたての餅を引き立てる。

f:id:yskanuma:20170216112710j:plain

 

口の中でそよ風が立ってくるよう。きな粉のそよ風も悪くはない。

 

きな粉餅はかの家康や八代将軍吉宗も好んで食べたと言われている。

 

吉宗はそれまで輸入に頼っていた砂糖の国産化に力を入れたお方。それがこのきな粉餅の白砂糖に結びついているとも言える。あんこも然り。あんこ好きとしては吉宗に足を向けては寝れない。

 

元祖安倍川もちを食べながら、つい弥次喜多に話しかけたくなった。

 

所在地 静岡市葵区弥勒

最寄駅 JR静岡駅からバス安倍川橋下車

    

                  f:id:yskanuma:20170216113044j:plain

 

 

 

和スイーツの神様「澤屋あわ餅」

 

和スイーツ界の頂点に位置するのが京都であることに異論はない。

 

いい店が多すぎる。

 

今回ご紹介するのは、北野天満宮前の「粟餅所 澤屋(あわもちどころ さわや)」。

 

創業は江戸時代前期の天和2年(1682年)だが、もっと以前から粟餅は北野名物だったようだ。

 

f:id:yskanuma:20170212114247j:plain

 

ひょっとして和菓子好きの太閤秀吉が食べていたかもしれない。千利休も茶席に出していたかもしれない。

 

そんな空想を抱きたくなる逸品が、この超老舗の粟餅である。

 

三百数十年間、粟餅ひと筋。目立たない一軒家にいい暖簾が下がる。

 

引き戸を引いた途端、タイムスリップした気分になる。

f:id:yskanuma:20170212114334j:plain

 

ご高齢の12代目と女将さん、そのご子息13代目が注文と同時に、木桶から見事な手さばきで粟餅を取り出し、こしあんで丸める。きな粉をかける。

 

店内で食べたのが「白梅」(こしあん3個、きな粉2本)。舌代は600円。お茶をサービスに付けてくれるのがうれしい。

 

今でも毎朝臼(うす)で搗きたて。

f:id:yskanuma:20170212114744j:plain

 

柔らかな粟餅がこんなに美味いとは。驚くしかない。

 

れいなこしあんと粟餅の風味に癒される。

 

f:id:yskanuma:20170212114907j:plain

 

夕方までしか持たないので、店に来て食べるのがベストの方法だと思う。

かような店は京都でも数少ない。

 

食べ終わった後、思わずかしわ手を打ちたくなる。

 

 所在地 京都・上京区北野天満宮

最寄駅 市営バス「北野天満宮」前

                     f:id:yskanuma:20170212115107j:plain