週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

京都「上生菓子界」の頂点か

 

和菓子の王国・京都の中でも最上位に位置する店はそう多くはないと思う。

 

あんこヒエラルキーなるものがあるとして、その最上位に位置するのは、主に茶会などで使われる上生菓子ということになる。京都は昔から階級社会で、和菓子においてもその裏の法則は徹底している、と思う。イケずの世界。

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庶民派のおまん屋はんや餅屋はんを愛する者としては、複雑な気分。

 

素材の選び方、和菓子職人の技、五感への刺激・・・上生菓子の洗練された世界はあまりに繊細過ぎて、できる限り近づきたくない。ある種想像を超える世界でもある。

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と、前置きが長くなってしまったが、この上生菓子の最高峰と評価する専門家も多い、北区紫野の京菓子司 嘯月(しょうげつ)」の二品を今回は取り上げたい。

 

百の言葉より、まずはそのはんなりとしたお姿を見てほしい。

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たまたま東京のあん友と京都へ和菓子屋めぐりに出かけた際に、あらかじめ予約しておいてくれた季節の上生菓子である。

 

季節のきんとん「交錦(まぜにしき)」(税込み 一個460円)と薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)織部(おりべ)」(同 460円)の二品。

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安くはないが高いとも言えない。食べ終えるとそれがわかる。

 

完全予約制で、お客が来るその日に作る。「作り立てが一番美味い」というのがその理由。これは凄いことでもある。

 

私がこれまで食べた上生菓子で、最も感動したのは、松原通りの「松壽軒(しょうじゅけん)」だが、ひょっとして同じくらいのレベルかもしれない。

 

「交錦」は核の部分に秘密の小倉あんが潜んでいて、その周りを細かい目で裏ごししたピンク色の白あんがそぼろ状に繊細にまとっている。白と黄も混じっている。菊の花のイメージらしい。

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白あんをここまで美的に着色していて、しかも味わいも感嘆のレベル。

 

きれいな白小豆の風味とほどよい甘さ。それが舌先で一瞬のうちに溶けていく。これまでにない感覚でため息とともに、参りました、とつぶやくしかない。

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最後に現れた見事な光沢の小倉あんは私がこれまで食べた粒あんの中ではほぼ頂点の味わい。

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なめらかさ、磨き抜かれたきれいな風味。皮まで艶のある柔らかさ。日本酒で言うと、特別な大吟醸酒のような味わい。ワインでいうと、DRCのピノノワールのよう(返ってわかりにくいかな?)

 

とにかく凄いのひと言、脳天がしびれる(オーバーではない)。

 

もう一品。「織部饅頭」は「松壽軒」ほどの感動はなかった。正直に言うと、私レベルの舌では測れない世界かもしれない。

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こしあんが思ったよりも固めで、松壽軒のみずみずしいこしあんの方が私にはピッタリ来た。好みの問題かもしれないが。

 

「嘯月(しょうげつ)」は創業が大正5年(1916年)。現在は三代目。初代はあの「虎屋」で修業後に独立。暖簾を広げず、完全予約制でその日の分しか作らない、というスタイルを貫き通している。

 

誰もができることではない、と思う。

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先日のこと。辛口でなる京都の老舗料理屋の女将さんが人気の和菓子屋を撫で切りにしてから不意に「嘯月はんですか? あそこは別格ですわ」とその時だけ悪口を止めたほど。

 

後日、素材が気になって、思い切って電話したら、たまたま三代目らしきお方がお出になって、「白小豆は備中です。小豆は丹波大納言。砂糖ですか? 上白と氷(氷砂糖)です」。驚くほど率直に教えてくれた。腕に自信がないとこうはいかない。

 

もはや脱帽するっきゃない。

 

京都はホント、奥が深すぎる。

 

所在地 京都市北区紫野上柳町

最寄駅 地下鉄烏丸線北大路駅下車 歩約10分

 

 

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超レア、丸ごと「生いちじく大福」

 

いちご大福の登場以来、新しいフルーツ大福が誕生しているしているが、これはちょっと珍しいフルーツ大福だと思う。

 

超レアと言ってもいいんじゃないかな。

 

それがこれ。

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いちじくを丸ごと一個使った「生いちじく大福」である。

 

どないでっか、このド迫力。フルーツ大福の王様、とついひれ伏したくなる。

 

「埼玉にすごい大福があるよ」

 

あんこネットワークからの情報で、足を運んでみた。その結果の甘い出会い。

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作っているのは創業が昭和22年(1947年)の「いちじく菓庵 美よ志(みよし)」。武家最中やいちじくケーキなどでも知られる和菓子屋さん。

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きれいに包装されて、一個280円(税込み)なり。上生菓子も並んでいる。

 

自宅に持ち帰って、賞味となった。

 

淡緑色の紙包みを取ると、直径6センチほどの大きな球形の大福が現れた。

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餅粉がたっぷりかかっていた。

 

手に持つとズシリと重い。

 

熱いお茶を入れ、気持ちを落ち着けてから、包丁で切ってみた。

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柔らかな求肥餅に包まれた、見事ないちじくが現れた。

 

生々しいほど、熟れたいちじく

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求肥餅は膜のように薄く、その下には白あんが4~5ミリほど。熟したいちじくを二重に包み込んでいた。

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木のフォークで口に運ぶと、あまりに柔らかな求肥と白あんのきれいな風味が、主役の生いちじくを見事に引き立てていた。

 

いちじくは好き嫌いのある果物だが、この甘い、クセのある熟成感は、好きな人にはたまらないと思う。

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白あんは北海道産手亡豆で、甘さの奥にほんのり塩気もある。

 

絶妙な味わい。絶妙な三角関係

 

キュートないちご大福とはひと味違う、大人のビターな甘さ。

 

舌の上から頭頂部に向かって、ぼわぼわと穏やかに広がっていく。

 

そのぽわぼわ感覚はちょっと得難い、と思う。

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このレアなフルーツ大福を考案したのは3代目。現当主2代目の跡継ぎで、東京・自由が丘の老舗和菓子屋で修業後に店に入り、新しい和菓子作りにも挑戦、約6年前に試行錯誤しながら作り上げたのがこの生いちじく大福だった。

 

店のある騎西町は、いちじくの産地としても知られ、その地産を生かしたもの。

 

フルーツ大福は増えているが、いちじくを丸ごと使ったレアものは、日本全国広しといえども多分ここしかない(あったらごめんなさい)。

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口コミなどで少しずつ広がり、2~3年ほど前から爆発的に売れ始めたそう。

 

いちじくの季節は夏から秋まで。

 

「そろそろ今年はお終いです。今、全国から冷凍でいいから送ってほしい、という依頼が多くなってるんですよ。冷凍すれば持ちますからね」(2代目)

 

いちじくのルーツはアラビア半島で、不老長寿の果物としても知られる。

 

花言葉は「実りある恋」とか「子宝」など。

 

その縁起のいい果物を丸ごと一個、大福にしてしまうとは、3代目の目の付けどころもかなりレアだと思う。

 

所在地 埼玉・加須市根古屋645-2

最寄駅 東武伊勢崎線加須駅から約2500メートル

 

 

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17代目の酒饅頭と栗饅頭

 

大阪市内で一番古い和菓子屋へ足を運んだ。

 

目的は一に酒饅頭、二に栗饅頭

 

この栗饅頭に驚かされたが、それは後半に・・・。

 

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予想よりも小さな、ある種、シンプルな店構え。茶色の暖簾が渋い。大阪流わびさびの佇まい。

 

それが知る人ぞ知る「御菓子司 高岡福信(たかおかふくのぶ)」だった。

 

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創業が寛永元年(1624年)。当主は驚きの17代目。ちなみに虎屋の当主も17代目。

 

初代が豊臣秀吉の点心御用を務めていた、というから気が遠くなってくる。

 

京都も凄いが大阪も侮れない。

 

その酒饅頭がこれ。どないでっか? 1個税込み184円。

 

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皮はもち米と糀(こうじ)を使い、すべて手作り。甘酒から作るので、完成まで約2週間ほどかける。日光「湯沢屋」(江戸時代後期創業)も同じ作り方だったことを思い出した。本物は手間ひまを惜しまない。

 

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早朝、蒸かし立てを店内でいただくことにした。17代目は気さくなお方で「狭いですけど、ここでよかったらどうぞ、どうぞ」と隅にある小さな縁台をすすめてくれた。

 

創業当時からほとんど同じ製法で作られているそうで、蒸かし立てというのに表面の皮は表面張力で、プチッとしていた。

 

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ふうふうしながら、二つに割ると、糀(こうじ)のいい香りがぷーんと来た。中はこしあんがたっぷり。大阪ではなくここは大坂と表記したい。

 

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ふくよかなこしあんで、雑味がない。甘さはほどよい。しっかりとした食感の皮の存在が強め。

 

小豆は「備中大納言です」と聞いて、素材へのこだわりにハートを揺さぶられてしまった。17代目のさり気ない矜持(きょうじ)。砂糖はザラメで、手作業で練り上げている。

 

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もう一品、栗饅頭がすごかった丹波栗を丸ごと一個蜜煮したものを使い、それを丹波白小豆が包み、焼かれた皮の表面はつややかなテカリが凝縮した存在感を周囲に放っていた。卵黄の塗り方に手の気配。一個一個、塗り方が微妙に違う。

 

自宅に持ち帰ってから、改めて眺め、正座して菓子楊枝(ようじ)でいただく。

 

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3個入り、箱代込みで1250円(税別)。安くはないが、その歴史に敬意を表したい。

 

どっしりとした存在感。重さを量ると1個64グラム。普通の栗饅頭の2倍近い大きさと重さ。約400年の重み。

 

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口に運ぶと、ほっこりとした歯ごたえで、ほろほろと口の中で溶けるよう。蜜煮した丹波の美味さ。白小豆の穏やかな風味が重層的に追いかけてくる。

 

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主役の丹波栗は形がしっかりあるのに、ホクホクと崩れ落ちてくる。しっとり感ときれいな甘みがじんわり来る。上質のマロングラッセに通じる味わい。

 

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これまで食べた中では虎ノ門岡埜栄泉の栗饅頭が一番の好みだが、これは別格だと思う。地味系の別格。

 

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17代目と話していて感じたことだが、素材に昔からの最高峰を使い続け、手作りにこだわり、それを緩める気配は見られない。

 

伝説の南蛮菓子「鶏卵素麺」やカステラも作り続けている。それらがよもぎ餅などと並んでさり気なく置かれている。

 

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かような店が暖簾を下げて、今日も大坂の一角で、和菓子を作り続けている。ある種のミラクルだと思う。

 

所在地 大阪市中央区道修町4-5-23

最寄駅 地下鉄淀屋橋駅、または肥後橋駅から歩約3分

 

 

 

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京都隠れ家の丹波ぜんざい

 

京都は和菓子のメッカだが、甘味処のメッカでもある。

 

あんこ好きにとっては、天国に最も近い場所。

 

数を挙げたらきりがないので、ここではその頂点の一つを取り上げることにする。

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清水寺が見える二寧坂の石段下で、隠れるように紺地の長暖簾を下げている「甘味処 かさぎ屋」。創業が大正3年(1914年)、甘味処としては歴史が古く、現在の店主は4代目。

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ここの「亀山」(税込み 800円)がすごい。

 

とにかくそのあまりに魅力的なお姿を見てほしい。

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見ただけで目がクラクラ・・・卒倒しそうになりませんか?

 

変なたとえだが、ビヨンセのナイスバディーに匹敵する、いや甘党にとってはそれ以上かもしれない。

 

希少な丹波大納言小豆を丁寧に炊き上げ、水分をぎりぎりまで飛ばしたもの。

 

大きめのお椀のフタを取ると、甘い湯気とともに、小倉色の大粒小豆が現れる。汁気がない!

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30秒ほど見入った後、ふうふうしながら箸をつける。

 

ほっこりとした、ほどよい甘さと丹波大納言小豆のワンランク上の風味が口の中に広がる。ほのかな塩気も効いている。

 

炊きあげられた柔らかな皮と中のふくよかな素朴がたまらない。

 

奥に焼いた餅が潜んでいて、その香ばしい伸びやかさに大粒の小豆が絡む。

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昔のままの、このようなスペシャルなぜんざいは極めてレアだと思う。

 

箸休めの青じその漬物も美味。

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東京・人形町「甘味処 初音」の「煮あずき」(北海道産えりも小豆)も美味いが、この丹波大納言ぜんざいとは比較できない。ボリュームも倍くらいある。

 

神保町「大丸おやき茶房」の「ぜんざい」もこの部門のモンスターだが、超甘で、それとも味わいが違う。こってりではなく、ほっこり。甘さを抑えた大納言小豆の風味が京都のまったり文化の延長線上にあると思う。

 

この一帯は人気スポットで、中国人観光客も多いが、この少し奥まった隠れ家のような店には騒音が及んでいない。ある種の、常連好みの世界。BGMもないので、ここだけ別世界のようでもある。

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よき時代の大正・昭和がそのまま。入ってみると、敷居はそう高くはないのに、入り口には透明なバリアーが張ってある気もする。あんこが大好きな人だけが入れる小さな世界。

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創業当時の甘味処の建物がそのまま残っているのは、このあたりでも貴重だと思う。

 

ところで「亀山」とはいかに? その由来は?

 

4代目によると、丹波産小豆の産地亀山から来ているという説と、お椀に入れた大納言小豆のビジュアルが亀の甲羅に似ていることから来た、という二つの説がある。

 

4代目でさえ「はっきりしたことはわからない」そう。関西の一部では汁気のないぜんざいを昔から「亀山」と呼んでいるという声もある。

 

一時、二寧坂に住んだこともある大正ロマン画家・竹久夢二がよく通っていたそうで、「初代の時だったようですが、特にこしあんがお好きだったと聞いてます」(4代目)とか。

 

とすると、よく食べたのは「おしるこ」の方で、この「亀山」は食べなかったかもしれない。あるいは何度かは食べたかもしれない。

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空想の時間の旅をしながら、私は時間をかけて、最後の一粒を食べ終える。

 

ほっこりと同時に切ない余韻も舌に残る。

 

終生、中央画壇から見離されていた夢二が最愛の彦乃と二人連れでやってきては、少し猫背でおしるこを食べてる姿を想像する。

 

隅っこのテーブルあたりに甘い、平和な、不遇の時代のシルエットが重なるようにクロスするのだった。

 

所在地 京都市東山区桝屋町349

最寄駅 京阪・祇園四条駅から歩約15分

 

 

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巨大台風後の「ぶどう大福」

 

これはたまたま見つけた、小さな店の宝石のような3種類の上生菓子。食べる前から「お見事!」と拍手を送りたくなってしまった。

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台風19号の爪痕がまだまだ癒えそうもない栃木・佐野市をクルマで走っていると、小さな一軒家の和菓子屋さんらしき店が視界に入った。佐野市の郊外。

 

通り過ぎてから、引き返した。かような場所に?

 

もう一度、確かめると、白地の暖簾に「果子 うさぎやの細文字とウサギのイラストが見えた。それに金色の満月。シンプル。

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佐野は関東三大厄除け大師のある、歴史のある街で、ラーメンの町としても知られているが、市の中心部、佐野厄除け大師の周辺には古い和菓子屋も多い。

 

歴史のある街にはいい和菓子屋が隠れている。

 

だが、そこは中心部からかなり離れた田沼町で、国道293号線から少し入った殺風景な住宅地でもある。

 

利休好みのシンプルな気配に惹かれて、暖簾をくぐる。

 

バラエティーに富んだ串団子が売りのようだが、残っていたのはサンプルだけで、すべて売り切れていた。豆大福もきれいになくなっていた。「すいません」と女性スタッフ(若女将さんだった)。

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軽く驚く。地元客の愛を感じた。店内は狭いが、清楚な造りで、モダンジャズが流れていた。今どきの和モダンのニュアンスも感じる。悪くない世界。

 

すぐにショーケースの下の段に目が吸い付けられた。

 

五感を刺激する、きれいな上生菓子が数種類並んでいた。「こちらはまだあります」。

 

がっかりがほっこりに変わるのがわかった。

 

若い夫婦が二人で始めた和菓子屋さんのようで、店の歴史は「8年ほどになります」(店主)とか。

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ぶどう大福(税込み 200円)、栗かのこ(同 150円)、柿もち(130円)をすぐに買い求めた。

 

まさかの拾い物? あんこの神様のイタズラかもしれないぞ。

 

家に持ち帰って、備前焼きの皿(曽我尭作)に置くと、小さいながら、それぞれが絵になっている。

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最も気に入ったのが「ぶどう大福」だった。この時期だけの逸品。

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外側の餅は、地場の餅米から丁寧に作っていて、伸びといい、柔らかさといい、申し分がない。

 

二つに切ると、大粒の白ブドウが現れた。品種は瀬戸ジャイアンで、糖度が高く、酸味が少ないのが特徴。

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その周りを手亡豆のこしあんが包んでいる。むろん自家製。

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絶妙なバランスだと思う。白あんはしっとりとしていて、甘さと塩気が伸びやかな餅と甘いブドウを風味豊かに引き立てている。

 

上質の美味さ。

 

偶然とはいえ、小さくても志を感じる和菓子屋に出会えたことを素直に喜びたい。

 

「栗かのこ」は小ぶりで、外側の寒天の膜に覆われた北海道産大納言小豆と中のつぶあん、それに栗が素朴な味わい。

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あんこの渋切りは一回だそうで、小豆自体の風味を強めに残している。その分、見た目の美しさとは違って、食感は少し野暮ったい(それが狙いかもしれないが)。

 

個人的には中はこしあんの方がいいと思う。

 

「柿もち」はかなり凝った作りで、へたは本物を使い、外側の餅は求肥餅でつるんとした食感。鮮やかな柿色はクチナシをいくつかブレンドしているそう。

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中に白あんがたっぷり詰まっていて、よく見ると、干し柿の粒も入っていた。芸が細かい。

 

白あんは濃い風味で、野趣に富んだ、店主の遊び心を感じる。

 

つぶあんも白あんも砂糖は白ザラメを使って炊いているそう。

 

台風19号の被害が甚大な佐野市だが、こういう小さくてもきらりと光る店が存在していると思うと、どこか救われる気がするのはなぜか。

 

まっとうな志と夢がこれからどうなっていくか、陰ながら見守りたい気分になった。

 

所在地 栃木・佐野市田沼町77-7

最寄駅 東武佐野線田沼駅下車、歩くと約20分ほど

 

 

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京都の変種?白河の「うば玉」

 

あれっ、黒ではなく白。

 

珍しい白い「うば玉」と出会った。

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かつてはみちのくの要衝、白河の関で江戸時代末期(創業文久3年)から暖簾を下げる「菓子舗 玉家(たまや)」でのこと。かつては白河藩御用達の上菓子屋でもある。

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「うば玉」は私の中では、京都の老舗「亀屋良長」のものがすぐに頭に浮かぶ。黒糖を使った黒々としたあんこ玉で、こしあんを膜のように羊羹状の寒天が包んでいる。漢字で書くと「鳥羽玉」。濡れた鳥(カラス)のように表面はテカっているので、こう命名されたようだ。「老玉」と表記する店(仙太郎など)もある。

 

だが、ここの「うば玉」は粉雪がうっすらとかかったもの。

 

ほうー、が出かかる。

 

一番手ごろな3個入りひと箱(税込み 620円)をゲットし、翌日、自宅に帰ってから賞味してみた。上生菓子なので、日持ちは短い。

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品のいい包みを取ると、店先で見た粉雪をまぶしたような、ピンポン玉大の烏羽玉が現れた。うっすらとあんこが透けて見える。いい景色。

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黒い宝石のような「亀屋良長」のものとは別種の気品がある。

 

申し訳ないが、包丁で真ん中から切ってみた。

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中はきれいなこしあん。とろけそうな半透明の求肥餅が膜のように包んでいた。羊羮状ではなく、求肥餅。断面図はあんこの夢を形にしたようにも見える。

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敬意を表して、日本橋「さるや」の黒文字でいただく。

 

こしあんは北海道産えりも小豆のいい風味が閉じ込められていて、甘さもどこか濃い。意外だが、塩気も強め。京都よりも関東の野暮が隠し味になっている、とも思える。

 

京都のような黒糖の気配はない。

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店先にいた感じのいい若い女性が8代目だったこと。その時の会話を思い出す。

 

「京都の烏羽玉と外観が違いますね」

「ええ、でもうちでは昔からこの形なんですよ。黒糖ではなく、上白糖を使ってるんです。皮も寒天ではなく、寒ざらし求肥です」

 

京都から白河関に来るまでに、いつのまにか「黒姫」から「白姫」に変身したに違いない。あるいは白河の「白」を意図して、作り替えた可能性だってある。

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黒と白について、気になって調べてみたら、九州の平戸にも白い烏羽玉が存在していることがわかった。

 

文亀2年(1504年)創業、九州最古の和菓子屋とも言われる「蔦屋(つたや)総本家」が旧平戸藩主が愛した上生菓子を復元した「烏羽玉」が、この「玉家」とほとんど同じものと突き止めた。執念です(笑)。外側の求肥には和三盆を雪のようにかけているそう。

 

「中もこしあんです。黒糖は使っていません。黒ゴマを少し入れてますが、確かに京都のものとは違います。残っている資料などで忠実に再現したものです」(同店)

 

みちのくと九州にほぼ同じ烏羽玉があることに驚く。

 

どこがルーツなのか、あんこ玉を謎のベールが包み始めてきたよう。

 

目の前の白い烏羽玉をしばらく見つめる。

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あなた様は、いったいどこから来たの?

 

しばらく沈黙が続いた後、中からつぶやきが聞こえてきた。

 

そう簡単に白黒つけられない、てことにしましょ。

 

そうささやかれた気がするのだった。

 

所在地 福島・白河市本町46

最寄駅 JR白河駅から歩いて約15分

 

 

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「こしあん笹もち」にやられた

 

団子(だんご)を食べに暖簾をくぐったつもりが、意外な生菓子に出会ってしまった。

 

こういうことが起きるから「あんこ行脚」はやめられない。ゲット、ラッキーの極みかな。

 

みずみずしい笹に包まれた、こしあん入り笹もち。1個税込み130円なり。

 

それがこれ。

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城下町・会津若松でのこと。

 

歴史のあるセピア色の街並み、七日町通りにある「菓子司 熊野屋」。地元では7種類の団子が有名だが、生どら焼きや上生菓子もショーケースに並んでいる。笹団子まである。

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一見不思議な店だが、創業が明治20年(1688年)の老舗和菓子屋さん。4代目がアイデアマンで、伝統と新しさをうまくミックスさせている。

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草団子、ずんだ団子、ごま団子(いずれも税込み100円)と買い進め、もう一品何にしようかな、しばし迷ったら、ふと見ると、すぐ横で「笹もち」が小さくオーラを放っていた。

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おおお。まるでかぐや姫だよ。ホントにそう見えた。

 

賞味期限が「本日中」なので、店の隅で食べさせてもらうことにした。

 

会津流のおもてなし。お茶まで出してくれた。

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団子はひと串3個で、会津コシヒカリを炊いてから丁寧につぶしたもの。米粉ではなく、きちんと炊いているのがここの特徴でもある。

 

草団子、ずんだ団子、ごま団子の順で食べ進む。

 

草団子はつぶしあんで、丁寧に包まれ、北海道産小豆の風味とよもぎの風味のバランスがいい。きれいな甘さ。砂糖はグラニュー糖を使用しているようだ。

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ずんだ団子は「だだっ茶豆を使っています」(4代目)。ずんだあんはつぶつぶが残っていて、それが素朴ないい味わいを生んでいると思う。

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ごま団子は表面は黒ごまだが、中が凝っていた。こしあんベースのごまあんが入っていて、つるりと柔らかい団子と中のごまあんが絶妙で、黒ごまの風味が口の中でどんどん広がる。これで100円が信じられない。

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さて、本題の「笹もち」。まず笹の風味が鼻腔にスーッと入ってくる。そのまま目を閉じて3秒ほど息を止めていたくなる。

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餅は若草色の道明寺で、口に入れた瞬間、柔らかな美味が笹の清冽な香りとともに押し寄せてきた。この感触はたまらない。

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中のこしあんがしっとりと上質で、それがたっぷりと入っていて、道明寺餅との相性がとてもいい。あんこには水あめも加えているかもしれない。ほんのりと塩気が効いていて、これはもはや上生菓子のレベルだと思う。

 

笹の香りがこしあんと道明寺餅を1+1=3にしている感じ。

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「これは夏から秋までの季節限定なんですよ。会津産小豆を使った薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)も茶席などでも人気があるんです。そちらもぜひ食べてみてください」

 

まさかのいい出会い。

 

店の中であんこに包まれて一泊したくなってしまった。

 

所在地 福島・会津若松市七日町5-17

最寄駅 JR只見線七日町駅から歩いてすぐ

 

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