週刊あんこ

和スイーツの情報発信。あんこ界のコロンブスだって?

江戸「水ようかんの極北」

 

この水ようかんを何と表現したらいいんだろう?

 

見事な小倉色の宇宙に、小豆の粒つぶが星雲状に浮かび上がっている。

 

一辺が15センチほど。大きな舟型に流し込まれてから冷水で固められた、ほぼ真四角の水ようかんが、細長く五つに切り分けられている。

f:id:yskanuma:20170418182903j:plain

 

買い求めたのは5本入り(税込み874円)。

 

それが会津若松市東山温泉の奥にある「松本家」の水ようかんである。

 

創業が江戸時代・文政2年(1819年)というから驚く。

 

主に湯治客相手に細々と出していたところ、「美味い」と評判を呼び、本格的に水ようかんを作り始めたという。当時は「田舎ようかん」という名前で売っていたようだ。

f:id:yskanuma:20170418183059j:plain

 

文政年間と言えば、江戸では深川佐賀町の「船橋屋織江(ふなばしやおりえ)」が煉り羊羹(ようかん)を売り出し、異常人気を博した時期である。砂糖も一般に流通し始めている。江戸はようかんブームだった。

 

その時代に東山温泉で水ようかん。それがその当時とほとんど同じ製法で、作られているとは、いささか信じがたい話ではある。

 

初代は江戸で修業したのか? あるいは湯治客の中に羊羹職人がいて、作り方を教えてもらったのか? そのあたりは不明である。

f:id:yskanuma:20170418183150j:plain

 

一本が長いので、菓子楊枝(かしようじ)で、半分に切り、それを賞味する。

 

こしあんのいい風味と粒つぶ感が口中で、清流になるような感覚・・・ホントです。

 

甘さは控えめで、塩がじわりと効いている。

f:id:yskanuma:20170418183223j:plain

 

確かに絶妙な美味さ。独特の瑞々しい食感。

 

信州産寒天の配合が秘伝なのだろう、素朴な極致というしかない。

 

口の中で、舌の上で、冷たく溶けていく。

 

北海道産十勝小豆、砂糖、寒天、食塩しか使用していない。

f:id:yskanuma:20170418183301j:plain

 

そのため冷蔵しないと、一日しかもたない(冷蔵すると3日間持つそう)。

 

会津若松に住む古老がシャガレ声で、こうのたまった。

 

「昔から同じ美味さだべ。生ものなんで、数もそう多くは作れねえ。んだけんどな、四代目のものが一番うまがった。うん、あれが一番うまがったなあ」

f:id:yskanuma:20170418183721j:plain

 

それが本当なら、タイムマシンでぜひ行って、賞味したいところだが。

 

東京や京都の名店とはまた違った、極北の水ようかん。

 

六代目が暖簾を継いで、東山温泉の奥で、時代に流されずに生きている。

 

所在地 会津若松市東山町湯本123

最寄駅 JR会津若松駅からバス

 

              f:id:yskanuma:20170418183340j:plain

 

 

 

 

門前町の驚き「五色餅」

 

「幻のあんこ菓子」を探して、三千里の旅へ。

 

今回は桜が舞う四国に上陸。金刀比羅宮、通称こんぴらさん門前町で素朴な大福餅に出会ってしまった。

 

あまりに、あまりに素朴な。繰り返し、そう形容したくなる大福餅。

 

蔵造りの和菓子屋「浪花堂餅店」。たまたまこんぴらさんを参拝した後、横道に入ってみたら、目立たない場所に藍染めの暖簾が下がっていた。

f:id:yskanuma:20170413170213j:plain

 

1368段の石段を上り下りして、へろへろ疲労困ぱいの目に希望の灯がポッとともった。

 

手前には幟(のぼり)が立っていて、「浪花堂特製 五色餅 しろ・よもぎ・きび・あわ・黒豆」の文字が染め抜かれていた。

f:id:yskanuma:20170413170151j:plain

 

入り口になぜか古い手押しの小さな屋台が置いてあり、「五色餅 1パック600円」の文字が。いい餅菓子屋の予感。

 

惹かれるように狭い店内に入ると、若い夫婦が仕事中だった。

 

話をすると、男性は六代目だとわかった。奥さんはパティシエでもあるとか。

 

創業が江戸末期にまでさかのぼる。店名でわかる通り、初代は大阪方面からやって来たという。

f:id:yskanuma:20170413170306j:plain

 

「五色餅」(税込み 600円)を買い、その場で「よもぎ」だけを食べることにした。食べるスペースはなかったが、小さな縁台があった。

 

添加物などは一切使っていず、「すぐに固くなります。なるべくお早めに」とかで、大急ぎで作りたてを食べようと思ったからだ。ご夫婦も快く(?)「どうぞ」。

f:id:yskanuma:20170413170329j:plain

 

何よりも餅が餅屋のものだった。今も杵(きね)でついているとか。そのしっかりした弾力と伸びやかさとよもぎの香りがとてもいい。

 

一個の大きさもかなり大きめ。

 

さらに中のあんこが秀逸。小倉色のつぶしあんで、抑えられた甘味とほのかな塩気。その加減が絶妙だった。

 

忘れかけていたあまりに素朴な世界。

 

作り方は創業当時のまま。釜で毎日、4時間かけて、じっくりと炊いているという。

 

しっとり感と小豆の風味が舌の上で睦み合う。

 

愛あるあんこ・・・これもこんぴらさんのご利益ということか?

f:id:yskanuma:20170413170425j:plain

 

その翌々日、六代目が教えてくれた通り、すっかり固くなった残りの4個をオーブンで焼いてみた。表面がこんがりとキツネ色。

f:id:yskanuma:20170413170453j:plain

 

きびとあわ、それに白、黒豆がそれぞれに素朴な風味をかもし出している。

 

焼き大福餅の美味さ。中のあんこのとろけ方。疲れが宇宙の果てまで飛んでいくよう。

f:id:yskanuma:20170413170543j:plain

f:id:yskanuma:20170413170559j:plain

f:id:yskanuma:20170413170625j:plain

 

あっ、忘れるところだった。店の入り口に置いてあった手押しの屋台は六代目のおばあちゃんが実際に使っていたものとか。人知れぬ苦労が染みついた屋台・・・。

 

それを店頭に置いている、六代目夫婦の心意気や良し。

 

所在地 香川・琴平町603-3

最寄駅 琴電琴平駅歩3分ほど

 

              f:id:yskanuma:20170413171435j:plain

 

大谷翔平的「あんバター」

 

パン屋×あんこ=あんパン

 

明治7年(1874年)あんパンが誕生して以降、この長らく君臨してきた数式にバターが加わってきている。名付けてあんバター。これがめっちゃ美味い。

 

パン屋×あんこ×バター=あんバターコッペ

f:id:yskanuma:20170406110015j:plain

 

岩手・盛岡のコッペパン専門店「福田パン」やあんパンの元祖「銀座木村屋」が有名だが、今やどこのパン屋にも並んでいると言っても過言ではない。

 

二刀流の星、あんパン界の大谷翔平クン、と言えなくもない。

 

このあんバターの隠れた名店を見つけた。

 

今や埼玉でも有数のパン屋になった「cimai(シマイ)」でのこと。

f:id:yskanuma:20170406105934j:plain

 

ここは天然酵母パンとイースト発酵パンを姉と妹がそれぞれ担当し、そのオーガニックにこだわった丁寧な作り方と焼き上がりの美味さで、一躍首都圏でも知られるパン屋となった。

 

2008年(平成20年)創業だから、まだ10年も経っていない。

 

ここの天然酵母パンとあんパンが好きで、折に触れてわざわざ買いに行くが、久しぶりに足を運んだら、「あんバター」(コッペパン 税込み210円)が置いてあった。

f:id:yskanuma:20170406110117j:plain

 

焼き上がったばかりのコッペに店のスタッフがつぶあんとバターを挟んでくれる。以前はなかったもの。

 

これがあんパンを超える美味さだった。

 

イースト菌発酵のコッペは福田パンほど太ってはいないが、香り立つような自然な小麦の風味が一ランクほど高く、独特のもっちり感がとてもいい。

f:id:yskanuma:20170406110209j:plain

 

バターはホイップではなく、冷たいまま薄切りしたもの。その上に自家製のつぶあんがたっぷりと盛られていた。

 

あんこまで自家製というパン屋はそう多くはない。

 

冷たいバターの風味とつぶあんの美味さが「絶妙」という言葉を使うに値している。

f:id:yskanuma:20170406110318j:plain

 

つぶあんは甘さが控えめで、北海道十勝産小豆の風味が素晴らしい。つぶつぶ感を残しながらふっくらと炊かれている。砂糖は多分グラニュー糖。

 

このあんこだけでもそのこだわりぶりが徹底している、と思う。

f:id:yskanuma:20170406110512j:plain

 

コッペの美味さがそれを大地のように包んでいる。ほんのりと漂う塩気も悪くない。

 

初めて大谷翔平を見たときのような、ときめきを感じた。つまり、想像を超える世界。210円は安くはないが、これはもう降参するしかない。

 

あんこの世界にも新しいスターが生まれているのは確かのようだ。

 

所在地 埼玉・幸手市大字幸手2058-12

最寄駅 東武日光線幸手駅

 

            f:id:yskanuma:20170406110607j:plain

杜の都の絶品「づんだ餅」

 

「づんだ」は和スイーツの新しい流れだと思う。

 

小豆ではなく、枝豆を搗(つ)いて、そこに砂糖を加えたもの。搗くから転じて「づんだ」と呼ばれるようになったようだ。「ずんだ」とも表記されるが、本来は「づんだ」が正しいと思う。

 

いわば枝豆のあんこ。東北地方では餅にしたり、おはぎにしたり。その美味さは格別なものがある。

f:id:yskanuma:20170402103120j:plain

 

あの戦国武将・伊達政宗も「づんだ」のファンで、その記録も残っている。

 

その中心地が仙台で、全国展開している「ずんだ茶寮」はじめ、づんだスイーツを出す店が多い。

 

その中で、おそらく頂点に位置するのが「餅専門店 村上屋」である。

 

店舗を広げず、青葉城近くの北町で「づんだもち」の暖簾を守り続けている。

f:id:yskanuma:20170402103221j:plain

 

創業は明治10年(1877年)だが、明治以前は伊達藩御用達の菓子司だった。現在の当主は四代目。

 

うぐいす色の暖簾をくぐり、店内に入ると、生菓子や餅菓子がきれいに並べられている。

左手にテーブル席があり、そこで作りたての「づんだ餅」を食べることができる。

f:id:yskanuma:20170402103310j:plain

 

「づんだ餅」(税別610円)と「三色餅」(づんだ、ごま、くるみ 同640円)を頼んだ。

 

天目の器に収まった「づんだ餅」は、きめ細やかなづんだが自然な美しさで、搗きたての餅を覆っていた。箸休めの漬け物も気が利いている。

f:id:yskanuma:20170402103356j:plain

 

最初のひと口でその洗練された美味さにしびれた。

 

きれいで抑えられた甘み。ほのかな塩加減。餅のしなやかさ。風味も味わいも絶妙な調和という他はない。

 

よく口にする「ずんだ」とは、舌触りが違っていた。きめ細やかさのレベルが数ランク違う。

f:id:yskanuma:20170402104517j:plain

 

不思議に思って女将さんに聞くと、「枝豆の薄皮を一枚一枚取り除いてから、ていねいに搗いているんですよ」という答えが返ってきた。鮮度を保つために冷たくもしている。柔らかな餅との絶妙な融合。職人芸の世界。

 

むろん、洗練よりも野暮が好みというのもある。スーパーなどで売られている「ずんだおはぎ」や「ずんだ餅」の野暮ったい美味さも悪くはない。

 

f:id:yskanuma:20170402104439j:plain

 

だが、ここでしか味わえない「づんだ餅」はやはり素晴らしい。

 

三色餅のごまとくるみの美味さも特筆ものだと思う。特にくるみは甘さと塩加減が絶妙で、その口中に広がる風味に正直驚かされた。

f:id:yskanuma:20170402103535j:plain

 

京都・北野天満宮「澤屋」や奈良・当麻寺「中将堂本舗」など、時代の波に流されずに暖簾を守り続ける店は貴重だと思う。

 

村上屋もその系譜に名を連ねている。

 

「でも、後継者がいないんですよ。これからが大変です」(事情通)

 

f:id:yskanuma:20170402104327j:plain

どこかの首相とそのおバカな夫人に言いたい。あんなインチキ籠池などに訳の分からない対応をするより、国宝級の小さな和菓子屋さんに目配りしろ、と。

 

所在地 仙台市青葉区北町2-38

最寄駅 JR仙台駅西口から歩15~20分

 

              f:id:yskanuma:20170402103828j:plain

「よもぎ餅」訪ねて三千里

 

夢にまで見た、幻のよもぎ餅・・・。

 

京都に住む友人から、その存在を知ったのは3年ほど前。彼が上京した折に、わざわざ手土産に持ってきてくれた。

 

賞味期限はその日中ということだったので、夜、みんなで折詰を開けると、瑞々しいあんこで覆われた、見事なよもぎ餅が整列していた。

f:id:yskanuma:20170330102929j:plain

 

何よりその美味さが、京都・北野天満宮そば「澤屋」の粟(あわ)餅に匹敵していた。

 

このよもぎ餅こそ奈良・葛城市当麻寺(たいまでら)に暖簾を下げる中将堂本舗の「中将餅」だった。

 

場所が極めて不便で、奈良駅からさらに近鉄線で1時間以上も入らなければならない。

 

去年秋、仕事で京都に行ったついでに、意を決して、足を延ばすことにした。

 

近鉄線に揺られ、ようやく当麻寺駅で降りると、正面奥に「よもぎもち」の白い暖簾が見え、「中将堂本舗」の古い建物が見えた。よもぎ餅を訪ねて三千里、の気分。

f:id:yskanuma:20170330103136j:plain

 

暖簾分けなどしていないので、作りたてはここで食べるしか方法がない(クール便で郵送もしてくれるが)。

 

午後には売り切れてしまうことも多いと聞いていたので、事前に二人前(煎茶付き一人前2個 税込み300円)を予約しておいた。

f:id:yskanuma:20170330103501j:plain

 

テーブル席に腰を下ろして、こしあんが乗っかったよもぎ餅を黒文字で口に運ぶ。

 

きれいな、甘さを抑えたこしあん。北海道十勝産小豆に丹波大納言小豆も少し加えているとか。

 

よもぎ餅は葛城の里に自生したよもぎを使用した自家製。その柔らかさと風味。

 

口中に春のそよ風が小さく渦を巻くよう。

f:id:yskanuma:20170330103817j:plain

 

あっという間に4個平らげて、さらに2個追加した。追加分は1個80円。合わせて620円ナリの至福の時間が流れる。きれいな時間。

 

ふと3年前に食べた同じよもぎ餅の方が濃厚だった気がした。

f:id:yskanuma:20170330103933j:plain

 

ひょっとして搗(つ)きたて、作りたてよりも数時間置いた方が味に深みが出るのか?

 

あるいはよもぎの時期が春なので、3年前がちょうど春だったことにも関係があるかもしれない。

f:id:yskanuma:20170330104037j:plain

 

伊勢の赤福にも似ているが、それよりも手づくりのこだわりがある。

 

創業が昭和4年(1929年)で、現在の当主は三代目。昔からこの地方にある「あんつけ餅」を茶店で売り出したことが始まりとか。

 

女性職人たちが搗きたてのよもぎ餅を手でひねって、そこにヘラでこしあんを付けていく。隣りではあんこ作り。天国に一番近い場所。

f:id:yskanuma:20170330104216j:plain

 

その見事な手さばきを眺めながら、幻のよもぎ餅を味わう。

 

奈良時代から当麻寺に伝わる中将姫伝説を思いながら、約3年にわたる想いが成就しつつあることに目を閉じたくなった。あんこ馬鹿のサガ。時よ、止まれ・・・。

 

所在地 奈良県葛城市當麻55-1

最寄駅 近鉄南大阪線当麻寺駅

 

             f:id:yskanuma:20170330104511j:plain

最高峰どらやきの隠れ家

 

どら焼きの名店「うさぎや」には三系統ある。

 

初代が大正2年(1913年)に創業した東京・上野、その三男が始めた日本橋、初代の長女が始めた阿佐ヶ谷。

 

見た目はほとんど同じだが、それぞれ作り方も味わいも微妙に違う。

f:id:yskanuma:20170326173915j:plain

 

根っこは同じなのに、それぞれ「経営も別です」と素っ気ない。

 

中でも一番の好みは「日本橋 うさぎや」のどらやきである。

 

一個200円。だが、午後買いに行くと、売り切れていることも多い。

 

だが、この日本橋うさぎやのどら焼きをゆっくりと楽しめる穴場がある。それが今回ご紹介する、お茶と海苔で有名な日本橋山本屋本店の喫茶室である。

f:id:yskanuma:20170326121340j:plain

 

「おすすめ煎茶セット」(税込み400円)で、どらやき一個と日本茶をそれなりに優雅に楽しめる。日本橋でこのコスパはまさかの世界、だと思う。

 

数年前に老舗出版社の編集者に教えてもらったのが初めて。

 

その時はさすが渋いところを知ってるなあ、と脱帽した。

f:id:yskanuma:20170326121438j:plain

 

それ以後、折に触れて利用させてもらっている。お茶というよりもうさぎやどらやきを楽しめる隠れスポットとしてだが。

 

日本橋うさぎやどらやきは、スポンジ皮のふっくら感としっとり感が素晴らしい。卵とハチミツの香り、それに甘めのつぶしあんがとてもいい。絶妙としか言いようのないバランス。

f:id:yskanuma:20170326121550j:plain

 

大納言小豆と思えるほどの粒の大きさ、柔らかな風味、ボリューム。

 

上野は水飴、阿佐ヶ谷はみりんを加えていて、それが特徴でもあるが、日本橋はあんこを炊くときに、そうした隠し味を加えていない。

f:id:yskanuma:20170326121633j:plain

 

その分、小豆本来の風味がストレートに伝わってくる。北海道十勝産小豆と砂糖だけ。塩も使っていない。しっとりとした、きれいな甘み。

f:id:yskanuma:20170326121716j:plain

 

上野や阿佐ヶ谷も高いレベルで、どの店も大きさは普通のどら焼きよりひと回りはデカい。直径9.3~10センチ、厚みは3~3.5センチほど(誤差はある)。

 

だが、日本橋はあんこの質とボリュームという点でも鼻差抜けていると思う。微妙な違いかもしれないが、この微妙な2~3ミリがこだわりでもある。

 

手に持った時の重みを一番感じる。

f:id:yskanuma:20170326122101j:plain

 

これをかつて江戸の中心だった場所でゆったりと味わう。

 

正確に言うと、「おすすめ煎茶セット」は喫茶室の前のスペースで食べなければならないが、いずれにせよどら焼き好きにとって、ここは意外な隠れ家だと思う。

 

恋人と密会するように、甘い妄想を膨らませながら、ここで至福の時を過ごすのも、そう悪くはない。

 

所在地 東京・中央区日本橋2-10-2

最寄駅 東京メトロ日本橋

 

              f:id:yskanuma:20170326121917j:plain

 

 

 

 

 

 

「巨大あんぱん」の謎

 

あんこ界において、あんぱんは特別な存在だと思う。

 

オーバーではなく、明治維新後の傑作の一つだと思う。

 

今ではほとんどの人がそんなことは考えないで、普通に食べているが、あんぱんはカツ丼やカレーライスとともに、日本が生んだ食文化における

 

コロンブスの卵

 

であることは、多分間違いない。いかんいかん。肩に力が入ってしまった。

 

ザンギリ頭の時代に、パンとあんこをくっつけちゃうとは、当時はピコ太郎のPPAP以上の驚きだったと思う。

f:id:yskanuma:20170323080604j:plain

 

そのあんぱんの中でも、さらに驚きのあんぱんが、東京・大島のパン屋「メイカセブン」のあんぱん、である。

 

知る人ぞ知る「巨大あんぱん」で、大きさはもちろんのこと、あんこの量が想像をはるかに超える。

 

パン生地の厚さはせいぜい2~3ミリほどで、あんこの塊を薄いパンの膜がやさしく包んでいるような印象。あんこが神々しく透けて見える。

f:id:yskanuma:20170323080633j:plain

 

こしあんとつぶあん、2種類あり、1個185円(税込み)。

 

大きさは測ってみると、直径が7~8センチ、高さは5~6センチほど。重量は約250グラム。

 

「メイカセブン」の創業は昭和33年(1958年)。その当時の作り方を60年近く変えていないというのだから、これはもはや脱帽するしかない。

 

こんなお化けみたいなあんぱんが、東京の下町にずっと息づいていたことに改めて驚かされる。

f:id:yskanuma:20170323080728j:plain

 

メディアに取り上げられるようになって、人気に火がついてしまった。

 

今では開店と同時に売り切れてしまうこともある。こしあんとつぶあん、それぞれ一日200個しか作らないというのも徹底している。

 

さて、問題は味。パン屋なのでパンは普通においしい。焼き色も素晴らしい。

 

だが、あんこは?

f:id:yskanuma:20170323080859j:plain

f:id:yskanuma:20170323080838j:plain

 

こしあんは甘さが控えめで、それなりの美味さ、と表現するしかない。残念ながら、小豆の風味があまり感じられない。工場のあんこをギッシリつめたような印象。そこがまた魅力なのだが。

 

つぶあんの方が好みに近い。こちらは濃厚さがプラスされる。

 

この小豆が謎に満ちている。あんこの謎。

f:id:yskanuma:20170323081123j:plain

 

「金沢のあんこ屋さんから仕入れています」

 

店の人に聞いても、これ以上の情報はない。

 

これだけ大量のあんこをこれでもか、と詰めたあんぱんが185円とは凄すぎる。下町のパン屋さんの心意気もぎっしりと詰まっているということなのかもしれない。

 

あんぱんの元祖、東京・銀座「木村屋総本店」の洗練されたあんぱんとは対極に位置するあんぱんの重み。

f:id:yskanuma:20170323081218j:plain

 

1個を一人で食べるにはあんこ好きでも相当の気力が必要。なので、1個を何人かで切り分けて食べることをお勧めしたい。

 

パラダイスはみんなで分け合うことが大事

 

ということを思わせてくれる、あんこ好きにとっては稀有なあんぱん、であることは間違いない。

 

 所在地 東京・江東区大島7-2-1 

最寄駅 都営地下鉄新宿線大島駅

 

 

 

            f:id:yskanuma:20170323081241j:plain