今回の西日本あんこ旅の目的の一つが水の都・松江(島根)。
京都・金沢に続く和菓子の三大エリア。大名茶人・松平不昧(松江藩七代目藩主 松平治郷)によって広められた和菓子文化が今も脈々と生きている街。

私にとってはふた昔前、雑誌社と一緒に取材して以来の着地となった。
和菓子好きの間ではよく知られたいぶし銀の名店が多い。
で、今回。
単にメディアへの露出という意味では「隠れた名店」(それも飛び切りの)の部類に入るかもしれない。
なので、私にとってはインクレディブルな出会いとなった。

風情豊かな堀川沿いにややくすんだサーモンピンク色の壁の蔵造りの立派な建物が見えてくる。
「風月堂」の屋号が歴史と風雪を感じさせ、私のあんココロに突き刺さってきた。
どこか明治⇒大正⇒昭和のモダンも感じる。

引き戸を滑らせてから足を踏み入れたら、棟方志功が書いた「風月堂」の墨文字が出迎えてくれた・・・そんな気分。

時間が止まったままのような、年季の入った店内と木枠の菓子棚。京都「亀末廣」にも通じるセピア色の世界。すごい、としか言いようがない。
★ゲットしたキラ星
八雲小倉(一棹) 1800円
萬寿(円形) 400円
萬寿(楕円型) 400円
最中 250円
※すべて税込み価格です。

【センターは?】
最中(もなか):備中大納言小豆の恐るべあんこ力
品数はそう多くはないが、どれをセンターにするか迷うほどのスグレモノ揃い。

本来なら見事な小倉餡の棹菓子「八雲小倉」をセンターにすべきかもしれないが、今回は「もう一つの定番」最中を選んだ。

自宅に戻ってからの実食。
「風月」の刻印入りの種(皮)の重厚な、隙のないつくりにまず「ほお~」が出て、手に乗せるとずしりと重い。

サイズは約60ミリ×60ミリ。重さは約53グラム。

種の上質な香ばしさ。
何よりも驚かされるのは中にぎっしり詰まった柔らかなつぶあん(備中大納言)のボリュームと質。
失礼して中を覗いて見たら、明るめの深い透明感とツヤ。目が吸い込まれそうになる。

前日の店の方の丁寧な応対と説明がよみがえる。
〈実食タイム)小豆は希少な備中大納言小豆にこだわり、代々伝わる製法(銅鍋)でじっくり炊いて、煮詰めている。
最初のアタックで吹き上がるような風味にやられてしまった。
塩気が強めで、それが絶妙な旨みに直結している。
素朴と洗練が見事に融合している。
私がこれまで食べた最中の中でもトップ5に入る、雑味のない味わい。
お世辞抜きで凄い最中に出会ってしまったよ。
●あんヒストリー
創業は明治19年(1886年)。現在5代目。初代がなぜ「風月堂」にしたかは不明。東京の風月堂とはつながりがないそう。3代目が中興の祖で、民芸運動を起こした河井寛次郎や柳宗悦などとも深い交流があり、棟方志功の書はそのつながりからのもののようだ。地場の最高の素材にこだわり、無添加づくりにこだわり、デパートなどの出店要請にも応じていない。その姿勢と味わいを愛するコアなファンも多い。

【サイドは】
八雲小倉:極上つぶあん(小倉餡)の棹菓子に驚かされる
備中大納言のあんこ(あずき羊羹)を独自のカステラ生地で贅沢にサンドした、この店の人気商品で、毎日一定数しかつくらないので、早い時間に売り切れることも多い。

サイズは約220ミリ×50ミリ。厚みも約50ミリ。重さは約490グラム。
上から見ると、手すきの和紙で焼いているカステラ生地の焼き模様(八雲)が古を感じさせる。

横から見ると、ごらんの通りの断層。あんこ好きにはたまらない、3層仕立ての誘惑。
包丁で切り分けてから口に運ぶと、主役の重量級あんこの素朴な風味が素晴らしい。

大粒の備中大納言の柔らかな粒粒感が口の中でほどけて、ぐんぐんと広がってくる。

塩気はあまり感じない。たまらない時間が流れる。
これはあんこ菓子の一つの到達点では?と言いたくなる。
萬寿:究極の素朴、2種類の大きな焼き菓子
ガラスのショーケースに納まっていた2種類の「萬寿」に見とれてしまった。

一つは楕円形で表面部に塗られた卵黄の焦げ茶の美しいテカリ。
もう一つは素材そのままの、陶器に例えると素焼きのような丸形の「萬寿」。
どちらも中は自家製こしあんで、店の方は「中身は同じです」とか。


翌日に自宅に戻ってからの実食となったが、小麦粉ベースの皮はやや固めだが、口に入れ歯を立てると、卵のほのかな風味とともに全体がゆったりと瓦解してくる。

ボリューミーなこしあんも希少な備中大納言小豆を使っている。
そのなめらかな舌ざわりとほどよい甘さがとてもいい。
後味のすっきりとした余韻。
上質な素朴、という言葉がぴったりくるような。
どちらも重さは100グラム前後。重量級。
どっしりと歴史を感じる重みに脱帽したくなった。
「風月堂」
所在地 島根・松江市末次本町97
