今回は京都のおはぎの話です。
あんこの魔都・京都には甘味処が星の数ほどあるが、歴史の沁み込んだ店構えや品書き、手間暇を惜しまない作り方、味わい・・・個人的にこれは別格、と心がときめいた甘味処は多くはない(なんだかエラソーだ)。
その最上位あたりでいぶし銀のオーラを放っているのが、甘味処「かさぎ屋」です。
創業が大正3年(1914年)。現在4代目。
清水寺が見える二寧坂の、そこだけ時間が止まったような、少し引っ込んだ一角に黒地の長暖簾を下げ、「甘党 かさぎ屋」の小さな旗が青空に凛と揺れる。
まるで見えないあんこの結界でも張られているようなタイムスリップ感。大正・昭和の、古いが清楚な店構え。
長暖簾をくぐると、そう広くない店内は驚くほど静か。ホッとする。
約5年ほど前、ここで「亀山」(汁なし丹波大納言ぜんざい)を食べ、このブログに書いたら、予期しない反響が起き、びっくり仰天したことがある。
そのとき「三色おはぎ」を食べれなかったことが悔やまれ(売り切れていた)、今回、そのリベンジ(リアンコ)を果たしに(?)午前11時に入店した。
【センター】
三色おはぎ:小豆、こしあん、白あんのそろい踏み
今回はスムーズに進んだ。
年季の入った、きれいに磨かれた木のテーブル。お客は他に数人ほど。
ほうじ茶付きで850円(税込み)。
京都あんこ旅は特に胃袋との闘いでもある。短い時間で余力を残しながら、食べ歩かなければならない(欲張りなので)。
なので、今回はこの三色おはぎ一本勝負となった。
その一 まずはこしあん。
おはぎのサイズはそれほど大きくはなく、小さくもなく、ほどよい。
しっとりとみずみずしいこしあんで、半殺しのもち米が小さく感じるほど厚みが十分にある。
北海道産小豆をかまどでじっくりと炊いていて、それを丁寧に漉している。
かまど炊きは代々続くこの店の流儀(東寺近くの『巴屋』も確かかまど炊きだった)。
〈味わい〉舌に密着するような滑らかなこしあん。甘すぎず辛すぎず。いい小豆のそよ風が吹く。
半殺しのもち米は柔らかくピュアな風味がすっくと立ちあがってくる。
余韻の長さ。きれいな味わいにしばし時間を忘れる。
その二 丹波大納言あずきに箸が向かう。
ふっくらと濃密に炊かれた丹波大納言のテカリに目が吸い込まれる。
5年前に来たときは砂糖は確か上白糖と聞いた気がするが、このテカリはあるいは純度の高い氷砂糖を使っているかもしれない。
そう思って、確認のため電話取材したら、「普通の砂糖です」とのこと。
このテカリ、製法に代々伝わる秘伝が隠れているに違いない。
●あんポイント 腹切れが少ないことから「大納言」(一説では公家は腹を切ることはしないことから大納言小豆と命名された)と呼ばれる大粒の特上小豆だが、その分、皮が硬めなので、柔らかく炊くには長い時間が必要。中でも丹波大納言は主に京都や兵庫(丹波地方)で収穫され、小豆界の最高峰といわれる。
〈味わい〉丹波大納言の風味がため息が出るほどすごい。大粒の一粒一粒にあんこの神様が宿っているような・・・オーバーかもしれないが、そんな感触。
半殺しのもち米も柔らかい。
小豆の旨味がここまで爆発的に広がるおはぎはそうはないと思う。
上生菓子屋の洗練とはひと味違う、もう一つの京都あんこワールド。
蜜が滴るようなあんこだが、これは隠れた絶品だと舌を巻きたくなった。
その三 白小豆の白あん(季節限定)。
白あん(漉し)のおはぎは珍しい。一般的には三色目はきな粉だが、かさぎ屋では白あん(4月からはきな粉になるようだ)。
〈味わい〉これもしっとりと舌になじみ、雑味のないきれいな風味が来る。
北海道産手亡豆と思っていたが、希少な「備中白小豆」を炊いているそう。こだわりの凄みもまた。
控えめな甘さで、白あんのいい余韻がしばらく舌の上にとどまる。
☆はみ出しメモ
▼大正ロマンの画家・竹久夢二が、このかさぎ屋の常連だったことはあまり知られていない▼愛人の彦乃と二人でお汁粉などをよく食べていたそう▼店はほとんどその当時のままとか▼外国人観光客もあふれる二寧坂周辺▼その一角で静かに初代からの伝統を守り続けているのは驚きでもある▼改めて京都の奥の深さを知る時間となった。
「かさぎ屋」
最寄り駅 祇園四条駅から歩約15分