【ここから始まった 発端】
今年5月、東京FMにゲスト出演したとき、パーソナリティーのホラン千秋さんから「これから食べてみたい一品は?」と聞かれ、「川端道喜のあんこの入った粽(ちまき)ですね」と答えてしまった。
想定外の質問だったのと、ホランさんのきらめくオーラにドギマギ、京都和菓子界の頂上の一つに位置する「川端道喜(かわばたどうき)」の名前を出してしまった。冷や汗。
手に入りにくいのと、そう安くはない、さらに歴史がスゴすぎる、その三つでこれまで二の足を踏んできた。
7~8年前になるが、ようやく訪ねたら、運がないのか休みだったこともある。「予約が必要」ということさえ知らなかった。
なので、今回。
予約のために電話すると、敷居が高いという噂とは違って、応対がとてもよかった。
★あんポイント 川端道喜の創業は驚くほど古い。応仁の乱後、文亀・永正(はっきりしない)までさかのぼるようだ。戦国⇒江戸時代にかけて「餅屋」と自己規定している。現在が16代目。「とらや」に並ぶ禁裏御用の菓子司。明治維新後「とらや」は東京に進出しているが、川端道喜は京都から一歩も出ていない。ミラクルな孤高の店。
【たどり着く 展開】
コロナで3年ぶりの京都あんこ旅となったが、その目的の一つが川端道喜だった。
約500年間、一子相伝で粽(ちまき)をつくり続け、その中身がユニーク。材料が他の店とは違う。京都でもうるち米を蒸かしたものが一般的だが、川端道喜は吉野の本葛(ほんくず)を使って、「湯がく」という独特の製法を守っている。
なので、「御粽司(おんちまきし) 川端道喜」が正式な店名でもある。
何だかちょっと近づきがたい気もするが、予約した3日後、北山のお店に行くと、あまりにシンプルな店構えで、拍子抜けする。7~8年前と同じはずだが、入り口が少しだけ開いていて、人がいるのかどうかもわからない。「どうき」と染め抜かれた渋い長暖簾がどこか隠者のようで、ひょっとして今日も休みか?と不安になってしまった。
恐るおそる狭い店内に入って、名前を告げると、仕切り暖簾の向こうから店の方(女性)が出てきて「お待ちしてました」。如才ないほっこりする対応で、予約しておいた「羊羹粽(ようかんちまき)」(1束5本 税込み3900円)を受け取った。第2段階クリア。
店内に置いてあった赤鍋(銅鍋)があまりにきれいで、了解を取ってから、シャッターを押した。今使っているものとか。
賞味期限が「翌日まで」ということもあり、今回はあんこが練り込まれている「羊羹ちまき」だけをゲットした(フトコロ事情もあるが)。
【賞味タイム 舌の時間】
翌日の自宅。ぎりぎりの賞味となった。
ごらんの通り、円錐形の見事なちまきで、雑誌やネット写真で見たのと同じだが、笹の香りとイグサ(店の方は『いがら』とおっしゃってた)のきちっとした巻き方など、目の前の実物はスキがない。完ぺきなお姿。
店の方に教えてもらった解き方で、イグサを外し、5枚の笹をゆっくりと外す。
半透明の、藤紫色に近い本体が現れた。
あんこ界のかぐや姫みたい(妄想)。
約500年間、ほとんど変わらないはず(うるうる)。
はがした笹をお皿代わりにして、黒文字で切り、ゆっくりと口に運ぶ。
ぷるんとした吉野葛と練り込まれたこしあんが絶妙という言葉にくるまれてふわりと広がる(表現がおかしい)。
甘さはほのか。
材料は吉野の本葛、砂糖、餡だけ。
添加物などはない。
上質のこしあんがギリギリのところで本葛と一体になっている感覚。
これが一子相伝の秘伝のすごみ、かな。舌が追いつかない(汗)。
以前15代目が書いた「和菓子の京都」(岩波新書)で苦労話を読んだ記憶があるが、生半可な世界ではないのは確か。
舌触りがどこかみずみずしい。
笹のいい香りが伴走してくる。
淡い、どこかはかない、夢のような時間が舌の上にとどまっている。やがて余韻を残しながら、すーっと融けていく・・・。
おめえ、こんな贅沢してていいのか?
ここはやっぱりあんこの神様にかしわ手を打つほかはない。
●あん子の感想 プルプルしていて、見た目も美しい。しかもおいしい。やっぱりすごいわね。本来は端午の節句に食べるものでしょ? それが予約すればちゃんと食べれる。安くはないけど(笑い)。以前、編集長の京都の友人が日持ちする「葛湯・おしるこ詰め合わせ」を送ってくれたことがあったでしょ? あれもおいしかったけど、こちらは朝ナマの本物。ようやく本丸にたどり着いたってわけね。最初で最後かもね(笑)。
「御ちまき司 川端道喜」