京都のおはぎ、と言えば「今西軒」が真っ先に浮かぶ。
つぶあん、こしあん、きなこ。基本的にこの3種類しか売られていないが、早朝から行列が出来、京都おはぎ界の頂上に位置する名店と言っても過言ではない、と思う。
だが、約4年前のこと。私のあん友でもあり、骨の髄まで京都人のKさんが口を開いた。
「もう一軒、すごい店があるよ。口のうるさい老舗料理屋の女将が『今は巴屋(ともえや)やで。あそこは代替わりして味が落ちた』と言ってる。ま、あなたも一度行って食べてみるといい」。
京都人の陰口はほとんどビョーキ(?)だと思うが、舌は確かなので、これは行かねば、と私は秘密のあんこノートにメモしておいた。
で、今回。4年越しの、私にとっては幻だった「巴屋」へ。
今西軒ほどの行列はないはず、と思いながらも、「午前中、それも早い時間に売り切れもある」との情報もある。
数を多くつくらないので、売り切れごめんのおはぎ屋はん。
店は東寺の近くで、店が開くのは午前10時と比較的遅い(早朝からつくっているため)。
なので、早めにホテルを出て、午前10時50分に到着した。
路地に入ったところに地味系の町家があり、そこが目指す店だった。
「手造り おはぎ 巴屋」。小豆色の日除け暖簾が小さな店構えに似合っていた。
たまたまなのか、行列はない。ラッキーか?
そこだけ陽だまりの気配。
ポイントポイントに手書きの文字。ひょっとして初代からのもの?
・ゲットしたキラ星
つぶあん 1個150円(税込み)×2個
きなこ 同150円×1個
【センターは?】
あまりに素朴、あまりに丁寧、圧倒的なつぶあん
〈店の歴史〉
京都にはいい上菓子屋が多いが、いいおまん屋はん、餅屋はんも多い。
「巴屋(ともえや)」の創業は、思ったほど古くはない。
狭い入口(受け渡し場所)の向こう側が広めの板場になっていて、清潔そうな羽釜が3台。そこで2代目女将さんと息子さんの3代目がおはぎづくりの真っ最中だった。
熟練の手で美味そうなおはぎが次々に並べられていく。
なかなか見れない光景。
3代目は若く、如才ない、京都のいい部分を受け継いでいる印象で、来店した私に気づくと、いろいろと教えてくれた。
「店はかれこれ40年になります。もともとは私のおばあちゃんがたまたまあんこを造っていて、おはぎも売り始めた。最初はつぶあんだけでしたが、2代目の母がきな粉も始めたんですよ。なので、今はこの2種類だけです」
たった2種類だが、その手づくりおはぎ一筋の貫徹度がすごい。
〈賞味タイム〉
「朝ナマ」なので、賞味期限は本日中。
あちこち和菓子屋巡りをして、夕方4時にホテルに戻り、お茶を淹れてから、じっくりと味わうことにした。
センターをどちらにするか迷った。こういう時は無理に決めない。
まずはつぶあん。
今西軒より楕円形で、少し大きめ。
濃いあずき色。つぶと呉(小豆の中身)が絶妙に入り混じっている。
いい小豆の香りがゆるゆると立ち上ってくるようで、2代目の手の感触とともに、ある種のなつかしさを蘇らせるような。
3代目によると、あんこ炊きはほぼ半日がかりで、約10時間かけているそう。手造りあんこに懸ける熱が半端ではないことがわかる。
一見素朴な、よく見ると、つぶあんの陰にこだわりが透けて見える。
あんこももち米も羽釜で炊いているようだ。
小豆は北海道産、もち米は滋賀産の羽二重を使用。砂糖は?と聞くと「上白糖です」。塩もほんの少し使っているとか。「材料はそれだけです」(3代目)。
口に入れたとたん、つぶあんの鮮度と吹き上がる風味に圧倒されてしまった。
甘さのほどよさ、ふくよかさ、しっとり感。塩気はほとんど感じないほど。
羽二重もち米のピュアな風。
素朴だが、これはすごいね。
今西軒の洗練とはひと味違う、京都の底力を思い知らされる味わい・・・。
続いて、きなこ。
甲乙つけがたいが、どちらが好みと問われたら、タッチの差で「きなこ」かな(たまたまフィットしたかも)。
きなこの色が薄め。「特別なきな粉だから」とか。大豆の皮を取ってからきな粉に仕上げているそう。特注品(専門店から)のようだ。
きなこの風味がきれい。
驚くべきは中にぎっしりと詰まったつぶあん。
同じ自家製つぶあんだが、その厚みと淡いきなことのハーモニーがとてもいい。
あんこの粒々感が絶妙で、小豆の形がギリギリのところで柔らかく残っていて、舌の上でゆっくりと舞い踊る。そんな感じ。
1∔1=3の味わいを作り上げている、と言いたくなる。
大店の上菓子屋の陰(路地裏)に、こういうおはぎ専門店がこじんまりと暖簾を下げている。
あくまで個人的な感想だが、どこかの女将のように「今西軒を超える」とまでは言い切れないが、私のあんこハートがときめいたのは確か。
洗練と素朴。好みもある。
これでこしあんがあればなあ、と贅沢な願いもある。
それにしても、とため息まじりにつぶやくしかない。
京都は奥が深すぎる。
「おはぎ巴屋(ともえや)」
所在地 京都市南区八条内田町76