金沢あんこ旅で出会った和菓子の中で、もっとも驚かされたのが、寺町にある「戸水屋(とみずや)」の「まきだんご」です。
まきだんごって何だ?
何はともあれ、写真を見ていただきたい。
素朴なつぶしあんがびっしり! 見た目は大きなおはぎだが、中身が柔らかな濃いよもぎだんご(餅)で、その破壊的(?)な存在感に圧倒される。
金沢のユニークな郷土生菓子で、明治時代以前から存在しているらしい(諸説ある)。
ほかにも同じものを作っている和菓子屋さんもあるが、戸水屋のものは「素朴と言う意味では別格の朝生菓子です。ベタなあんこ好きの方なら感動すると思います。すぐ売り切れるので早めに行った方がいいですよ」
タネを明かすと、宿泊先でたまたま知り合った和菓子ツウのおばさんからの情報。
「戸水屋」の店構え自体が明治・大正時代から抜け出てきたような、まるでモノクロの世界で、奥の板場からまんじゅうや餅を蒸かす水蒸気が見え、そこから昔ながらの生菓子職人の息遣いまでが伝わってくるよう。
2~4人の先客(多分地元の客)。注文を受けてから作っているのがわかった。
なので、待ち時間がかなり長い。焦ってはいけない。
頑固な朝生菓子の店で、20分ほどで、「お待たせしました」と若女将さん。
手には経木(きょうぎ)に包まれた大きなおはぎ、いやまきだんご。それをていねいに包装紙でくるんでいる。
開放的だが、やや暗めの受け渡し場所で、期待感がどんどん膨らむのがわかった。
・今回ゲットしたいぶし銀
まきだんご2個(税込み170円×2)
くずまんじゅう 1個(同150円)
酒まんじゅう 1個(同150円)
【本日のセンター】
「原始つぶしあん!」と叫びたくなったまきだんご
途中でお姿を見せた5代目店主は取りつく島もない対応で、それは忙しく働く、いい職人さん特有の沈黙と納得した。好感。
店の創業は嘉永元年(1848年)と言われているが、「古い資料がないので、はっきりとはわからない」と率直に話してくれたが、逆算すると、江戸時代末期創業なのは間違いない。
午前中に何とかゲットできたが、賞味期限が「本日中、それも早めに」なので、午後3時すぎにいったんホテルに戻り、いい木の香りの経木を開く。
大きさは目測で8~9センチ×6センチくらいか。おはぎとほとんど同じ外見だが、形はむしろ三角形に近い。
手に乗せると、ずしりと重い。つぶしあんの厚み。
驚くべきことに底の方がすでにかすかに乾きかけていた。ヒビまで見えている。
菓子楊枝(かしようじ)で何とか切ると、中から天然力満開のよもぎだんご(餅)が現れた。
●お味はどうか?
渋切りをまったくしていない? 北海道産小豆を「昔から代々伝わっている炊き方」(秘伝?)で炊き上げているので、小豆本来のえぐみのようなものまで舌に伝わってくる。時間が止まったまま。
塩気が強め。甘さは押さえていて、ほっこりと昔ながらのあんこが口の中にあふれるように広がる。
洗練ではない、どこか懐かしい、小豆の包容力にしばし目をつむりたくなる。
「学校で習ったわけでもない。昔からずっと続いているやり方をそのままやっているだけ。それだけ。詳しいことは企業秘密です」
何とかほんの少しだけ5代目の話を伺うことができたが、これ以上聞くのは野暮だと教えられた気がする。黙って味わえ。聞きたがりの反省ザル(笑)。
つぶしあんの存在感があまりに圧倒的なので、中のよもぎ餅(米粉なのでだんご?)の印象は強くないが、濃いよもぎの風味が後からほんのり来る。
・あんポイントメモ
まきだんごの由来はよくわからない。金沢では昔から主に端午の節句に食べる習わしがあるが、北陸は寒さで笹が育たないので、粽(ちまき)が作れず、真木(まき)の葉で代用したとか、あんこで巻くのでまきだんごになったとか、諸説ある。店によっては「まき餅」とも呼ぶ。
【セカンドはくずまんじゅう】
戸水屋のくずまんじゅうは本葛を使わず、馬鈴薯(ジャガイモ)のデンプンをストレートに使っている。へえ~という作り方。
「昔からうちは馬鈴薯です。昔はみんなこうでした。だから冷やして食べるのではなく、蒸かし立てを、温かいうちに味わってほしい」
くずまんじゅうを温かいまま食べたほうがうまい、という食べ方は初めて。
本来なら店先で食べたいところだが、そうもいかず、食べたのは約4時間後。もちろん冷やさずに。
オーバーに言うと、こんにゃくのような食感で、中は塩気の強いつぶしあん。
みずみずしいプルプルのくずまんじゅうをイメージすると、期待外れかもしれないが、何だか忘れかけていた素朴が口の中で広がる感覚。
窓からの光が差し込むと、厚めのくず皮は水晶のような屈折を見せ、中の赤茶色のつぶしあんとよく合っていると思う。
・サードは酒まんじゅう
糀(こうじ)の香りがふわりと来る、あまりに素朴な味わい。中のつぶしあんはまきだんごと同じものだと思う。なので、個人的にはまきだんごほどの感動は来なかった。
「戸水屋」
所在地 石川・金沢市寺町2-3-1
最寄り駅 循環バス寺町2丁目下車歩3~4分
※JR金沢駅から歩くと約30~40分